M&Aのクロージング(最終決済)が、ちょうど決算期の変わり目に重なることは多くありません。多くの場合、交渉の進み具合や資金の準備、許認可の手続きなどの都合で、期の途中で株主が交代します。このとき、「会社の決算はどうなるのか」「税金はどの時点で発生するのか」「退職金はいつ出せばよいのか」といった疑問が生じます。本稿では、期中クロージング特有の論点を、税務と実務の両面から整理します。

期中に株主が変わると、会社の事業年度はどうなるか

まず、基本的な整理です。株式譲渡は、会社の株主が交代する取引であって、会社そのものは何も変わりません。法人格は存続し、資産も負債も契約も雇用もそのまま続きます。

したがって、株主が期中に交代しても、それだけで会社の事業年度が区切られるわけではありません。定款で定めた事業年度はそのまま継続し、期末に通常どおり決算を行い、申告を行います。この点は、事業譲渡や合併・分割といった組織再編とは異なる、株式譲渡の大きな特徴です。株式譲渡と事業譲渡の違いは「株式譲渡と事業譲渡の違い」で整理しています。

ただし、実務上は次のような対応が発生します。

  • 買い手が、譲渡日時点の財産状態を把握するために、その時点での試算表や仮決算に相当する資料を求める
  • 譲渡契約において、譲渡日を基準に純資産や運転資本を確認し、価格を調整する仕組みが置かれることがある
  • 譲渡日をもって役員が交代する場合、その手続と登記が必要になる
  • 会計処理の締めを譲渡日で一度行い、新旧の経営期間を区別して管理する

つまり、税務上の事業年度は区切られなくても、実務上は「譲渡日」という区切りで整理が行われるのが通常です。

買い手が決算期を変更するとき

買い手が事業会社である場合、譲受した会社の決算期を自社に合わせて変更することがよくあります。グループとして連結的に管理するうえで、決算期がそろっているほうが実務が容易になるためです。

決算期を変更する場合、定款の変更(株主総会の決議)と、税務署等への届出が必要になるとされています。そして、変更にあたっては、変更前の事業年度開始日から変更後の期末までが一つの短い事業年度となり、その期間について決算と申告を行うことになるのが通常です。

この短い事業年度が生じることで、次のような影響が出ることがあります。

  • その期間について、通常より短い期間での決算・申告作業が発生する
  • 減価償却費や各種の限度額の計算が、月数に応じて按分される
  • 法人住民税の均等割など、期間に応じた計算が必要になる
  • 消費税の課税期間の区切りが変わる

決算期を変更するかどうかは買い手の判断ですが、変更する場合には売り手側にも実務上の協力が求められることがあります。とくに、経理を担当している方が引き続き在籍するかどうかは、この作業の進めやすさに直結します。譲渡交渉の段階で、買い手の意向を確認しておくとよいでしょう。

役員退職金をいつ支給するか|時期が損益に効く

期中クロージングで特に慎重な設計が必要になるのが、役員退職金です。経営者様が退任される際に退職金を支給する場合、その金額が損金として認められるかどうか、そしてどの事業年度の損金になるかが問題になります。

一般に、役員退職金は、株主総会の決議等によって金額が確定した日の属する事業年度の損金とする取り扱いが基本とされ、実際に支払った事業年度に損金経理をした場合の取り扱いも定められているとされています。つまり、いつ決議し、いつ支払うかによって、どの事業年度の損益に影響するかが変わります。

この点が期中クロージングで問題になるのは、次のような事情があるためです。

  • 退職金の支給によって、その事業年度の会社の利益が大きく減る
  • その事業年度の一部は旧経営陣の期間、一部は新経営陣の期間となる
  • 買い手にとっては、譲受後の期の損益に影響が及ぶ
  • 退職金の原資が会社から流出するため、譲渡価格の算定と整合させる必要がある

したがって、退職金を支給する場合は、金額、決議の時期、支払の時期、そしてそれが譲渡価格の算定にどう織り込まれているかを、契約の段階で明確にしておく必要があります。ここが曖昧なままクロージングを迎えると、後になって「誰が負担するのか」で揉める原因になります。役員退職金の考え方は「役員退職金を活用した会社売却」で詳しく解説しています。

譲渡する側の課税は「いつの年」に属するか

個人が株式を譲渡した場合、その譲渡による所得は、原則として譲渡した日の属する年の所得として課税されます。上場株式等以外の株式に係る譲渡所得については、申告分離課税とされ、税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%とされています。

ここで重要なのは、課税されるのは「会社の決算期」ではなく「暦年」だという点です。会社の決算期が3月であっても9月であっても、個人の課税は1月から12月までの年単位で判断されます。したがって、12月と1月をまたぐクロージングは、納税の時期が1年ずれることを意味します。

申告は、譲渡した年の翌年の確定申告期間に行うことになります。納税資金は譲渡代金から確保できることがほとんどですが、代金の一部が後払いになる設計(分割払いやアーンアウトなど)の場合には、納税時期と資金の受取時期がずれないかを事前に確認しておく必要があります。申告の流れは「会社売却後の確定申告」をご覧ください。

また、時期に関して念頭に置いておきたい制度の動きもあります。極めて高い水準の所得がある場合の追加的な負担を求めるいわゆるミニマムタックスは、2025年分から適用されており(3.3億円の控除・22.5%)、2027年分からは基準が強化される(1.65億円の控除・30%)とされています。譲渡の規模によっては、実行の年によって負担が変わる可能性があります。制度の詳細と適用の可否は必ず税理士にご確認ください。

その他の期中特有の論点と、実務上の段取り

期中クロージングでは、ほかにも確認すべき点があります。

論点確認すべきこと
繰越欠損金法人税法には、特定の株主等によって支配された欠損等法人について、繰越欠損金の使用等を制限する規定があるとされています。欠損金を有する会社の譲渡では、その取り扱いを事前に確認する必要があります。
役員報酬の改定役員の交代や職務変更に伴う報酬の改定は、損金算入の要件との関係で時期に留意が必要です。
決算賞与・賞与引当支給の決定時期と対象期間を明確にし、負担の帰属を契約で整理します。
配当譲渡前に配当を行う設計を採る場合、基準日、決議、源泉徴収の手続と、価格への反映を確認します。
消費税課税事業者の判定や課税期間は事業年度を基礎としますので、決算期を変更する場合には影響を確認します。
保険・リース契約者や連帯保証の変更手続を、譲渡日に合わせて段取りします。

実務上の段取りとしては、クロージング日を決める段階で、次を確認しておくことをお勧めします。

  • 会社の決算期と、クロージング予定日の関係
  • 退職金を支給する場合の決議・支払の時期
  • 買い手が決算期を変更する予定の有無
  • 譲渡日時点での資金や在庫、売掛金の確認方法
  • 顧問税理士がクロージング後も関与するかどうか

とくに最後の点は見落とされがちです。譲渡後、買い手が自社の税理士に切り替えることは珍しくありませんが、その場合でも、譲渡日をまたぐ期の申告には、それまでの経緯を知る税理士の関与があるほうがスムーズです。引継ぎの段取りを事前に決めておくとよいでしょう。

本稿は一般的な考え方の整理であり、個別の税務上の取り扱いは、会社の状況、契約の内容、制度の改正によって異なります。実行にあたっては、必ず顧問税理士等の専門家にご確認ください。

まとめ|クロージング時期は、早い段階から設計する

期の途中で株主が変わること自体は、まったく通常のことであり、それによって会社に不都合が生じるわけではありません。ただし、退職金の時期、決算期の変更、譲渡側の課税年分といった論点は、クロージング日をいつにするかによって結果が変わります。

そして、これらは交渉の終盤になってから調整するには難しい事項です。基本合意の前後、遅くともデューデリジェンスと並行する段階で、税理士を交えて設計しておくことをお勧めします。

当社プラチナパートナーズは、中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。クロージング時期の設計についても、顧問税理士と連携しながら早い段階から整理いたします。

よくあるご質問

A.株式譲渡では区切られません。株主が交代しても会社の法人格は存続し、資産も負債も契約も雇用もそのまま続きますので、定款で定めた事業年度は継続し、期末に通常どおり決算と申告を行います。ただし実務上は、買い手が譲渡日時点の試算表を求める、譲渡日を基準に純資産や運転資本を確認して価格を調整する仕組みが置かれる、役員交代の手続と登記を行う、といった対応が発生します。税務上区切られなくても、譲渡日という区切りで整理が行われるのが通常です。
A.個人株主の課税は会社の決算期ではなく暦年で判断されますので、納税の時期が1年ずれることになります。個人が非上場株式を譲渡した場合の譲渡所得は申告分離課税とされ、税率は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%の合計20.315%です。申告は譲渡した年の翌年の確定申告期間に行います。代金の一部が後払いになる設計では、納税の時期と資金の受取時期がずれないかを事前に確認してください。個別の適用は税理士にご確認ください。
A.会社の決算期とクロージング予定日の関係、退職金を支給する場合の決議と支払の時期、買い手が決算期を変更する予定の有無、譲渡日時点での資金・在庫・売掛金の確認方法、そして顧問税理士がクロージング後も関与するかどうかです。最後の点は見落とされがちですが、譲渡日をまたぐ期の申告には、それまでの経緯を知る税理士の関与があるほうがスムーズです。これらは交渉の終盤では調整が難しいため、基本合意の前後から税理士を交えて設計してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら