「売上3億円の会社なら、だいたいいくらで売れますか」——ご相談で最も多く受ける質問のひとつです。率直に申し上げると、売上規模から価格を導くことはできません。ただ「分かりません」で終わる話でもありませんので、本稿では、なぜ売上では決まらないのか、では何で決まるのか、自社の目安を知るには何を見ればよいのかを整理します。評価手法そのものは「企業価値評価の3つの方法」をご覧ください。

先にお伝えしておくこと|公表された相場は存在しません

最初に、はっきりさせておきたいことがあります。中小企業のM&Aについて、業種別の平均譲渡価格や売上倍率といった信頼できる公表値は存在しません。

理由は単純で、中小企業の譲渡のほとんどが非公開だからです。上場企業の買収であれば価格が開示されますが、非上場企業同士の取引は当事者以外に知らされません。集計できるだけの母数が公の場に出ていないのです。

したがって、当社は「この業種なら◯倍」「平均◯千万円」といった数値を出しません。根拠のない数字をお伝えすることになるためです。もしそうした数字を見かけた場合は、何を母集団として、誰が、いつ集計したものかを確かめてください。

よく見かけるのは、特定の仲介会社が自社の取扱案件を集計した数字です。それ自体は嘘ではありませんが、その会社が扱う案件の傾向を示すにすぎません。規模の大きい案件を中心に扱う会社と、小規模を数多く扱う会社では、出てくる数字が違って当然です。御社に当てはまる保証はありません。

なぜ売上では決まらないのか

買い手が支払う対価は、突き詰めればこれから生み出されるキャッシュに対する対価です。売上はその入口にすぎません。

同じ売上3億円でも、次の2社はまったく違う評価になります。

A社B社
売上3億円3億円
営業利益3,000万円300万円
借入金なし2億円
売上の中身継続契約が7割単発の受注が大半
取引先分散している1社で6割
社長の関与営業も製造も任せられる主要顧客は社長が担当

売上という一つの数字だけが同じで、収益力も、負債も、継続性も、引き継ぎやすさも違います。価格が同じになるはずがありません。

では何で決まるのか

実務では、次のような要素が価格に効きます。

  • 実質的な利益——役員報酬や私的な経費を調整した後の、実際の稼ぐ力
  • 純資産——資産から負債を引いた、会社に残っている財産
  • 借入金——当社の報酬基準にも関わりますが、価格そのものにも直接影響します
  • 継続性——来期以降も同じ収益が見込めるか
  • 引き継ぎやすさ——社長がいなくても回るか
  • 買い手にとっての意味——その買い手が何を必要としているか

最後の項目が、実は最も価格を動かします。同じ会社でも、買い手によって評価は変わります。許認可が欲しい買い手、人材が欲しい買い手、地域の拠点が欲しい買い手では、支払える額が違うためです。この点は「シナジー効果とは」で扱っています。

もうひとつ、見落とされがちなのが「いつ売るか」です。業績が上向いている局面と、落ちている局面では説明のしやすさが違います。ただし、これは業績を作りにいくという意味ではありません。実態を正しく説明できる状態にしておく、というだけの話です。直前の数字合わせは、デューデリジェンスで必ず見抜かれます。

規模が影響する場面もある

とはいえ、規模がまったく関係ないわけではありません。次のような形で影響します。

買い手の数が変わります。規模が小さいほど買い手候補は増える傾向がありますが、資金力のある買い手は大きな案件を選ぶこともあります。逆に規模が大きいと候補は絞られますが、真剣度は上がります。

手数料の割合が変わります。M&A仲介の成功報酬には最低額が設けられているのが一般的で、当社の場合は2,000万円(税別)です。譲渡価格が小さいほど、対価に対する手数料の比率は高くなります。この点は事前にご確認ください(「最低手数料はなぜあるのか」)。

進め方が変わります。小規模であればデューデリジェンスの範囲も限定的になり、期間も短くなる傾向があります。

自社の目安を知るには

一般論の相場を探すより、自社の数字を当てはめて試算するほうが早いです。次の3つを用意してください。

  • 直近3期分の決算書(勘定科目内訳明細書を含む)
  • 役員報酬・保険料・私的な経費など、調整すべき項目の一覧
  • 借入金の残高と、返済予定

これらがあれば、実質的な利益と純資産から、おおよその範囲を出すことができます。一点の金額ではなく、幅として出るのが正しい姿です。幅が出たら、その幅がなぜ生じるのかを説明してもらってください。

当社では、相談料・着手金・月額報酬0円でこの試算を行っています。ご自身で概算を確かめたい場合は「企業価値算定シミュレーター」もご利用いただけます。

まとめ|数字が欲しいときほど、幅で考える

要点を整理します。

  • 中小M&Aの業種別平均価格・売上倍率といった信頼できる公表値は存在しない
  • 売上は入口にすぎず、価格を決めるのは収益力・負債・継続性・引き継ぎやすさ
  • 最も価格を動かすのは「その買い手にとっての意味」
  • 規模は、買い手の数・手数料の比率・進め方に影響する
  • 一般論を探すより、自社の決算書で試算するほうが早い

一点の金額を提示されたら、その根拠を必ず尋ねてください。幅で示し、幅の理由を説明できることが、まともな試算の条件だと考えています。

よくあるご質問

A.母集団と出典を確かめてください。中小企業の譲渡は非公開が原則のため、業種別の倍率を統計として集計できるだけのデータは公になっていません。特定の会社が自社の取扱案件を集計したものであれば、その会社が扱う案件の傾向を示すにすぎず、御社に当てはまるとは限りません。
A.つく場合があります。買い手が見ているのは過去の損益だけではなく、役員報酬などを調整した後の実質的な収益力、許認可、人材、顧客基盤、そして自社と組んだときの効果だからです。ただし、赤字の原因が構造的なものか一時的なものかで評価は変わります。「赤字企業でも売却できる?」もご覧ください。
A.当社は相談料・着手金・月額報酬を0円としており、ご相談の段階でご契約を急がせることはありません。試算の結果、譲渡以外の選択肢をおすすめすることもあります。まずは現状をお聞かせいただければと思います。

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御社の数字で、幅をお出しします。

一般論の相場ではなく、決算書をもとにした試算をお伝えします。相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら