借入が1行だけの会社は、話をする相手が1つです。しかし複数の金融機関から借りている会社では、どの行にどれだけ返すか、どの行が新しく貸すかという配分の問題が出ます。

プロラタ(pro rata)は「比率に応じて」という意味の言葉です。金融の場面では、各行の借入残高の比率に応じて、返済や新規の融資を按分する考え方を指します。

M&Aでは、借入の多い会社を譲る場面、事業再生を伴う場面、買収の資金を複数行から調達する場面で出てきます。

なぜ按分という考え方が出るのか

会社の資金が足りなくなったとき、各行は自分の債権を早く回収したいと考えます。しかし全行が同時に回収に動けば、会社の資金が尽きて事業が止まり、結果として全行の回収額が減ります。

だから、歩調を揃える必要があります。揃えるための基準として、残高の比率が使われます。シェアが大きい行が多く、小さい行が少なく。これなら「なぜうちが不利なのか」という話になりにくくなります。

逆の方向でも使われます。新しく資金が必要なとき、各行が残高の比率に応じて出す形です。1行だけに負担が偏ると、その行が応じません。

重要なのは、これが法律で決まった仕組みではないことです。各行の合意の上に成り立つ取り決めです。したがって、合意が崩れれば機能しません。

M&Aのどの場面で出てくるか

売り手の側で出てくる場面を整理します。

借入が多く、譲渡の対価で返済する場合。株式を譲る形では会社の借入は会社に残りますが、事業を譲る形では対価で借入を返すことがあります。このとき、どの行にどれだけ返すかが論点になります。全額返せるなら問題は小さく、返しきれない場合に按分の話が出ます。

個人保証の整理を伴う場合。経営者保証の扱いを各行と話すとき、1行だけ条件が違うと他の行が納得しません。

再生を伴う譲渡の場合。採算のある事業を切り出して譲り、残った会社を清算する形(第二会社方式と呼ばれる形)では、各行の回収額の配分が中心の論点になります。

買い手の側では、買収の資金を複数行から調達する場合に出てきます。協調して融資する形では、各行の負担と担保の扱いを揃えます。

残高だけが基準ではない

按分の基準は、残高の比率が基本です。しかし実際には、残高以外の事情が入ります。

  • 担保の有無。不動産に抵当権を持っている行は、担保の範囲で優先的に回収できます。無担保の行と同じ比率にはなりません。
  • 保証の有無。信用保証協会の保証が付いている借入は、扱いが変わります。
  • 取引の歴史。メインとして長く支えてきた行と、後から参加した行で、立場が違うことがあります。
  • 残っている期間。短期と長期で、同じ残高でも回収の見込みが違います。

したがって、「残高の比率で按分」と言っても、担保を考慮した後の残高で計算するといった調整が入ります。

この調整の仕方が、交渉の中身になります。経営者が自分で設計するのは難しく、メインバンクや専門家が間に入って進めるのが通常です。

売り手の経営者が知っておくこと

借入が複数行にある会社を譲る場合、経営者が先に把握しておくことがあります。

1. 各行の残高と条件。残高、金利、返済の期間、担保、保証。これを一覧にします。

2. 担保に入っている資産。どの不動産にどの行の抵当権が付いているか。順位も含めて確認します。登記簿を取れば分かります。

3. 個人保証の範囲。どの借入にいくらの保証を付けているか。会社を譲っても保証が自動で消えるわけではありません。

4. 信用保証協会の保証が付いているもの。

この一覧が無いと、譲渡の条件を考える出発点がありません。借入をどう扱うかで、手元に残る金額が大きく変わります。

そして、金融機関に話す順序を間違えないことが実務で効きます。1行にだけ先に伝えると、他の行に伝わり方が歪むことがあります。

買い手の側から見ると

買い手は、借入の構成を引き継ぐかどうかの判断材料として見ます。

株式を買う形では、借入は会社に残ります。したがって買い手は、各行が買収後も融資を続けてくれるかを確かめる必要があります。経営者が代わることで、取引方針が変わる行があります。特に、前の経営者との関係で続いていた取引は注意が要ります。

実務では、クロージングの前に各行と話しておくのが通常です。買い手が挨拶に行き、事業の方針を説明し、保証の付け替えを相談します。

加えて、約定の条項を確かめます。支配権が変わった場合に期限の利益を失う(一括返済を求められる)条項が入っていることがあります。これがあると、買収と同時に全額の返済を求められる可能性が出ます。

この条項は契約書を見ないと分かりません。借入の契約書と約定書を集めて確認する作業が、調査に含まれます。

公的な枠組みも使われる

借入の整理を伴う場面では、公的な枠組みが用意されています。中小企業活性化協議会のような機関が、金融機関との調整の場を設ける仕組みです。

こうした枠組みを使う利点は、各行が同じ情報を見て、同じ場で話せることです。個別に交渉すると、条件が揃わずに進まないことがあります。

また、経営者保証については、経営者保証に関するガイドラインに沿った整理の枠組みがあります。使えるかどうかは個別の事情によります。

整理すると、借入が複数行にある会社の譲渡では、順序がこうなります。①借入と担保と保証の一覧を作る ②約定の条項を確かめる ③メインバンクに相談する ④譲渡の形を決める ⑤各行への説明の順序を決める。

④を先に決めてから①を始めると、前提が崩れます。金融・税務・法務の判断は個別の事情で変わるため、金融機関、税理士、弁護士に確認してください。

よくあるご質問

A.各金融機関の借入残高の比率に応じて、返済や新しい融資を按分する考え方です。法律で決まった仕組みではなく、各行の合意の上に成り立つ取り決めです。
A.担保の有無、保証の有無、取引の歴史、残っている期間などが考慮されます。担保を考慮した後の残高で計算するといった調整が入り、その調整の仕方が交渉の中身になります。
A.自動では消えません。どの借入にいくらの保証を付けているかを一覧にし、金融機関と話す必要があります。経営者保証に関するガイドラインに沿った整理の枠組みがありますが、適用は個別の判断です。
A.各行が買収後も融資を続けるか、支配権が変わった場合に一括返済を求められる条項がないかです。後者は借入の契約書と約定書を見ないと分かりません。クロージングの前に各行と話すのが通常です。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら