オーナーがほぼ全株を持つ会社では、株主総会は形だけのものになりがちです。ところがM&Aの場面では、その形式が後から効いてきます。買い手のデューデリジェンスは、決議が必要だった事項について、議事録が正しく残っているかを必ず見ます。どの場面で何の決議が要るのかを整理しておきます。
特別決議とは何か
株主総会の決議には、普通決議と特別決議、さらに要件の重い特殊決議があります。このうち特別決議は、会社法309条2項に定めがあり、議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します。
定足数である「議決権の過半数」は、定款で3分の1まで引き下げることができます。逆に、賛成要件を3分の2より厳しくすることも可能です。自社の定款がどうなっているかを確認しないまま議論を進めないことが第一歩です。
なお、議決権を行使できる株主の全員が書面または電磁的記録で同意した場合には、決議があったものとみなす制度もあります(会社法319条)。少数の株主で構成される会社では、この書面決議が使われることが多くあります。
M&Aで特別決議が必要になる主な場面
売り手側で特別決議が必要になる代表的な場面は次のとおりです。
事業の全部または重要な一部の譲渡(会社法467条)。事業譲渡を選んだ場合の中心的な論点です。定款の変更(466条)。商号の変更、事業目的の追加、株式の譲渡制限に関する定めの変更などが該当します。合併・会社分割・株式交換などの組織再編。株式の併合(180条)。少数株主の整理に用いられることがあります。
このほか、役員の解任や、監査等委員である取締役の解任など、人事に関する事項でも特別決議が必要になる場合があります。オーナー交代に伴う役員構成の変更を予定しているなら、解任と辞任のどちらで進めるかを含めて設計しておきます。
譲渡制限株式の承認は、特別決議ではない
中小企業の株式には、譲渡に会社の承認を要する旨の定め(譲渡制限)が付いているのが通常です。株式譲渡でM&Aを行う場合、この譲渡承認の手続きが必要になります。
ここで混同されやすいのですが、譲渡承認の決定機関は、取締役会設置会社であれば取締役会、取締役会を置かない会社であれば株主総会の普通決議です(会社法139条1項)。定款で別段の定めを置くこともできます。特別決議ではありません。
手続きとしては、譲渡人からの承認請求、承認機関での決定、譲渡人への通知、株主名簿の書換えという流れになります。株主名簿の書換えまで済ませて初めて、買い手は会社に対して株主であることを主張できます。詳しくは株式譲渡の手続きと必要書類をご覧ください。
招集の手続きを省略できる場合
株主総会を開くには、原則として開催日の1週間前(取締役会設置会社では2週間前、公開会社でない会社は定款で短縮可)までに招集通知を発する必要があります。
ただし、株主全員の同意があれば、招集手続を省略して総会を開くことができます(会社法300条)。株主がオーナーとその家族だけという会社では、この方法が現実的です。
省略する場合でも、全員の同意があったという事実を記録に残してください。議事録に「株主全員の同意により招集手続を省略した」旨を記載しておくのが通例です。後日、手続きの適法性を問われたときに、これがあるかないかで話が変わります。
議事録に何を残すか
議事録は、会社法施行規則72条が記載事項を定めています。開催の日時と場所、議事の経過の要領とその結果、出席した取締役・監査役の氏名、議長の氏名、議事録作成者の氏名。これらが欠けている議事録は、デューデリジェンスで必ず指摘されます。
実務で不足しがちなのは「議事の経過の要領」です。「原案どおり承認可決した」の一行だけで終わっている議事録が少なくありません。重要な決議については、何が説明され、どのような質疑があったのかを数行でよいので残しておくと、決議の実質が争われたときの説明材料になります。
議事録は本店に10年間備え置く必要があります(会社法318条2項)。過去分が散逸している場合は、案件を始める前に、残っている範囲を確認して整理しておくことをお勧めします。
過去の決議漏れが見つかったら
デューデリジェンスの過程で、過去に必要だった決議が行われていなかった、あるいは議事録が残っていないことが判明する場合があります。中小企業では珍しいことではありません。
対応は事案によりますが、実務では、現時点で追認の決議を行う、事実関係を整理した書面を作成して買い手に開示する、最終契約の表明保証や補償の対象として扱うといった方法が検討されます。
大切なのは、見つかったものを隠さないことです。開示された不備は交渉の材料になりますが、隠していたものが後から出てくると、契約違反の問題になります。早い段階で洗い出して、弁護士と対応方針を決めておくのが結果的にいちばん早い道です。