BPO・コールセンター事業は、クライアント企業の業務を外から預かる事業です。したがって、事業の価値は「どのような契約を、どれだけの期間、誰と結んでいるか」と「その業務を回せる人がいるか」のほぼ二点に集約されます。本稿では、公表資料をもとにこの業界を取り巻く環境の変化を確認し、事業承継の観点でどこが論点になるのかを整理します。
在宅化という不可逆な変化
コールセンターの運営形態は、この数年で大きく変わりました。かつては大規模なセンターに座席を並べ、オペレーターが出勤して対応するのが標準でしたが、在宅での対応を組み込む形が広く定着しています。
その背景として、企業側の働き方の変化があります。総務省「令和7年通信利用動向調査」(令和8年5月29日公表、調査時点は令和7年8月末、常用雇用者100人以上の企業が対象)によると、テレワークを導入している企業の割合は50.1%となり、前年より増加しました。導入目的としては「勤務者のワークライフバランスの向上」「障害者、高齢者、介護・育児中の社員などへの対応」「人材の雇用確保・流出の防止」が、前年からの増加が大きい項目として挙げられています。
在宅化は、BPO事業者にとって両面の意味を持ちます。採用面では、通勤圏という制約が外れることで、これまで採用できなかった層——地方在住者、育児や介護と両立したい方——にアクセスできるようになりました。座席の賃料や光熱費といった固定費も圧縮できます。
一方で、管理は難しくなります。オペレーターの応対品質をどう保つか、情報漏えいをどう防ぐか、孤立による離職をどう防ぐか。これらに対する仕組みを持っているかどうかが、事業者間の差になっています。
業務範囲の拡大|「電話を受ける」から「業務を預かる」へ
もうひとつの変化は、預かる業務の範囲です。従来は電話応対を中心とした受託が主でしたが、現在はメール・チャット・SNSといった複数チャネルの対応に加え、受発注処理、データ入力、請求書処理、経理・人事の定型業務まで、業務プロセスそのものを受託する形が広がっています。
総務省の同調査では、クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合が8割を上回り、全社的に利用している企業の割合も60.0%となっていることが示されています。クライアント企業の業務がクラウド上で完結するようになれば、その業務を外部の事業者が遠隔で担うことも技術的に容易になります。業務範囲の拡大は、この基盤の上に成り立っています。
業務範囲が広がると、契約の性質も変わります。座席数×時間で対価が決まる契約から、処理件数や成果に連動する契約へ、あるいは業務プロセス全体の運用を包括的に請け負う契約へ。契約の形が変われば、必要な人材のスキルも、収益の安定性も変わります。
事業を引き継ぐ側から見れば、単価の高い業務を長期契約で受託している事業者ほど魅力的です。逆に、短期の繁忙対応やスポット案件の積み上げで構成されている事業は、将来収益の見通しが立てにくいと評価されます。
2026年1月施行の中小受託取引適正化法
BPO事業者にとって重要な制度改正が、2026年に施行されました。公正取引委員会によれば、従来の「下請代金支払遅延等防止法」は改正され、法律の名称が「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略称:中小受託取引適正化法、通称:取適法)に変更されました。公布は令和7年5月23日、施行は令和8年1月1日です。
同委員会の説明によれば、この改正は、発注者と受注者が対等な関係に基づき価格転嫁および取引の適正化を図ることを目的としています。改正では、適用基準に従業員基準が追加され、対象取引に特定運送委託が追加されました。また、事業所管省庁での指導・助言が可能になるよう、面的執行が強化されています。
BPO・コールセンター事業は、役務提供委託や情報成果物作成委託という形で、この法律の適用対象となる取引を数多く抱えています。委託する側としても、委託される側としても、対価の決め方や支払期日の設定を法令に沿って見直す必要が生じました。
とりわけ「価格転嫁」という言葉が法の目的に据えられた意味は小さくありません。人件費が上昇するなかで、受託側が発注側に対価の見直しを申し入れやすくする制度環境が整えられたということです。
中小受託取引適正化法の適用範囲・禁止行為・手続の詳細は、公正取引委員会および中小企業庁の公表資料をご確認ください。個別の取引への適用については専門家にご相談ください。
委託先を狙った攻撃という新しいリスク
業務を預かる事業であることは、預かった情報を守る責任を負うということでもあります。この点で、近年のサイバー攻撃の傾向は無視できません。
独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が2026年1月に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けの脅威の第2位に「サプライチェーンや委託先を狙った攻撃」が挙げられています(第1位は「ランサム攻撃による被害」、第3位は「AIの利用をめぐるサイバーリスク」)。
また、警察庁「令和7年におけるサイバー空間をめぐる脅威の情勢等について」によると、令和7年におけるランサムウェアの被害報告件数は226件で、被害企業の規模別では前年と同様に中小企業が約6割を占めています。被害組織へのアンケートでは、侵入経路はVPN機器が6割以上を占め、復旧に総額1,000万円以上を要した組織の割合は全体の5割を超えたとされています。
BPO事業者は、クライアント企業から見れば「委託先」です。自社が攻撃を受ければ、クライアントの顧客情報が流出しかねません。したがって、情報セキュリティの体制は、事業の信用そのものであり、承継の場面でも必ず確認される事項になります。
事業承継の観点で何が論点になるか
帝国データバンクの2025年の調査では、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。BPO・コールセンター事業は、契約と人で成り立つ事業であり、設備や不動産といった目に見える資産が乏しいぶん、承継にあたっては契約と人の状態を丁寧に示すことが求められます。
承継を検討される際に整理しておきたいのは、次のような点です。
- 受託契約ごとの契約期間、自動更新の有無、解約条項
- 契約に経営権の異動に関する条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)が含まれていないか
- クライアントの構成と、上位数社への売上依存度
- オペレーター・スーパーバイザーの人数、雇用形態、離職率
- 在宅勤務の比率と、その運用ルール・機器の貸与状況
- 情報セキュリティの体制、認証の取得状況、過去のインシデントの有無
- 個人情報の取扱いに関する委託契約の内容
- センターの賃貸借契約の残存期間と、設備の状況
情報セキュリティをめぐる需要と脅威の全体像は情報セキュリティ業界の動向で整理しています。とりわけチェンジ・オブ・コントロール条項の確認は欠かせません。大手企業との業務委託契約には、支配株主の変更を通知事項や解除事由とする条項が置かれていることがあり、これがあると承継の進め方そのものが変わります。
また、離職率は事業の実力を測る重要な指標です。同じ座席数・同じ契約でも、オペレーターが定着している事業者と、常に採用に追われている事業者とでは、収益の安定性がまったく違います。この点はコールセンター・BPO事業のM&Aの記事で詳しく解説しています。
まとめ|契約とオペレーターが揃っているうちに
BPO・コールセンター業界の現在地は、在宅化の定着、業務範囲の拡大、そして2026年1月施行の中小受託取引適正化法という制度変化に特徴づけられます。テレワークを導入する企業は50.1%に達し、クラウドサービスを全社的に利用する企業も60.0%となりました。業務を外部に預けることの技術的・心理的な障壁は、確実に下がっています。
市場が広がる局面では、規模の拡大を目指す事業者が既存の事業者を取り込もうとする動きが生じます。特定の業界や業務に強い中小のBPO事業者は、その意味で価値のある存在です。
契約が継続し、オペレーターが定着しているうちであれば、事業を引き継ぐ価値は明確です。反対に、主要クライアントを失い、採用が追いつかなくなってからでは、伝えられる価値が目減りしてしまいます。当社プラチナパートナーズは、成功報酬型のもと、BPO事業を含む中小企業の事業承継・会社売却をご支援しています。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。