セメント、生コンクリート、コンクリート製品、耐火物、ガラス、陶磁器、ファインセラミックス——窯業・土石製品と一口に言っても、その中身は多様です。共通しているのは、高温の窯を使うためエネルギーコストの比重が大きいこと、そして製品が重く輸送範囲が限られることです。本稿では公表資料をもとに整理します。
窯業・土石製品製造業の現在地
総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」によると、窯業・土石製品製造業の事業所数は1万792事業所で製造業全体の4.9%を占めます(2024年6月1日現在)。従業者数は23万9697人、製造品出荷額等は8兆5311億円(2023年)、付加価値額は3兆4209億円でした。
変化の方向をみると、事業所数は前年比0.7%減、従業者数は前年比1.0%減と減少している一方、製造品出荷額等は前年比1.4%増、付加価値額は前年比0.4%増とわずかに増加しました。事業者が減りながら金額は横ばいという構図です。
この業界の特徴は、製品が重く、輸送コストが価格に占める比重が大きいことです。生コンクリートやコンクリート二次製品のように、供給できる範囲が実質的に限られる製品も多くあります。その結果、地域ごとに市場が分かれ、地元に密着した中小企業が事業を担ってきました。この構造は、承継を考えるときにも影響します。
需要の長期トレンド|セメントに表れる建設需要の縮小
需要の長期的な方向を最もよく示すのが、セメントの国内需要です。
一般社団法人セメント協会の「セメントハンドブック2026年度版」によれば、2025年度のセメント国内需要は3053万2000トンで前年比93.5%となり、7年連続のマイナスとなりました。生産は4440万7000トン(前年比96.8%)、輸出は879万トン(同107.1%)で、輸出は2年連続のプラスです。
同資料によれば、セメントの国内需要は1990年度に8628万6000トンでピークを記録しており、そこから35年で3分の1近い水準まで縮小したことになります。
直近の減少要因として、同資料は「近年の慢性的な人手不足に加え、時間外労働の上限規制や夏場の熱中症対策による作業時間の短縮により工期が長期化し出荷数量は減少」「週休2日制導入の拡大により土曜日の出荷が大幅に減った」ことを挙げています。また民需については「住宅投資は2025年4月からの省エネ基準適合義務化の影響や建設コストの高騰により減少した」としています。
需要が減った理由が「工事がなくなったから」ではなく「工事の進み方が変わったから」である点は、この業界を理解するうえで重要です。
エネルギーコストという構造的な課題
窯業の収益構造で最も重いのが、燃料と電力のコストです。窯を高温で維持するためのエネルギーは、生産量に比例して必要になり、削減の余地が限られます。
中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%で、要素別ではエネルギーコストの転嫁率が48.9%と最も低い水準にとどまっています(原材料費55.0%、労務費50.0%)。エネルギー多消費型の窯業にとって、この数字は経営の実感に近いのではないでしょうか。
2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法」(旧下請法)では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました(公正取引委員会・中小企業庁)。エネルギーコストの上昇分を価格に反映させる交渉を進めるうえで、制度の裏づけは強まっています。ただし、実際の交渉では、製品1単位あたりの燃料・電力の使用量を示せるかどうかが分かれ目になります。
制度の動き|脱炭素の枠組みが本格的に動き出した
脱炭素をめぐる制度も、この業界に直接関わります。
経済産業省の資料によれば、GX推進法に基づく排出量取引制度(GX-ETS)が2026年度から開始されました。二酸化炭素の直接排出量が前年度までの3年度平均で10万トン以上の事業者が対象となり、対象事業者に排出枠が割り当てられ、毎年度、排出実績量と同量の排出枠を保有することが義務づけられます。対象事業者数は300〜400社程度、我が国の温室効果ガス排出量の約6割をカバーすると想定されています。
直接の対象は大規模排出事業者ですが、窯業は業界全体として脱炭素の要請が強い分野です。燃料転換、廃棄物・副産物の受け入れによる原燃料代替、排熱回収といった取り組みは、コストと環境の両面で意味を持ちます。
とくに窯業には、他の産業から出る廃棄物・副産物を原燃料として受け入れてきたという固有の役割があります。この機能は資源循環の観点から評価される可能性があり、事業の価値を説明する材料になり得ます。
事業承継の観点|窯を止めるという判断の重さ
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。窯業・セラミックスの承継で特有なのは、「窯を止める」という判断の重さです。
連続運転している窯は、止めると再稼働に時間と費用がかかり、耐火物の損耗も進みます。設備の更新も、生産を止めている期間の損失を含めて判断しなければなりません。つまり、この業界では「様子を見る」という選択肢のコストが、他の製造業より高いのです。
また、廃業を選んだ場合の負担も軽くありません。工場の解体、耐火物や粉じんを含む廃棄物の処理、敷地の原状回復——いずれも費用が読みにくく、想定を超えることがあります。事業を続けるより畳むほうが安い、とは限らないという点は、早めに認識しておく価値があります。
選択肢を比較する考え方は「親族内承継とM&Aの比較」で整理しています。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 設備 | 窯・粉砕設備・成形設備の設置年と補修履歴、耐火物の更新周期、次の大規模補修の時期と概算額。 |
| エネルギー | 燃料・電力の使用量と単価の推移、製品単位あたりの原単位、省エネ投資の実績。 |
| 需要圏 | 出荷先の地理的な範囲、輸送コストの負担区分、圏内の競合状況。 |
| 環境 | 大気・粉じん・騒音に関する届出と測定記録、廃棄物の受入れを行っている場合はその許可と契約。 |
| 原料 | 原料の調達先と権利関係(採取場を保有している場合は権利の内容と残存量)。 |
| 不動産 | 工場用地の所有/賃借、遊休地の有無、解体・原状回復の想定費用。 |
この業界では、設備そのものよりも「その地域で供給できる立場」に価値が置かれることがあります。輸送範囲が限られるため、既存の拠点を引き継ぐことに意味があるからです。地理的な位置づけを整理して説明できると、事業の強みが伝わりやすくなります。
環境面の確認事項は「環境デューデリジェンスとは」をご覧ください。当社プラチナパートナーズは、窯業・土石関連企業の事業承継をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。