地味ですが、抜けると翌日から業務が止まります。何を渡し、何を渡さないのか。目録の作り方を含めて整理します。
まず一覧を作る
クロージングの1か月前には、引き渡すものの一覧を作ってください。列は次のとおりです。
品目 / 数量 / 保管場所 / 現在の管理者 / 引き渡す先 / 引き渡し日 / 確認欄。
作り方のコツは、社内を実際に歩いて確認することです。記憶で作ると必ず漏れます。
金庫、机の引き出し、書庫、倉庫、車の中。「あるはず」のものが無いことに、ここで気づけます。
印章
会社の印章は、種類ごとに整理します。
代表者印(実印)。法務局に登録している印。最も重要です。
銀行印。金融機関に届け出ている印。口座ごとに違うことがあります。
角印(社印)。請求書や見積書に押すもの。
ゴム印。住所・商号・代表者名。
役職印。支店長印など。
注意点は、同じ種類の印が複数あることです。予備、支店用、古いもの。すべて出してください。1本でも残っていると、後から使われる可能性があります。
通帳とネットバンキング
金融関係は、最も止まりやすい部分です。
通帳とキャッシュカード。すべての口座分。取引の少ない口座を忘れがちです。
ネットバンキングのID・パスワード・電子証明書・トークン。
定期預金の証書。
そして、クロージング後すぐにパスワードを変更してください。書面で受け取ったID・パスワードは、変更後に破棄します。
代表者の変更届と届出印の変更は、金融機関の窓口で手続きします。事前に必要書類を確認しておいてください。
鍵とセキュリティ
物理的なアクセスに関わるものです。
事務所・工場・倉庫の鍵。合鍵を含めて全数。誰が何本持っているかを確認してください。
金庫の鍵とダイヤル番号。
機械警備のカードと暗証番号。警備会社への連絡先の変更も必要です。
駐車場のカード、入館証。
実務では、クロージング後に鍵を交換するという選択もあります。全数を回収できたか確信が持てない場合、これが確実です。
電子データとアカウント
近年、最も抜けやすい領域です。
基幹システム・会計ソフトの管理者権限。
メールの管理者アカウント。
ドメインの管理権限。更新が切れるとメールもWebも止まります。
Webサイトの管理画面、SNSのアカウント。
クラウドストレージ、グループウェア。
電子証明書(e-Tax、e-Gov、電子入札)。
これらは一覧にして、ID・用途・更新時期を書き出してください。「誰も管理者を知らない」という状態が、後から判明します。
原本書類
保管場所を確認して引き渡すものです。
定款、登記関係の書類、株主名簿。
不動産の権利証(登記識別情報)。
重要な契約書の原本。
許認可証、免許証、登録証。
過去の決算書・申告書。保存期間内のもの。
従業員の労働者名簿、雇用契約書。
保険証券。
これらは数が多いため、分類して箱に入れ、中身の一覧を付けるのが実務的です。
渡さないもの
整理しておくべき点です。前経営者個人のものは渡しません。
個人の実印・印鑑証明書。
個人名義の通帳・カード。
個人の携帯電話。ただし、会社の連絡先として使っていた番号は論点になります。取引先がその番号を知っている場合、どう扱うかを決めてください。
個人のメールアドレス。
逆に、個人名義だが会社の業務に使っていたもの(車、不動産、電話回線)は、事前に整理が必要です。個人名義の資産をご覧ください。
引き渡し目録に署名する
実務として必ず行ってください。引き渡した物の一覧に、双方が署名・押印します。
形式は簡単で構いません。品目、数量、引き渡し日、売主と買主の署名。
理由は、後から「渡した・渡していない」の話にならないためです。
とくに印章と鍵は、数が合わないと不安が残ります。「実印1本、銀行印2本、角印1本、ゴム印1本」と数えて記載してください。
この一枚があるだけで、後の確認が楽になります。
引き渡し後にやること
受け取った側の作業です。クロージング当日または翌営業日から着手してください。
ネットバンキングのパスワード変更。
各種システムの管理者権限の変更。
金融機関への代表者変更・改印の届出。
警備会社への連絡先変更。
必要に応じて鍵の交換。
印章の保管場所と管理者の決定。誰が持ち、どういう手続きで押すのか。印章管理の規程を作るのは、この機会が最適です。
クロージング当日の段取りも併せてご覧ください。