いきなり全株式を手放すのではなく、まず一部を譲渡し、引き継ぎの状況を見ながら残りを譲渡する。中小企業のM&Aでは、こうした段階的な進め方が取られることがあります。売り手にとっては引き継ぎを見届けられる、買い手にとっては段階的に関与を深められるという利点がある一方、税務上は「それぞれの譲渡を、それぞれの年分として申告する」ことになります。本稿では、その考え方と注意点を整理します。

※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。税制は改正によって変わるため(本稿の記載は2026年8月時点の制度に基づきます)、適用関係は個別の事情によって異なります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の情報をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。

どんなときに段階的な譲渡になるのか

段階的な譲渡が選ばれるのは、次のような事情があるときです。

  • 売り手が一定期間、経営に関与して引き継ぎを行う前提になっている
  • 買い手が、まず資本業務提携として少数の株式を取得し、関係を深めてから全株取得に進みたい
  • 買い手の資金調達の都合で、一度に全株を取得することが難しい
  • 複数の株主がいて、合意が整った方から順に譲渡していく

いずれの場合も、一度目の譲渡の時点で、二度目以降の条件をどこまで決めておくかが実務上の勘所になります。価格の決め方、時期、条件が曖昧なままだと、後で交渉がこじれるおそれがあります。

また、段階的な譲渡は、売り手が経営権を手放すタイミングと、対価を受け取り終えるタイミングがずれることを意味します。その間の会社の業績や関係の変化が、残りの株式の価値に影響し得ます。

税務上は、年ごとに計算する

株式の譲渡所得は、譲渡があった日の属する年分の所得として計算します。したがって、譲渡が複数の年にまたがれば、それぞれの年で申告が必要になります。

各年の計算は、その年に譲渡した株式に対応する収入金額から、その株式に対応する取得費と譲渡費用を差し引いて行います。税率は、いずれの年も所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計20.315%です。

ここで注意したいのが、取得費の対応関係です。保有している株式のうち一部だけを譲渡する場合、その譲渡分に対応する取得費をどう計算するかというルールがあります。取得の経緯が複数にわたる場合はとくに整理が必要になりますので、税理士に確認しながら進めてください。

また、譲渡費用についても、どの年の譲渡に対応する支出なのかを整理しておく必要があります。仲介会社への報酬が一度の支払いである場合、その扱いをどうするかは実務上の論点になります。

年を分けることによる影響

譲渡益が複数年に分かれることは、いくつかの面で影響があります。

  • 各年の所得金額が分散するため、所得金額に応じて判定される制度の適用関係が変わり得る
  • 住民税や国民健康保険料の負担が、複数年度にわたって生じる
  • その年ごとに適用される税制が異なり得る
  • 納税資金の準備も、年ごとに必要になる

一つ目については、いわゆるミニマムタックスのように所得金額を基準に適用される制度があります。2025年分の所得からは特別控除額3.3億円・税率22.5%で適用され、2027年分の所得からは特別控除額1.65億円・税率30%へと強化されることとされており、株式の譲渡については2026年12月31日までに譲渡契約を締結した場合に現行制度が適用される経過措置が設けられています。段階的な譲渡では、どの年に、どの契約で譲渡するかが適用に関わり得ます。

二つ目も実務上は重要です。住民税は譲渡した年の翌年度に課税されますので、譲渡が二年に分かれれば、翌年度・翌々年度と続けて負担が生じます。詳しくは「譲渡した翌年の住民税・社会保険料」をご覧ください。

残りの株式の価格を、どう決めるか

段階的な譲渡で最大の論点は、二度目以降の価格です。決め方には、あらかじめ金額を固定しておく方法、将来の業績に連動させる算式を定めておく方法、その時点で改めて協議すると定める方法などがあります。

固定しておけば予測は立てやすい一方、その間に会社が大きく成長しても価格は変わりません。業績に連動させれば公平に見えますが、算式の設計次第で結果が大きく変わり、後から争いになることもあります。協議とすれば柔軟ですが、合意できないリスクが残ります。

売り手が少数株主として残る期間は、立場が弱くなりがちであることも意識しておく必要があります。経営権が買い手に移った後は、会社の方針決定に関与しにくくなり、残りの株式の価値も買い手の経営方針に左右されます。

だからこそ、一度目の契約の段階で、二度目以降の枠組みをできる限り明確にしておくことが売り手を守ります。契約条件の設計については、弁護士・税理士と連携しながら進めてください。

手数料と、全体の手取りの見方

段階的な譲渡では、仲介会社の報酬の考え方も確認しておく必要があります。当社の成功報酬は、移動総資産(株式価値+負債総額)を基準とするレーマン方式で、最低報酬額は2,000万円(税別)です。相談料・着手金・月額報酬は0円で、基本合意時にお支払いいただく中間金は成功報酬額の10%です。中間金は成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。

手取りの全体像を把握するには、各回の譲渡について「対価 − 譲渡費用 − 税金」を計算し、時系列で並べてみることです。年ごとに納税の時期が来ますので、いつ、いくら必要になるのかを一覧にしておくと、資金計画が立てやすくなります。

また、段階的な譲渡では、最後まで完了して初めて当初想定した総額に届きます。途中で条件が崩れる可能性も踏まえ、一度目の対価だけで生活設計が成り立つかどうかも確認しておくと安心です。

まとめ|分けて売るなら、最初に枠組みを決める

株式を複数回に分けて譲渡する場合、税務上はそれぞれの譲渡を、それぞれの年分の所得として申告します。取得費の対応関係、譲渡費用の整理、年ごとの納税と住民税の負担など、確認すべき点は一括譲渡より増えます。

実務面では、二度目以降の価格と時期の枠組みを、一度目の契約の段階でどこまで明確にできるかが要点です。経営権が移った後の少数株主の立場は弱くなりがちであることを踏まえ、契約で手当てしておく必要があります。

当社では、段階的な譲渡の設計についても、税理士・弁護士と連携しながらご相談を承っています。まずはご希望の進め方をお聞かせください。

よくあるご質問

A.それぞれの譲渡があった日の属する年分の所得として、各年で申告します。各年の計算は、その年に譲渡した株式に対応する収入金額から、対応する取得費と譲渡費用を差し引いて行います。
A.株式の譲渡所得の税率は合計20.315%で、所得の大きさによって自動的に変わるものではありません。ただし、所得金額を基準に適用される制度もありますので、影響の有無は個別の事情によります。必ず税理士にご確認ください。
A.金額を固定する、業績に連動する算式を定める、その時点で協議すると定めるなどの方法があります。経営権が移った後は売り手の立場が弱くなりがちですので、一度目の契約の段階で枠組みを明確にしておくことをおすすめします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら