アプリ・ゲームの開発会社は、自社でタイトルを持っているか、受託で作っているかで評価の軸がまったく違います。同じ人数・同じ売上でも、買い手が見るものが変わります。本稿では、この二つの違いを起点に、プラットフォームの規約や開発メンバーの承継まで整理します。
自社タイトルと受託|買い手が見るものが違う
まず、自社の事業がどちらに寄っているかを整理します。
- 自社タイトル — 売上はユーザーの課金で、評価は継続率・課金率・運営のコストに向きます。タイトルの寿命が論点になります
- 受託開発 — 売上は発注元からで、評価は技術者の数と単価、継続する取引先に向きます。受注残が見られます
- 両方 — 受託で稼ぎながら自社タイトルを開発している形。買い手の目的によって、どちらを評価するかが分かれます
売り手の側で「どちらで見てほしいか」を決めておくと、相手の選び方が変わります。受託の安定を評価する買い手と、IPを欲しい買い手では、提示される条件が別のものになります。
相談のきっかけ
この業種で譲渡が検討される入口は、おおむね次のとおりです。
- 開発費を自前で賄えない — 次のタイトルに必要な資金と期間が、自社の体力を超えている
- 運営の体制が重い — 自社タイトルの運営に人が張り付き、新規の開発に回せない
- 単価の天井 — 受託の単価が上がらず、技術者の給与水準に追いつかない
- 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です
レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。
プラットフォームの規約と手数料
アプリの配信は、プラットフォーム事業者の規約の中で行われます。承継では次の点が確認されます。
- 開発者アカウントの名義 — 法人名義か、個人名義のまま運用していないか。個人名義のまま残っていると、譲渡後の移管に手間がかかります
- 規約違反の履歴 — 審査のリジェクトや、警告を受けた経緯があるか
- 手数料の条件 — 売上の規模によって料率が変わる制度を使っている場合、譲渡後にその条件が維持されるか
開発者アカウントは、事業のほぼすべてが乗っている器です。名義と権限の所在を先に確かめておきます。
IPと外部素材の権利
自社タイトルを持っている場合、権利の整理が評価に直結します。
- IPの帰属 — キャラクター・世界観・ロゴが自社に帰属しているか。原作がある場合は、許諾の範囲と期間
- 外部素材 — 音楽・ボイス・イラスト・エンジンやミドルウェアの利用条件。買い切りか、売上に応じた支払いか
- 外注した成果物 — 外注先との契約で、著作権が自社に移っているか。移っていなければ、使い続ける根拠は許諾になります
受託開発の場合は、逆に発注元に権利を渡している範囲を確認します。流用できないコードを資産として説明すると、後で食い違います。
※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。
開発メンバーの承継
技術者にとっての関心は、使う技術と作るものが変わるかどうかです。
開示の段階で答えられるようにしておきたいのは、開発中のタイトルが続くのか、使っている開発環境が変わるのか、評価と報酬の仕組みはどうなるのかの三点です。特に自社タイトルの開発チームは、そのタイトルが続くかどうかが去就の判断材料になります。
また、ストックオプションを発行している場合は、譲渡に伴う扱いを先に確認します。条件によっては、譲渡の時点で行使や消滅の論点が生じます。
価格の議論で見られる数字
自社タイトルと受託で、見られる数字が分かれます。
- 自社タイトル — 月次の売上の推移、継続率、課金ユーザーの比率、運営の人件費。リリースからの経過期間
- 受託 — 受注残、取引先の集中度、技術者1人あたりの売上、外注の比率
- 共通 — 役員報酬を市場水準に置き換えたときの利益、開発中の案件にかかっている仕掛
当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
売り手が先に整えられること
準備として効果が大きいものを三つ挙げます。
第一に、タイトル別の収支です。自社タイトルがある場合、タイトルごとの売上と、そこにかかっている人件費・サーバー費・広告費を分けて出せるようにします。会社全体の損益だけでは、どのタイトルが支えているのかが分かりません。
第二に、権利の一覧です。自社IPと外部素材を分け、外部素材は利用条件と支払いの形を書き添えます。
第三に、開発者アカウントと各種サービスの権限の棚卸しです。誰が管理者で、退職した人の権限が残っていないか。これは譲渡の有無に関係なく確認する価値があります。
進め方の順番
検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。
- 秘密保持契約を結び、匿名の概要で相手の関心を見る
- トップ面談で、相手の目的と譲渡後の運営方針を確かめる
- 意向表明・基本合意で、価格と引き継ぎの枠組みを決める
- デューデリジェンス(買い手の調査)を受け、最終契約・クロージング
この業種では、開発中のタイトルをどう扱うかが基本合意の段階で決まります。中断するのか続けるのかで、人の残り方が変わります。