AI開発・データ分析の会社では、学習に使ったデータを譲渡後も使えるのかが評価の分かれ目になります。モデルそのものより、その元になったデータの権利関係が論点です。本稿では、データの利用権、モデルの帰属、研究者の承継という三つの軸で整理します。

相談のきっかけ

この業種では、次のような形で譲渡が検討されます。

  • 研究開発の資金が続かない — 受託で稼ぎながら自社の開発を進める形に無理が出てきた
  • 計算資源の負担 — 学習に必要な環境の費用が、単独では賄いきれない
  • 採用で勝てない — 研究者・データサイエンティストの処遇で大手に競合できない
  • 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です

レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。

学習データの利用権|この業種で最も重い論点

モデルの性能は、学習に使ったデータに支えられています。そのデータを譲渡後も使えるかは、契約の書き方で決まります。

  • 顧客から預かったデータ — 利用の目的が「その顧客向けの開発」に限定されていないか。限定されていれば、他の案件や自社モデルの改善には使えません
  • 二次利用の同意 — 匿名化・統計化したうえでの利用が認められているか
  • 外部から取得したデータ — 提供元の利用規約で、再利用や譲渡が認められているか
  • 公開データ — ライセンスの条件(商用可否・派生物の扱い)

使えないデータで作ったモデルは、譲渡後に作り直せません。買い手が最初に確認するのはここだと考えて準備しておくと、交渉が速く進みます。

※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。

モデルと成果物の帰属

受託でモデルを作っている場合、権利の線引きが契約ごとに違っていることがあります。

よくある形は、学習済みモデルは顧客に、汎用の仕組みは自社にという分け方です。ただし、この線が契約書に書かれていないと、どちらの主張も成り立ってしまいます。

また、顧客向けに作った仕組みを他の顧客に流用している場合、その根拠が契約にあるかを確認します。根拠がないまま流用していると、調査で指摘されます。流用できる部分とできない部分を分けて説明できる状態が望ましいです。

個人データを扱っている場合

学習データに個人データが含まれる場合、取り扱いの体制が評価の前提になります。

  • 取得時の利用目的の通知・公表の内容と、実際の利用が合っているか
  • 委託先の管理の記録(外部に処理を出している場合)
  • 第三者提供や共同利用の形をとっている場合の根拠と記録
  • 過去に漏えいや誤送信があった場合の対応の記録

株式譲渡では法人が存続するため、取り扱いの主体は変わりません。一方で事業譲渡の場合は、データの移転が個人データの第三者提供に当たるかどうかという論点が生じます。実務では、顧問弁護士に確認しながら設計します。

研究者・技術者の承継

この領域の人材は転職の選択肢が多く、処遇の設計が承継の成否を左右します。

開示の段階で答えられるようにしておきたいのは、研究のテーマが続くのか、計算資源が使えるのか、論文や学会での発表が認められるのかの三点です。発表の可否は、研究者にとって報酬と同じくらい重い条件になることがあります。

また、大学との共同研究がある場合は、その契約が譲渡後も続くかを確認します。相手方が学校法人の場合、支配権の異動について協議が必要なことがあります。

価格の議論で見られる数字

研究開発型の事業では、次の点が議論の対象になります。

  1. 受託と自社開発の比率 — どちらで稼いでいるか
  2. 再現可能性 — 同じ結果を出せる形で、コードとデータと手順が残っているか
  3. 顧客の集中度 — 上位数社で売上の何割か
  4. 計算資源の費用 — 固定でかかる環境の費用がどれだけあるか

当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。

売り手が先に整えられること

準備として効果が大きいのは次の三つです。

第一に、データの出所の一覧です。どのデータを、誰から、どういう条件で取得したか。利用の範囲と期間、二次利用の可否を1枚にまとめます。これが無いと、買い手は最も保守的な前提で評価します。

第二に、再現の手順です。学習の環境、使ったライブラリの版、前処理の手順が残っているか。属人的な作業が多いと、譲渡後に同じ品質を出せない懸念を持たれます。

第三に、契約の棚卸しです。顧客ごとに、成果物の権利と流用の可否がどう書かれているかを整理します。契約書の文言をそのまま抜き出した一覧が、最も説明の手間が少なくなります。

進め方の順番

検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。

  1. 秘密保持契約を結び、匿名の概要で相手の関心を見る
  2. トップ面談で、相手の目的と譲渡後の運営方針を確かめる
  3. 意向表明・基本合意で、価格と引き継ぎの枠組みを決める
  4. デューデリジェンス(買い手の調査)を受け、最終契約・クロージング

この業種では、データの利用権の確認が調査の中心になります。先に整えておくほど、検討の期間は短くなります。

よくあるご質問

A.契約で二次利用が認められている場合に限られます。認められていなければ、その顧客向けの成果物であって、他に転用できる資産ではありません。契約の文言を確認したうえで、転用できる部分だけを説明することになります。
A.ライセンスの条件によります。商用利用の可否、派生物の公開義務、クレジット表示の要否などが条件として定められていることがあります。使用しているデータセットごとに条件を確認しておくことをお勧めします。
A.人数より、その人が抜けたときに事業が続くかが見られます。手順とコードが残っていて、他の技術者が引き継げる形になっていれば、少人数でも説明がつきます。

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相談料・着手金・月額報酬はいただいておりません。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。秘密保持を徹底し、社名が外に出ない形で進め方だけを整理することもできます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら