農業の統計は、ひとつの数字だけを見ると読み違えます。
農林水産省の公表統計によれば、農業経営体は79万9,700で前年比4.4%減。ところが同じ年に、会社法人は3.3%増えています。減っているものと増えているものが、同じ産業の中に同居しています。本稿ではこの構造を確認します。
本稿の数値は農林水産省「令和8年農業構造動態調査結果」(令和8年6月30日公表・令和8年2月1日現在)によります(令和7年の数値は2025年農林業センサス結果)。制度・税務・法務の取り扱いはご状況により異なりますので、実際のご判断にあたっては顧問の専門家にもご確認ください。
減っているのは個人経営体
農林水産省「令和8年農業構造動態調査結果」(令和8年6月30日公表・令和8年2月1日現在)によれば、令和8年2月1日現在の農業経営体は次のとおりです。
| 区分 | 令和7年 | 令和8年 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 農業経営体 計 | 836,100 | 799,700 | △4.4% |
| 個人経営体 | 795,800 | 759,000 | △4.6% |
| 団体経営体 | 40,200 | 40,700 | +1.2% |
| うち法人経営体 | 33,800 | 34,600 | +2.4% |
| うち会社法人 | 24,600 | 25,400 | +3.3% |
| うち農事組合法人 | 7,000 | 7,000 | ― |
出典:農林水産省「令和8年農業構造動態調査結果」(令和8年6月30日公表・令和8年2月1日現在)より作成
減っているのは個人経営体だけです。団体経営体は増え、なかでも会社法人が最も伸びています。
団体経営体に占める法人の割合も84.1%から85.0%へ上がりました。団体でありながら法人化していない経営体は、着実に減っています。
基幹的農業従事者は98万6,600人。農業経営体79万9,700に対し、1経営体あたり1.2人という計算になります(本稿で算出)。ほとんどが一人か二人で営んでいる、というのが実態です。
面積は大きいほうへ寄っている
経営規模の変化が、この産業で起きていることを最もよく示します。
同資料によれば、1経営体当たりの経営耕地面積は全国3.8ha(前年比5.6%増)、北海道34.6ha(同2.7%増)、都府県2.7ha(同3.8%増)。いずれも増えています。
経営体の数が減りながら1経営体当たりの面積が増えるのは、やめた経営体の農地を、残った経営体が引き受けているためです。
| 都府県 経営耕地面積規模 | 令和7年 | 令和8年 | 増減率 |
|---|---|---|---|
| 1ha未満 | 417,500 | 400,900 | △4.0% |
| 1〜5ha | 313,500 | 298,000 | △4.9% |
| 5〜10ha | 40,600 | 37,200 | △8.4% |
| 10〜20ha | 20,300 | 20,100 | △1.0% |
| 20〜30ha | 6,900 | 7,000 | +1.4% |
| 30ha以上 | 8,100 | 8,600 | +6.2% |
出典:農林水産省「令和8年農業構造動態調査結果」(令和8年6月30日公表・令和8年2月1日現在)より作成
都府県では20ha以上の階層だけが増えています。5〜10haが8.4%減と最も大きく減っており、中間の規模が最も苦しいことが数字に表れています。
水稲でも同じ形です。販売目的で水稲を作付けした経営体は49万9,500(7.2%減)ですが、10〜15haは1.0%増、15ha以上は4.3%増。10ha未満の階層だけが減っています。
農産物の販売金額で見ても、3,000万円以上の階層で増加しています。
この構造が承継に意味すること
ここまでの数字は、ひとつの方向を指しています。小さい経営体が抜け、大きい経営体が残って広げている。
農地は、やめる人がいれば誰かが引き受けなければ荒れます。そのため受け皿になる経営体には、農地が集まってきます。1経営体当たり面積が5.6%増えているのは、その結果です。
ただし、農地の引き受けには制度上の制約があります。
- 農地法の許可。農地の権利移動には農業委員会等の許可が必要です
- 農地所有適格法人の要件。法人が農地を所有するには、事業・議決権・役員に関する要件を満たす必要があります
- 賃借であれば別の道もあります。一般の法人でも要件を満たせば農地を借りられます
つまり「農業法人を買えば農地が手に入る」とは限りません。法人の形と農地の権利のあり方によって、取り得る手順が変わります。
会社法人が3.3%増えているという事実は、株式譲渡という一般的なM&Aの形が使える経営体が増えていることも意味します。農事組合法人が横ばいであるのと対照的です。
承継のときに見られる点
評価の目は次のようなところに向きます。
- 法人格。会社法人か、農事組合法人か、個人か。会社法人であれば株式譲渡が使えます
- 農地所有適格法人かどうか。農地を所有しているか、借りているか。要件を満たし続けられるかが前提になります
- 経営耕地面積と、所有・借入の内訳。借入が多い場合、貸し手との関係が続くか
- 農地の集積状況。まとまっているか、点在しているか。作業効率に直結します
- 販売先。農協経由か、直接取引か、加工・外食向けか
- 機械と施設の保有・更新時期。トラクター、コンバイン、乾燥調製施設、ハウス
- 補助事業の残存要件。受けた補助金に処分制限期間が残っていないか
- 従事者の年齢構成。基幹的農業従事者は全国で98万6,600人です
農業は、いま最も集約が進んでいる産業のひとつです。受け皿となる経営体にとって、既に農地と機械と人が揃った事業を引き継ぐことは、ゼロから広げるより速い。数字はその方向を示しています。
実務は「農業法人のM&A・事業承継」に、林業は「林業界の動向」に整理しています。