買い手候補として投資ファンドが現れることがあります。事業会社とは判断の仕組みが違うため、どういう組織なのかを知っておくと話が読みやすくなります。

ファンドは、お金を出す人と、それを運用する人に分かれています。お金を出す側をLP(リミテッド・パートナー、有限責任組合員)、運用する側をGP(ジェネラル・パートナー、無限責任組合員)と呼びます。

売り手と話すのはGPの側です。しかし決めている条件の多くは、LPとの約束から来ています。ここを知ると、相手の動きの理由が分かります。

LPとGPの関係

LPは、ファンドに資金を出す投資家です。年金基金、金融機関、事業会社、地方自治体の基金、個人の資産家などが入ります。LPは運用の判断に関与せず、責任は出資の範囲に限られます。

GPは、ファンドを運営する会社です。投資先を探し、調査し、価格を決め、買い、経営に関与し、売ります。報酬は、運用の期間中に受け取る管理報酬と、利益が出たときに受け取る成功報酬に分かれます。

この構造から、2つのことが出てきます。

1. GPはLPに説明する義務がある。投資の判断には社内の委員会があり、LPへの報告もあります。したがって、GPの担当者が「いいですね」と言っても、それで決まりではありません。

2. GPは利益を出す動機が強い。成功報酬は利益に連動します。したがって、安く買って高く売ることが行動の基本になります。

これは悪いことではなく、構造です。相手がどういう動機で動いているかを知っておくと、交渉の読み方が変わります。

ファンドには期限がある

売り手にとって最も重要な点です。ファンドには存続の期間が決まっています。

一般に、ファンドを組成してから数年かけて投資し、その後数年かけて回収し、全体で10年程度で終わる形が取られます。期限が来れば、投資先を売って現金化し、LPに返します。

つまり、買ったものはいずれ売られます。これは方針ではなく、ファンドの仕組みそのものです。

したがって、売り手が確かめることは決まっています。

  • そのファンドは組成から何年経っているか。期限が近いファンドは、短い期間で成果を出す必要があります。
  • 次に誰に売るつもりか。事業会社に売る、別のファンドに売る、上場させる、経営陣に売る。
  • 売るときに、従業員や取引先はどうなるのか。

「いずれ売られる」ことを受け入れられるかどうかが、ファンドに譲るかどうかの判断になります。従業員に長く続いてほしいと考える場合、ここが論点になります。

事業会社との違い

買い手が事業会社の場合と比べます。

統合の仕方。事業会社は自社のグループに組み込み、制度やシステムを揃えることが多くなります。ファンドは独立した会社として運営し、経営の体制を整える方向に動くことが多くなります。したがって、屋号や組織が残りやすい面があります。

経営者の扱い。ファンドは経営する人を必要とします。売り手が残って経営を続ける形、外部から経営者を招く形があります。残って続けたい場合、ファンドのほうが選択肢になることがあります。

価格の決め方。事業会社は自社との組み合わせの効果を織り込めるため、高く出せる場合があります。ファンドは将来の売却価格から逆算するため、効果の読み方が違います。

判断の速さ。ファンドは投資の判断に慣れているため、検討が体系的で早いことがあります。一方、委員会の承認が必要なので、途中で止まることもあります。

資金の確実性。ファンドは出資のコミットメントを持っているため、資金の手当てが確かな場面があります。

売り手が確かめる項目

ファンドが買い手候補の場合、確かめる項目を挙げます。

どのファンドか。運用している金額の規模、投資の対象(業種・規模)、過去の投資先。過去の投資先が公表されているなら、その後どうなったかを見ます。

ファンドの残存期間。組成からの年数と、残りの期間。

LPの構成。どういう投資家が出しているか。公的な資金が入っているファンドは、方針に一定の制約があることがあります。

投資の判断の手続き。どの段階で誰が決めるのか。委員会はいつ開かれるのか。

買った後の体制。誰が経営するのか。人を送るのか、売り手に続けてもらうのか。

次の売却の考え方。何年後に、誰に売る想定か。

これらは聞けば答えが返ってくる項目です。答えが曖昧な場合、その点が後の論点になります。

残る形・続ける形

ファンドに譲る場合、売り手が一部の株式を残して経営を続ける形があります。

この形の利点は、将来さらに価値が上がったときに、その分を受け取れることです。ファンドが数年後に売るとき、残していた持分も一緒に売れます。

一方で、リスクも残ります。業績が落ちれば残した持分の価値も下がります。ファンドの方針に従う必要があり、経営の自由度は下がります。

この形を取る場合、契約で決めることが増えます。

  • どの事項をファンドの承認なしに決められるか
  • 将来売却するときに、一緒に売る義務があるか
  • 逆に、一緒に売る権利があるか
  • 業績目標と、達成しなかった場合の扱い
  • 経営者の報酬と、業績連動の部分

「残る」という言葉だけで合意すると、後から条件を詰める段階で揉めます。株主間の契約として、先に書いておく必要があります。契約と資金の設計は個別の事情で変わるため、弁護士・税理士に確認してください。

よくあるご質問

A.ファンドに資金を出す投資家のことです(有限責任組合員)。年金基金、金融機関、事業会社などが入ります。運用の判断には関与せず、責任は出資の範囲に限られます。運用する側はGPと呼ばれます。
A.ファンドには存続の期間が決まっており、期限が来れば投資先を売って現金化しLPに返します。これは方針ではなく仕組みです。次に誰に売る想定かを確かめてください。
A.目的によります。屋号や組織が残りやすく、経営を続けたい場合はファンドが選択肢になります。組み合わせの効果を価格に織り込めるのは事業会社です。いずれ売られることを受け入れられるかが分かれ目です。
A.将来価値が上がれば受け取れますが、業績が落ちれば持分の価値も下がります。承認が必要な事項、将来一緒に売る義務と権利、業績目標の扱いを株主間の契約で先に書いてください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら