創業の経緯から、取引先や地元の金融機関が数パーセントずつ株式を持っている。地方の中小企業では珍しくない形です。買い手は全株の取得を前提に検討するため、この株をどうまとめるかが最初の関門になります。取引関係を傷つけずに進める順番があります。
なぜ持ち合いが生まれたのかを確認する
まず、経緯を確認します。増資に応じてもらった、取引開始の証として持ち合った、先代同士の関係で引き受けてもらった。理由によって、手放してもらうときの話の立て方が変わります。
資料としては、設立時の定款と発起人、増資の際の株主総会議事録と引受証、株主名簿、法人税申告書の別表二を突き合わせます。名簿と実態が食い違っている場合もあるため、書面で追える範囲を先に確定させます。
相手方の担当者が代替わりしていて、そもそも持っている経緯を先方も把握していないことも実際にあります。その場合は、こちらから経緯を説明できる状態にしておくと話が早く進みます。
買い取りの主体を誰にするか
少数株主から株式を集約する方法は、主に三つです。
一つめは、オーナー個人が買い取る形。手続きは単純ですが、買い取り資金を個人で用意する必要があります。二つめは、会社が自己株式として取得する形。会社の資金を使えますが、分配可能額の範囲内であること、原則として株主総会の決議が必要であることなど、会社法上の制約があります。売却する株主側にはみなし配当の課税が生じる可能性があります。
三つめは、買い手に直接売ってもらう形です。オーナーと同じタイミングで、同じ条件で買い手に譲渡してもらいます。資金負担がない代わりに、少数株主に案件の存在を知らせることになります。どの方法を選ぶかは、秘密保持と資金のどちらを優先するかで決まります。
価格をどう決めるか
少数株主との交渉で難しいのが価格です。オーナーが買い手から提示される株価と、少数株主に提示する価格が異なると、後から不満が出ることがあります。
一方で、案件が動く前に買い取るのであれば、その時点での合理的な評価額で取引することになります。税務上の適正な価額との関係もあるため、税理士に評価を依頼し、根拠を残しておくことが大切です。
実務では、譲渡の話が具体化する前に、事業承継の準備という文脈で集約を進めておくほうが、価格の説明がしやすくなります。この意味でも、株の整理は案件より前に着手すべき仕事です。
取引関係への影響を織り込む
取引先が株主である場合、株式の買い取りを申し入れること自体が、取引関係に影響することがあります。「うちとの取引を切るつもりか」と受け取られる可能性があるためです。
そこで、申し入れの際には取引の継続を明確に伝えます。株式の整理と取引の継続は別の話であること、むしろ承継を円滑にするための整理であることを、経営者自身の言葉で説明します。
金融機関が株主である場合も同様です。融資の関係が続くのであれば、その前提で話を進めます。いずれの場合も、担当者ではなく、決裁できる立場の方に会うことが結果的に早道になります。
譲渡承認の手続きを忘れない
中小企業の株式には譲渡制限が付いているのが通常です。少数株主から株式を買い取る場合も、会社の譲渡承認が必要になります。
承認の決定機関は、取締役会設置会社であれば取締役会、置かない会社であれば株主総会の普通決議です(会社法139条1項)。承認の請求、決定、通知、株主名簿の書換えという流れを、一件ずつ記録に残します。
買い手のデューデリジェンスでは、集約の過程が適法に行われたかが確認されます。手続きを省略して名簿だけ書き換えた、という状態は指摘の対象になります。決議と議事録の整理も併せてご覧ください。
まとまらない株が残ったとき
交渉しても応じてもらえない株主が残ることがあります。その場合の選択肢は限られます。
株式の併合によって端数にし、金銭を交付する方法がありますが、株主総会の特別決議が必要で、反対株主から買取請求や価格の争いが生じる可能性があります。そのまま残すという判断もあり得ますが、買い手が受け入れるかどうかは交渉次第です。
いずれにしても、見込みを早い段階で買い手に開示することが重要です。「まとめられる予定です」と言い続けて最後にまとまらないのが、もっとも避けたい展開です。
段取りの順番
実務の順番をまとめます。第一に、株主名簿と申告書別表二を突き合わせ、現在の株主構成を確定させる。第二に、経緯を整理し、買い取りの主体と価格の考え方を決める。第三に、決裁できる相手に、経営者自身が説明に行く。第四に、承認手続きと名簿の書換えを一件ずつ記録に残す。
この四段階を、買い手を探し始める前に終えておくのが理想です。難しければ、どこまで進んでいるかを整理したうえで案件に入ります。
時間はかかりますが、ここを飛ばすと必ず後半で止まります。準備の中でも、優先度の高い仕事です。