D2C(Direct to Consumer)は、自社で企画した商品を、卸や小売を通さずに消費者へ直接売る形です。化粧品、健康食品、アパレル、家具、食品など、業種は広がっています。
この事業を譲る場面で評価されるのは、売上の額よりも「その売上がどうやって立っているか」です。広告を止めたら止まる売上と、顧客が自分で戻ってくる売上では、引き継ぐ側から見た価値が違います。ここでは、見られる論点を順に整理します。
ブランドは、権利と実体の両方を確かめる
D2Cの中心はブランドです。譲渡の場面では、まず権利として押さえられているかを確かめます。商標が登録されているか、名義が会社になっているか(経営者個人の名義になっていることがあります)、使っている区分が実際の商品に合っているか、更新の期限が来ていないか。
加えて、デザインや写真、文章の著作権が誰にあるかも論点です。外部のデザイナーやカメラマンに依頼した場合、契約で権利の帰属を定めていないと、会社のものと言い切れないことがあります。インフルエンサーとの契約で、撮影した素材の使用範囲が限られていることもあります。
権利の整理が済んでいない場合、引き継ぐ側は「買った後に使えなくなる可能性」を見ます。これは価格に響く部分です。譲渡を考える前に、商標の名義と期限、制作物の権利の所在を一覧にしておくと、ここで止まりません。
売上の質は、顧客の戻り方で見られる
D2Cで最も見られるのは、新規の顧客をいくらで獲得し、その顧客がいくら使ってくれるかの関係です。広告費をかけた分だけ売上が立つ構造だと、引き継ぐ側は「広告を止めたら売上も止まる」と見ます。逆に、一度買った顧客が自分で戻ってくる割合が高ければ、その部分は広告に依らない売上です。
定期購入(サブスクリプション)の形を取っている場合、何か月で解約されるかが核心の数字になります。初回を安くして集めた顧客が2回目で離れる構造だと、積み上がりません。何か月続くのかの実績が、記録として出せるかが問われます。
また、顧客がどこから来ているかの偏りも見られます。1つの広告媒体に依存していると、その媒体の方針や費用の変動で売上が動きます。媒体の構成と、各媒体からの顧客がどのくらい続いているかを分けて出せると、説明が通ります。
顧客データの扱いは、契約と法令の両方を見る
顧客の情報は資産ですが、譲渡の場面では慎重に扱う必要があります。個人情報の取扱いについては、取得のときに示した利用目的の範囲と、第三者への提供に関する定めが関わります。事業譲渡に伴って引き継ぐ場合の扱いは、個人情報保護法に定めがありますが、要件を満たしているかは個別の判断になります。
実務では、プライバシーポリシーに何と書いてあるかが最初に見られます。事業の承継に伴う提供について書かれていない場合、引き継ぎ方を検討する必要があります。株式譲渡の形であれば、会社そのものが変わらないので、この論点は小さくなります。事業譲渡の形では、より丁寧な検討が必要です。
また、調査の段階で顧客データそのものを渡すことは通常しません。件数、購入の頻度、継続の期間といった集計した数字で説明します。個別のデータを早い段階で出すのは、避けるべき進め方です。この点は弁護士に確認してください。
生産と物流の委託先が、引き継げるか
D2Cの多くは、自社で工場を持ちません。製造は委託先(OEM)に、保管と発送は物流の委託先に任せる形です。したがって、この委託先との関係が引き継げるかが実務の論点になります。
確かめるのは、契約の内容(最低発注量、価格、支配権の異動に関する条項)、処方や仕様の権利が自社にあるか、同じ処方を他の会社にも出していないか、代わりの委託先があるかです。化粧品や健康食品では、処方と製造の許可が委託先側にあることがあり、委託先を変えると同じ商品が作れないことがあります。
物流についても、在庫の置き場、発送の条件、繁忙期の対応が契約でどうなっているかを見ます。自社の倉庫を持っている場合は、賃貸借の条件と、設備の状態が論点になります。
これらが1社に集中している場合、その1社との関係が事業の前提になります。「代わりがあるか」は、引き継ぐ側が必ず聞く質問です。
プラットフォームへの依存度
自社のサイトで売っているのか、大手のモールで売っているのか、その両方かで、評価が変わります。モールでの売上は、集客をモール側に依存しているので、規約や手数料の変更、検索の表示順の変動で動きます。アカウントの譲渡が規約で制限されている場合もあります。
自社サイトの売上は、集客を自分で作っている分、安定しやすくなります。ただし、その集客が広告に依存している場合は、前に書いた論点に戻ります。
引き継ぐ側から見ると、「自分の販路に乗せられるか」が動機になります。既に別のブランドを持っている買い手なら、商品を追加する形で広げられます。物流や広告の運用を共通化して費用を下げる形も取られます。
逆に、売上の大半が1つのプラットフォームの1つの商品で立っている場合、そのプラットフォームの変動がそのまま事業の変動になります。構成を分けておくことが、譲渡の前にできる準備です。契約・権利関係・個人情報の扱いは、弁護士・税理士に確認してください。