会社の株式を買うとき、何%を買うかで1株あたりの金額が変わります。
100%または過半数を買えば、経営を自分で決められます。役員を選び、方針を決め、配当を決め、将来売ることもできます。この「決められる」ことに対して上乗せされる部分が、支配権プレミアム(コントロールプレミアム)と呼ばれます。
逆に、少数の持分だけを買う場合は、決める力がありません。だから1株あたりの評価は下がります。これを少数株主持分の減価(ディスカウント)と呼びます。
なぜ値段が変わるのか
同じ会社の同じ1株でも、持つ意味が違います。
支配を取れる場合にできること。役員の選任、方針の決定、配当の決定、役員報酬の決定、資産の処分、他社との提携、将来の売却。会社の現金の使い道を決められます。
少数の場合にできること。配当を受け取る、株主総会で議決権を行使する、帳簿の閲覧を請求する(一定の要件の下)。決められることはほとんどありません。
加えて、少数持分は売りにくいという問題があります。非上場会社の少数株式を買う相手は限られます。配当が出ていなければ、持っていても現金が入りません。
したがって、同じ1株に対して払える金額が変わります。支配を取れる側は高く払えて、少数しか取れない側は低くしか払えません。
この差は、評価の実務でも織り込まれます。少数株主が取得する場合には、配当を基準にした評価方法が使われることがあるのは、この考え方に沿ったものです。
中小企業では、実務の形で現れる
中小企業のM&Aでは、「プレミアムが何%」という形では議論されません。代わりに、何%を買うかで交渉の中身が変わる形で現れます。
100%買う場合。最も単純で、買い手が望む形です。価格も最も高くなります。
過半数を買う場合。経営は決められますが、少数株主が残ります。配当の方針、情報の提供、将来の整理をどうするかを決める必要があります。残る株主が前の経営者なら、関係は続きます。
3分の2以上を買う場合。定款の変更や組織再編などの重要な決定ができる水準です。この線を意識して持分を決めることがあります。
少数を買う場合。資本提携の形です。経営は売り手が続けます。買い手は配当と、提携による事業上の効果を期待します。
買い手がどの形を望むかは、目的で変わります。経営を自分でやるつもりなら100%、提携が目的なら少数。ここが合わないと、交渉が噛み合いません。
段階的に買う形
最初に一部を買い、後から残りを買う形があります。売り手が完全に退く準備ができていない場合や、買い手が事業を見てから判断したい場合に使われます。
この形では、後から買う分の価格をどう決めるかが核心になります。
先に決めておく。契約で価格または計算式を定めます。買い手にとっては予測がつき、売り手にとっては上がる余地が無くなります。
その時点で決める。業績に応じて変わります。売り手は頑張る動機を持ちますが、交渉が再度必要になります。
業績に連動させる。一定の指標を達成したら価格が上がる形(アーンアウト)。
いずれの場合も、残っている期間の経営をどう進めるかを決めます。誰が決定権を持つのか、どの事項は相談するのか。これを決めずに少数株主として残ると、意見が合わないときに動けません。
加えて、残りを買う約束が実行されない場合の扱いを決めます。買い手が買わない、売り手が売らない。どちらの場合も起こりえます。
少数株主として残る側のリスク
売り手が一部を残す場合、押さえておくことがあります。
配当が出るかは、買い手が決めます。過半数を持つ買い手が配当しない方針を取れば、持分から現金は入りません。
役員報酬も買い手が決めます。役員として残る場合、報酬の水準が変わる可能性があります。
将来売れるかどうかが不確か。買い手が買い取ってくれる保証が無ければ、売る相手が見つかりません。
会社の価値が下がる可能性。買い手の経営で業績が落ちれば、残った持分の価値も下がります。
したがって、残す場合は契約で手当てします。将来買い取ってもらう権利(プット・オプション)、配当の方針、重要な事項の事前の同意、情報の提供。
これらを書かずに「後で買ってもらえるだろう」と考えるのは危険です。口約束は残りません。
買い手から見た使い分け
買い手の立場では、持分の設計を目的から考えます。
100%を取る。統合を進め、グループの制度に合わせ、自由に経営する。価格は最も高くなりますが、後の手間は最も少なくなります。
一部を売り手に残す。売り手に経営を続けてもらい、業績への関与を保つ。引き継ぎが難しい事業(技術、取引先との関係)では有効です。
少数から入る。事業を見ながら関係を作り、後に増やす。相手が完全な譲渡に踏み切れない場合の入口になります。
どの形でも、価格は持分の割合に比例しません。51%を買うのに、100%の価格の51%では済まないのが通常です。逆に、20%を買う場合は20%より安くなることがあります。
この点を双方が理解していないと、「割合で割れば計算できるはず」という前提で交渉が噛み合わなくなります。割合と価格は比例しない、が出発点です。
評価の方法と契約の設計は個別の事情で変わるため、税理士・公認会計士・弁護士に確認してください。