子会社を持っている会社の連結決算を見ると、純資産の中に「非支配株主持分」という欄があります。少数株主持分と呼ばれていた項目です。
意味は単純で、子会社のうち、自分以外の株主に属する分です。子会社の株を80%持っているなら、残りの20%は他人のものです。連結決算では子会社の資産も負債も全部足し込むので、他人の分を別に示しておく必要があります。
M&Aでは、この欄があることで価格の計算と進め方が変わります。中小企業でも、グループを組んでいる会社や、過去の経緯で株が分散した子会社を持つ会社では出てきます。
連結の決算で、どこに出るか
連結の貸借対照表では、純資産が「親会社に属する分」と「非支配株主に属する分」に分かれます。連結の損益計算書でも、当期の利益が同じように分かれます。
ここで間違えやすいのは、連結の数字をそのまま使って評価してしまうことです。連結の純資産には他人の分が入っており、連結の利益にも他人の分が入っています。
株式を買う側が手に入れるのは、親会社に属する分だけです。したがって評価では、親会社に属する純資産・利益を使います。連結の合計を使うと、持っていない部分まで価値に数えることになります。
単体の決算しか作っていない会社でも、同じ論点は起きます。子会社の株を80%持っているなら、子会社の価値の80%分が自社の価値に含まれるという考え方です。この場合は子会社株式の評価が論点になります。
残りの20%を誰が持っているか
実務でいちばん重いのは、残りを誰が持っているかです。
- 創業家の親族。相続で分かれた、設立のときに出してもらった、といった経緯。
- 取引先。資本関係を作って取引を安定させた経緯。
- 役員・従業員。
- 他の事業者。合弁の形。
買い手は通常、グループ全体を100%にしたいと考えます。子会社に別の株主が残ると、重要な決定に同意が要り、配当も分かれ、情報も渡すことになります。したがって「残りも集めてほしい」という条件が付くことがあります。
ところが、集められるとは限りません。連絡が取れない、売る意思がない、価格が合わない。ここで止まる取引があります。だから、譲渡を考え始めた段階で株主名簿を確かめ、誰が何%持っているかを把握しておく必要があります。
集められないときの進め方
全部を集められない場合、いくつかの形があります。
そのまま残す。買い手が受け入れるなら、非支配株主がいる状態で引き継ぎます。価格は、親会社に属する分で計算します。
会社法の仕組みを使う。一定の割合以上を持っている株主が、残りの株主に売渡しを請求できる制度や、株式の併合を使って整理する方法があります。要件と手続きが細かく定められており、反対する株主には価格の決定を裁判所に求める道があります。使えるかどうかは個別の判断になるため、弁護士に確認してください。
子会社を外す。その子会社だけを譲渡の対象から外し、親会社から切り離す形。残す側に必要な事業があると難しくなります。
どの形でも、時間がかかります。買い手が決まってから始めると、交渉の期間が延びます。先に手を付けておくほうが、条件が良くなります。
買い手から見た論点
買い手の立場では、確かめることが3つあります。
名簿が正確か。株主名簿と実際の株主が一致しているか。過去の譲渡が名簿に反映されていない、名義だけ他人になっている(名義株)、相続の手続きが済んでいない、といった状態があります。
定款の制限。株式の譲渡に取締役会などの承認が必要かどうか。非上場会社では制限を付けているのが通常です。
少数株主の権利。帳簿の閲覧請求、株主総会での議決権、一定の割合を持つ株主が持つ権利。数%でも行使できる権利があるため、「少数だから影響がない」とは言えません。
買った後に少数株主が残る場合は、配当の方針、情報の提供、将来の整理の道筋を、買う前に考えておくことになります。
「会社全体の価値から株式の価値を出す」という順序は、相続税評価の見直しでも前提に置かれつつあります。国税庁「取引相場のない株式の評価の見直し(骨子)」(取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 第5回・令和8年8月20日)は、取引相場のない株式の評価について経営事情の異なる上場会社との比較から1株当たりの価格を算定するのではなく、評価会社全体の価値から株式の評価をするべきとの考え方を示しています。これは相続税・贈与税の財産評価の話で、M&Aの譲渡価格を決める評価とは目的が違います。ただ、全体の価値をいったん出してから株主に帰属する部分を切り出すという順序は同じで、子会社を100%持っていない会社では、その切り出しのところに非支配株主持分が挟まります。なお同資料は、見直し内容や税負担の在り方等も含め最終的には税制改正プロセスにおいて決定するとしており、確定したものではありません。
売り手として先にやること
順序としては、次の形が実務的です。
1. 株主名簿を現物で確かめる。グループの全社について、誰が何株持っているかを一覧にします。古い会社では名簿が更新されていないことがあります。
2. 名義と実態が違う株を整理する。名義株、相続が済んでいない株は、早いうちに手を付けます。時間がかかる種類の作業です。
3. 連絡が取れるかを確かめる。遠い親族が持っている場合、所在の確認から始まります。
4. 連結・単体のどちらで数字を出すかを決める。親会社に属する分で評価されることを前提に、自社の数字を整理します。
株の所在は、譲渡の可否そのものを左右します。価格の話より前に来る論点です。会社法・税務の判断は個別の事情で変わるため、弁護士・税理士に確認してください。
なお、子会社を持たない会社でも同じ論点は出ます。自社の株主が複数いる場合、買い手から見れば「残りを誰が持っているか」という同じ問いになります。グループを組んでいるかどうかではなく、株が1人に集まっているかどうかが分かれ目です。名簿を確かめる作業は、どちらの会社でも最初に来ます。
最後に、連結の決算を作っていない会社について補っておきます。子会社があっても、規模によっては連結の決算書を作る義務がない場合があります。その場合、買い手は各社の単体の決算書を集めて、自分で合算して見ます。したがって、グループ各社の決算書を揃えて渡せる状態にしておくことが、評価の前提になります。会社ごとに締めの時期がずれていると、合算そのものができません。