買収した会社に、自社から人を入れるべきか。送れば統制は効きますが、現場は身構えます。判断の基準と、送る場合の設計を整理します。
送る目的をはっきりさせる
まず、何のために送るのかを言語化してください。目的によって、送るべき人も期間も変わります。
① 経営を担う。前経営者が退き、後任がいない。
② 管理を入れる。月次の数字が出ない、統制が無い。
③ 情報をつなぐ。本社と現場の間の翻訳役。
④ 特定の機能を移植する。営業手法、生産管理、システム。
⑤ 監視する。——これが目的なら、送らないほうがよい。現場に伝わります。
送らないほうがよい場面
先に、こちらを整理します。
現地に経営できる人がいる。前経営者が残る、番頭格が育っている。送ると、その人の立場を奪います。
業種がまったく違う。本社の人が現場を理解できず、判断を誤ります。
規模が小さい。従業員10人の会社に本社から人が来ると、存在感が大きすぎます。
送る人がいない。無理に出すと、本社の業務が回らなくなります。
「とりあえず一人置く」は、最も費用対効果が悪い選択です。役割が無いまま座っている人は、現場の負担になります。
誰を送るか
人選が結果を決めます。求められる資質を挙げます。
聞ける人。「今までどうしていましたか」から入れる人。「本社ではこうしています」から入る人は、初日で信頼を失います。
数字が読める人。月次を自分で組み立てられる。
細かい実務を厭わない人。中小企業では、経営者も伝票を見ます。
悪い情報を本社に上げられる人。ここが隠されると、対応が遅れます。
優秀さより、誠実さと粘り強さが効きます。エース級を送れば成功する、という話ではありません。
役職をどうするか
設計上の分岐です。
代表取締役として送る。権限は明確ですが、現場から見れば「乗っ取り」に映ります。前経営者が完全に退く場合の形。
取締役として送る。経営に関与しつつ、代表は現地に残す。
部長・管理責任者として送る。実務の統制を担う。経営は現地に任せる設計。
出向者として、役職なしで送る。最も摩擦が少ないが、権限も無い。
実務では、最初は軽い役職で入り、状況を見て権限を足す形が取られます。いきなり重い役職を与えると、引き返せません。
最初の3か月は何もしない
実務で最も効く助言です。送り込んだ人に、最初の3か月は改善をさせないでください。
やることは、見る、聞く、覚えるだけ。
現場を回り、業務を教わり、名前を覚え、なぜそのやり方なのかを聞く。
この期間に信頼を作れるかどうかで、その後の1年が決まります。
逆に、着任1か月で「このやり方は非効率です」と言えば、その後どれだけ正しいことを言っても聞かれません。
本社の側も、3か月は成果を求めないでください。求めると、本人が焦って動きます。
処遇をどうするか
実務的な論点です。
雇用形態。出向か転籍か。出向なら、本社に籍が残ります。本人にとっては安心材料です。
給与の負担。本社が払うのか、買収先が払うのか、按分するのか。税務上の論点があります。グループ間の負担の付け替えは、寄附金とされないための設計が要ります。税理士にご確認ください。
手当。単身赴任、住居、帰省。
評価と処遇。本社に戻ったときの扱い。「行くと損をする」と思われると、人が集まりません。
現場にどう説明するか
受け入れられるかどうかは、説明の仕方で大きく変わります。
誰が説明するか。本社の人ではなく、前経営者から。「一緒にやってもらうために来てもらった」。
何をする人かを明示する。「管理を手伝う」「数字をまとめる」。役割が曖昧だと、監視役と見られます。
期間を伝える。「1年を目処に」。終わりが見えると、受け止め方が変わります。
誰の指示で動くかを明確にする。現地の社長の下なのか、本社直属なのか。ここが曖昧だと、指揮命令が二重になります。
本社側の受け皿を作る
送りっぱなしにしないでください。
定例の報告の場。週次か隔週で、経営層が直接聞く。メールだけでは空気が伝わりません。
判断を早く返す。現場からの相談に本社が2週間答えないと、送った人が現場で立場を失います。
守る。統合の過程では必ず摩擦が起きます。板挟みになったとき、本社が支えるかどうかでその後が決まります。
そして、任期を決めておく。「この状態になったら戻る」という条件を、送り出す前に握る。終わりが見えない状態で送ると、本人が消耗します。
送らずに済ませる方法
最後に、代替案です。
月次の報告だけ受ける。数字が出る仕組みを入れ、定例会議で確認する。
非常勤で通う。週1日、月2回。常駐しなくても統制は効きます。
外部の専門家を使う。会計事務所に月次の管理を委託する。
現地の人材を採用する。本社から送るより、現地で採るほうが定着します。
まず、送らずにできる範囲を検討してください。人を出すのは、本社にとっても負担です。PMIの担当者を誰にするかも併せてご覧ください。