自社株式を後継者に引き継ぐとき、大きな壁になるのが贈与税・相続税の負担です。業績の良い会社ほど株式の評価額は高くなり、後継者が納税資金を用意できずに承継が進まない——そうした事態を防ぐために設けられているのが「事業承継税制」です。とりわけ特例措置は、非上場株式にかかる贈与税・相続税の納税が全株・100%猶予される強力な制度ですが、その活用には2027年に迫る2つの期限があります。本稿では、制度の仕組みと期限、注意すべきリスク、そしてM&A(第三者承継)との比較までを整理してご説明します。
事業承継税制とは|贈与税・相続税の納税猶予制度
事業承継税制(法人版)は、後継者が先代経営者から非上場株式を贈与または相続によって引き継いだ場合に、その株式にかかる贈与税・相続税の納税が猶予される制度です。都道府県知事の認定を受け、後継者が代表者として経営を継続するなど一定の要件を満たしている間、納税が猶予され続けます。
ここで大切なのは、この制度が「免除」ではなく「猶予」だという点です。猶予された税額は消えてなくなるわけではなく、後継者がさらに次の世代へ株式を承継したときや、後継者が死亡したときなど、一定の事由に至った段階ではじめて免除へとつながります。逆に、途中で要件を満たさなくなれば、猶予されていた税額の納付が求められます(詳しくは後述します)。
つまり事業承継税制は、「親族内や社内に、株式と経営を引き継ぐ後継者が明確にいる」ことを前提に、承継時の税負担を先送り・軽減するための制度だと理解いただくとよいでしょう。
特例措置と一般措置の違い|全株・猶予割合100%
事業承継税制には、従来からある「一般措置」と、時限的に設けられた「特例措置」の二つがあります。特例措置は一般措置に比べて適用範囲が大きく設計されており、主な違いは次のように整理できます。
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 対象株式 | 全株式が対象 | 対象に上限あり |
| 納税猶予割合 | 100% | 税目により猶予割合に制限あり |
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出が必要(提出期限2027年9月30日) | 不要 |
| 適用期限 | 2027年12月31日までの贈与・相続等 | 期限の定めなし |
特例措置を使えば、対象株式の全株について納税が100%猶予されるため、承継時の税負担を実質的にゼロに近づけたうえで経営をバトンタッチできます。一方で、特例措置は恒久的な制度ではなく、次にご説明する期限が区切られています。
2027年の2つの期限|特例承継計画と適用期限
特例措置の活用を検討するうえで、必ず押さえておきたい期限が二つあります。
①特例承継計画の提出期限:2027年9月30日
特例措置の適用を受けるには、後継者や承継までの経営の見通しなどを記載した「特例承継計画」を、あらかじめ都道府県に提出しておく必要があります。この提出期限が2027年9月30日です。計画の提出自体は承継の実行を義務づけるものではないとされていますので、「使うかどうか迷っている」段階でも、まず計画を提出して選択肢を確保しておくという考え方があります。
②特例措置の適用期限:2027年12月31日
特例措置の対象となるのは、2027年12月31日までに行われる贈与・相続等です。計画を提出していても、承継の実行がこの期限に間に合わなければ特例措置は使えません。
株式の承継には、後継者の育成や社内体制の整備、株式の評価と移転方法の検討など、相応の準備期間が必要です。2027年の期限から逆算すると、検討は早いに越したことはない、というのが実務的な感覚です。
猶予が取り消されるリスク|「免除」ではなく「猶予」
事業承継税制を検討する際、メリットとあわせて必ず理解しておきたいのが、猶予の取消(打ち切り)リスクです。納税猶予は要件の継続充足が前提であり、一般に、次のような事由に該当すると猶予が打ち切られ、猶予されていた税額を利子税とあわせて納付することが求められるとされています。
- 後継者が代表者を退任するなど、経営の継続要件を満たさなくなった場合
- 対象株式を譲渡・売却した場合
- 会社が解散した場合や、資産管理会社に該当することとなった場合など
- 継続届出書など、定められた報告・届出を怠った場合
つまりこの制度は、適用を受けて終わりではなく、その後も長期にわたって要件を管理し続ける必要があります。将来、後継者が会社を第三者に売却したくなったときに、猶予税額の納付が制約になる可能性があることも含めて、長い時間軸で検討すべき制度です。適用後の運用も含め、認定支援機関や税理士等の専門家の継続的な関与が欠かせません。
M&A(第三者承継)との比較|後継者がいない場合は対象外
ここまでお読みいただくとお分かりのとおり、事業承継税制は「株式と経営を引き継ぐ後継者がいる」ことが大前提の制度です。お子様など親族にも、役員・従業員にも承継の意思を持つ後継者がいない場合、そもそもこの制度を活用することはできません。
後継者が不在の場合に会社の存続と従業員の雇用を図る現実的な選択肢が、M&Aによる第三者承継です。両者は「どちらが得か」を比べるものではなく、後継者の有無という前提条件によって進む道が分かれる関係にあります。
| 項目 | 事業承継税制(親族内・社内承継) | M&A(第三者承継) |
|---|---|---|
| 前提 | 承継する後継者がいること | 後継者がいなくても可能 |
| 株式の対価 | 贈与・相続では原則として対価なし | 譲渡対価を受け取れる(創業者利益) |
| 税負担 | 贈与税・相続税を猶予(要件の継続充足が必要) | 株式譲渡益に20.315%の申告分離課税 |
| その後の管理 | 要件管理と届出が長期に続く | 譲渡・納税をもって完結 |
M&Aの場合、オーナー様は株式の譲渡対価を受け取り、譲渡益に対して20.315%の申告分離課税で納税すれば完結します。税金の詳細は「会社売却にかかる税金|株式譲渡益課税と手取り額の考え方」を、親族承継・社内承継・M&Aの三つの選択肢の比較は「後継者不在の解決策としてのM&A」をご覧ください。
どう判断するか|検討の順序と相談先
事業承継税制とM&Aのどちらを軸に据えるかは、次の順序で考えると整理しやすくなります。
- 第一に、株式と経営を引き継ぐ意思と適性のある後継者がいるかどうかを見極める
- 後継者がいるなら、事業承継税制の活用を視野に、特例承継計画の提出(2027年9月30日期限)を検討する
- 後継者がいない、または迷いがあるなら、M&A(第三者承継)の可能性を並行して情報収集する
- いずれの場合も、税務は税理士等、承継全体の設計は事業承継の専門家と早めに相談する
実際には、「息子は継がないと言っているが、幹部社員なら」「税制を使うつもりだったが、後継者候補が辞退した」など、前提が途中で変わるケースも少なくありません。だからこそ、一つの選択肢に絞り込む前に、複数の道を並べて検討しておくことに意味があります。
当社プラチナパートナーズは、後継者不在に悩む経営者様の第三者承継(M&A)をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。「まだM&Aと決めたわけではない」という段階のご相談も歓迎です。事業承継の選択肢の全体像は事業承継のご案内ページにまとめていますので、あわせてご覧ください。