会社を売却して大きな譲渡所得が生じると、その年の所得税・住民税の計算だけで話が終わるわけではありません。影響はその翌年にも及びます。とくに、退任して国民健康保険に切り替わる方や、すでに年金生活に入っている方にとっては、翌年の負担が想定外の大きさになることがあります。

本稿では、譲渡した翌年に効いてくる負担を整理します。金額は自治体や個々の状況によって大きく異なるため具体的な数字は挙げませんが、「何が影響を受け得るか」を知っておくだけでも準備は変わります。具体的な計算は、必ず税理士やお住まいの自治体にご確認ください。

※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。記載は2026年8月時点の制度に基づきます。制度は税制改正により変わり、適用関係は個別の事情によって異なります。具体的な適用は必ず税理士にご確認ください。

譲渡した年ではなく「翌年」に効いてくるもの

日本の税・社会保険の制度には、前年の所得を基礎として翌年の負担を決める仕組みが多くあります。代表的なものが住民税と、国民健康保険料などの保険料です。

会社売却で数千万円、数億円という譲渡所得が発生した場合、その年は「売却代金が入った年」ですが、翌年は「所得が大きかった年の翌年」として扱われます。売却代金を使ってしまった後で負担が来る、という順序になり得るのです。

したがって、手取りを考える際には「翌年の負担まで含めて、いくら手元に残しておくか」という視点が必要になります。

住民税|20.315%の一部だが、納め方が異なる

まず整理しておきたいのが、住民税の位置づけです。個人株主の株式譲渡益に対する税率20.315%は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計です。つまり、住民税5%はこの20.315%の内訳に含まれており、これとは別に追加でかかるものではありません。

誤解が生じやすいのは、納めるタイミングです。所得税は譲渡した年の翌年の確定申告で精算しますが、住民税は前年の所得に基づいて翌年度に課税されるのが基本的な仕組みです。給与から天引きされていた方が退任した場合、退任後は納付書で自分で納める形(普通徴収)に切り替わることもあります。

「所得税は払い終えたつもりだったのに、その後に住民税の通知が届いて驚いた」というのは、実際によく聞くお話です。金額そのものは予測できるものですから、納付の時期を事前にカレンダーに落としておくことが最も確実な対策になります。

確定申告の手順は「株式売却後の確定申告」、納税資金の準備は「納税資金をどう準備するか」で解説しています。

国民健康保険料・後期高齢者医療保険料への影響

より見落とされやすいのが、健康保険にかかる負担です。ポイントは、加入している制度によって影響がまったく違うことです。

会社の健康保険(被用者保険)に入っている場合

役員報酬などに基づく標準報酬月額で保険料が決まる仕組みのため、株式の譲渡所得があっても、直接に保険料が上がるものではないのが一般的です。

国民健康保険・後期高齢者医療制度の場合

これらの保険料は、前年の所得を基礎として算定されます。申告分離課税の譲渡所得も、算定の基礎に含まれ得ます。そのため、譲渡した翌年度の保険料が大きく上がる可能性があります。保険料には上限が設けられていますが、その上限に達する水準まで上がることも十分に考えられます。

影響を受けやすいのは、退任して会社の健康保険から国民健康保険に切り替えた方、すでに国民健康保険や後期高齢者医療制度に加入している方です。保険料の算定方法や上限額は自治体・制度によって異なりますので、お住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

介護保険料と、医療費の自己負担割合

健康保険料と同じ理屈で、次のような負担も前年の所得の影響を受けることがあります。

  • 介護保険料:65歳以上の方の保険料は、所得段階に応じて決まる仕組みが取られています。前年の所得が大きければ、段階が上がる可能性があります。
  • 医療費の窓口負担割合:一定の年齢以上の方については、所得の水準に応じて窓口での自己負担割合が変わる仕組みがあります。
  • 高額療養費の自己負担限度額:所得区分に応じて限度額が定められているため、区分が変われば負担も変わります。
  • 各種の所得制限がある給付・助成:自治体独自の助成などで、所得制限が設けられているものがあります。

いずれも制度が細かく、判定の基礎となる所得の範囲も制度ごとに異なります。ご本人だけでなく、同じ世帯の方の負担に影響することもあります。該当しそうな場合は、売却の前に自治体や加入している制度の窓口で確認しておくことをおすすめします。

退任にあわせて社会保険が変わる場合の注意

会社売却にあわせて代表を退任される場合、社会保険の切り替えが同時に起こります。ここで確認しておきたい点を挙げます。

  • 健康保険の選択肢:これまでの健康保険を任意で継続する方法、国民健康保険に加入する方法、ご家族の被扶養者になる方法などがあります。保険料の計算方法が異なるため、どれが有利かは状況によります。
  • 切り替えの時期:譲渡所得が保険料の算定に反映されるのは翌年度です。切り替えの時期によって、影響を受ける年度が変わることがあります。
  • 被扶養者の要件:ご家族の被扶養者になる場合、収入に関する要件があります。譲渡所得の扱いは制度によって異なるため、事前の確認が必要です。
  • 年金:在職老齢年金など、就労状況によって受給に影響が生じる仕組みがあります。退任後の関与の仕方(顧問として残るかなど)とあわせて確認します。
  • 引き継ぎ期間中の処遇:M&A後に一定期間残る場合、その間の報酬の設計が社会保険にも影響します(「会社を売却した後の生活」)。

まとめ|翌年分まで含めて手元資金を残す

会社売却の影響は、譲渡した年で完結しません。住民税の納付、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の算定、介護保険料や医療費の自己負担割合——これらは前年の所得を基礎とするため、翌年に負担として現れます

金額は制度・自治体・ご家族の状況によって大きく変わりますので、本稿では具体的な数字を挙げていません。大切なのは、「翌年にも負担が来る」と知ったうえで、売却代金の使い道を決めることです。具体的な適用は必ず税理士やお住まいの自治体にご確認ください。当社では、手取りの見通しの整理から専門家との連携までお手伝いしています。

よくあるご質問

A.別途かかるものではありません。個人株主の株式譲渡益に対する20.315%という税率は、所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%の合計です。ただし、住民税は前年の所得に基づいて翌年度に課税される仕組みのため、納付の時期が所得税とずれる点には注意が必要です。
A.国民健康保険や後期高齢者医療制度の保険料は前年の所得を基礎として算定され、申告分離課税の譲渡所得も算定の基礎に含まれ得ます。そのため、譲渡した翌年度の保険料が上がる可能性があります。保険料には上限がありますが、算定方法や上限額は自治体・制度によって異なりますので、お住まいの市区町村でご確認ください。会社の健康保険に加入している場合は、標準報酬月額で決まるため直接の影響は生じないのが一般的です。
A.制度と自治体、ご家族の状況によって大きく異なるため、一律の目安をお示しすることはできません。確実なのは、売却前に税理士に翌年分まで含めた試算を依頼し、その金額を使わずに残しておくことです。売却代金の使い道を決める前に確認しておくことをおすすめします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら