基本合意が年末、クロージングが年明け。M&Aでは、こうした年をまたぐ日程になることが珍しくありません。このとき問題になるのが、株式の譲渡所得をどちらの年分として申告するのか、という点です。年分が変われば、申告の時期も、その年の他の所得との関係も、適用される制度も変わり得ます。本稿では、計上時期の考え方と、年またぎの案件で確認しておきたい点を整理します。

※ 本稿は一般的な税制の仕組みをご紹介するものであり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。税制は改正によって変わるため(本稿の記載は2026年8月時点の制度に基づきます)、適用関係は個別の事情によって異なります。実際のご検討にあたっては、必ず最新の情報をご確認のうえ、税理士等の専門家にご相談ください。

原則は「引き渡しがあった日」

資産を譲渡した場合の所得は、原則として、その資産の引き渡しがあった日の属する年分の所得として計算します。株式についても、権利が買い手に移転した日が基準になるのが基本的な考え方です。

一方で、譲渡に関する契約の効力が発生した日を基準として申告することが認められる場合もあります。つまり、契約日と引渡日が年をまたいでいる場合には、どちらの年分になるのかを確認する必要があるということです。

中小企業のM&Aでは、株式譲渡契約の締結と代金の決済・株主名簿の書き換えを同じ日に行うことも多く、その場合は論点になりません。問題になるのは、契約の締結から実行までに期間を置く場合です。許認可の承継、取引先の同意、金融機関との調整などに時間を要する案件では、この期間が数か月に及ぶこともあります。

どの日を基準とするかの判断は、契約の内容や実際の権利移転の状況によります。必ず税理士にご確認ください。

年分が変わると、何が変わるか

年分が一年ずれるだけで、次のような点が変わります。

  • 確定申告の時期(譲渡した年の翌年の2月16日から3月15日まで)
  • 住民税が課される年度と、その納付の時期
  • 同じ年に受け取る役員退職金や他の所得との重なり方
  • その年に適用される税制(改正の施行時期との関係)
  • 各種の所得控除の判定に用いられる所得金額

とくに四つ目は見過ごせません。制度の改正は施行の時期が定められており、どの年分に該当するかで適用される内容が変わることがあります。たとえばいわゆるミニマムタックスは、2025年分の所得から特別控除額3.3億円・税率22.5%で適用され、2027年分の所得からは特別控除額1.65億円・税率30%へと強化されることとされています。株式の譲渡については、2026年12月31日までに譲渡契約を締結した場合には現行制度が適用される経過措置が設けられています。

譲渡益が数億円規模になる案件では、この経過措置の適用の有無が手取りに大きく影響し得ます。詳しくは「ミニマムタックスとは」をご覧ください。

会社側の決算期との関係

売り手個人の年分とは別に、対象会社の事業年度という時間軸もあります。譲渡が事業年度の途中で行われると、決算や申告の実務に影響が出るほか、買い手のグループ方針によって決算期の変更が行われることもあります。

また、役員退職金を支給する場合には、会社の事業年度のどこで支給するかによって、会社側の損金算入の時期が決まります。個人側の退職所得が生じる年分とあわせて、時間軸を整理しておく必要があります。

決算期の途中での売却については「決算期の途中で売却するとどうなるか」で詳しく扱っています。個人の年分と会社の事業年度は別物ですので、混同しないように整理してください。

どちらの時間軸も、日程の調整によってある程度はコントロールできます。ただし、税負担だけを理由に日程を動かすと、交渉の勢いを損なうこともあります。

日程を動かすべきか、判断の考え方

「年内に締結したほうが有利なら、日程を前倒ししたい」というご相談をいただくことがあります。判断にあたっては、次の点を天秤にかけます。

  • 日程を動かすことで生じ得る税務上の差額
  • 準備を急ぐことによるデューデリジェンスや条件交渉の質への影響
  • 買い手側の社内手続き・資金調達の都合
  • 従業員や取引先への説明の段取り

税務上の差額が大きい場合には、日程の調整に一定の合理性があります。一方で、条件交渉を急いだ結果として価格や契約条件で譲歩することになれば、税金の差額を上回る損失になりかねません。

また、日程は売り手だけで決められるものではありません。買い手の事情もありますので、早い段階で希望を共有し、無理のない工程を組むことが現実的です。当社では、交渉の初期から日程の見通しを立て、税理士等と連携しながらご相談を承っています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。

契約書で確認しておきたい点

年をまたぐ案件では、契約書の書きぶりが後の整理に効いてきます。次の点を、締結の前に確認しておくことをおすすめします。

  • 株式の権利がいつ移転するのか、条項上明確になっているか
  • クロージングの前提条件が何で、いつ充足される見込みか
  • 代金の支払いの時期が、権利移転の時期とどう対応しているか
  • 株主名簿の書き換えをいつ行うか

これらが曖昧なままだと、申告の段階で「どちらの年分か」を判断する材料が足りなくなります。契約交渉の段階で税理士に契約書案を見てもらい、税務上の整理まで確認しておくと安心です。

当社の成功報酬は、移動総資産(株式価値+負債総額)を基準とするレーマン方式で最低2,000万円(税別)です。基本合意時の中間金は成功報酬額の10%で、成功報酬から全額を差し引きますが、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。日程の設計についても、あわせてご相談ください。

まとめ|年またぎは、早めに整理する

株式の譲渡所得がどちらの年分になるかは、原則として引き渡しがあった日を基準に判断し、契約の効力が発生した日を基準とすることが認められる場合もあります。年分が変われば、申告の時期、住民税の年度、他の所得との重なり、適用される制度が変わります。

とくにミニマムタックスの経過措置のように、契約の締結時期そのものが適用に関わる制度もあります。年末をまたぐ日程が見込まれる案件では、早い段階で税理士に相談し、日程の選択肢を整理しておくことをおすすめします。

ただし、税負担だけで日程を決めるのは危険です。条件交渉の質や買い手の事情も含めて、総合的に判断してください。当社でも、その判断をお手伝いしています。

よくあるご質問

A.原則として引き渡しがあった日の属する年分ですが、譲渡に関する契約の効力が発生した日を基準として申告することが認められる場合もあります。契約の内容や実際の権利移転の状況によりますので、必ず税理士にご確認ください。
A.税率そのものは年分によって自動的に変わるわけではありませんが、適用される制度が変わることがあります。たとえばミニマムタックスについては、株式の譲渡は2026年12月31日までに譲渡契約を締結した場合に現行制度が適用される経過措置が設けられています。
A.税務上の差額と、準備を急ぐことによる交渉の質への影響を比べて判断します。条件交渉で譲歩することになれば、税金の差額を上回る損失になりかねません。買い手の事情もありますので、早めに希望を共有して工程を組むことをおすすめします。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら