M&Aでは、基本合意で決めた価格がそのまま最終契約になるとは限りません。デューデリジェンスで簿外債務が見つかった、在庫の評価が想定と違った、主要取引先との契約に不確実性があった——こうした事情で、価格が引き下げられることがあります。このとき、手数料はどうなるのか。すでに払った中間金は戻るのか。本稿では、価格変動と手数料の関係を、契約書のどこを見れば判断できるかまで含めて整理します。
価格はどの段階で動くのか
まず、価格が動きやすい局面を押さえておきます。M&Aの価格は、次の三つの段階を経て確定します。
- 意向表明——買い手が資料と面談をもとに提示する、初期の希望価格。幅を持った提示になることもあります
- 基本合意——独占交渉に入る前提として合意する価格。この時点では法的拘束力を持たせないのが通例です
- 最終契約——デューデリジェンスの結果を踏まえて確定する価格。ここで初めて拘束力を持ちます
基本合意の価格に拘束力がないのは、デューデリジェンス前だからです。買い手は決算書と面談だけで判断しており、まだ帳簿の中身も契約書も見ていません。調査で想定外の事実が出れば、価格を見直すのは自然なことです。
したがって、基本合意の金額を「決まった金額」として資金計画を立てるのは危険です。最終契約までは動き得るものとして受け止めておく必要があります。デューデリジェンスで何が見られるかについては「デューデリジェンス(DD)とは」をご覧ください。
成功報酬は最終的な価格で再計算されるのが原則
成功報酬は、最終契約で確定した金額をもとに算定されるのが原則です。基本合意の価格ではありません。
当社の場合、基準額は株式価値(譲渡対価)+負債総額で、この株式価値は最終契約で確定した譲渡対価を指します。価格が下がれば基準額が下がり、レーマン方式の計算額も下がります。
具体例で見ます。基本合意時に株式価値3億円・負債2億円で基準額5億円、レーマン計算額2,500万円という見込みだったとします。デューデリジェンスの結果、価格が2億5,000万円に引き下げられたとすると、基準額は4億5,000万円となり、計算額は2,250万円です。
ただし、ここで最低手数料が関わります。当社の最低手数料は2,000万円(税別)ですので、計算額がこれを下回る場合は2,000万円が適用されます。価格が下がっても手数料が同じだけ下がるとは限らない、という点は理解しておいてください。
すでに払った中間金はどう扱われるか
次に、基本合意の時点で支払った中間金の扱いです。ここは金額が大きいだけに、契約前に必ず確認していただきたい部分です。
当社の中間金は成功報酬額の10%で、基本合意の締結時にお支払いいただきます。そして成約時には、成功報酬から中間金の全額を差し引きます。ただし、基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
価格が下がった場合はどうなるか。成功報酬が再計算されて下がったとき、すでに払った中間金が新しい成功報酬額を上回るということは、通常は起こりません。中間金は成功報酬額の10%という設計だからです。差引後の残額をクロージング時にお支払いいただく形になります。
| 局面 | 手数料の扱い |
|---|---|
| 価格が下がって成約した | 最終価格で再計算。最低手数料を下回る場合は最低手数料。中間金は全額差引 |
| 価格が上がって成約した | 最終価格で再計算。差引後の残額を成約時に支払う |
| 基本合意後に不成立となった | 成功報酬は発生しない。中間金の返金はなし |
| 基本合意前に中止した | 相談料・着手金・月額報酬は0円のため、仲介手数料の負担はない |
契約書のどこを見れば分かるか
価格変動と手数料の関係は、仲介契約書(アドバイザリー契約書)に書かれています。読むべき条項は限られています。
- 報酬の算定条項——基準額の定義。「最終契約に定める譲渡対価」なのか「基本合意に定める金額」なのか
- 中間金の条項——金額の決め方、支払時期、成功報酬からの控除、返金の可否
- 最低報酬の条項——金額と、適用される条件
- 契約の終了に関する条項——不成立となった場合の精算
- 実費に関する条項——立替費用が別途請求されるかどうか
注意していただきたいのは、基準額を「基本合意の金額」と定めている契約です。この定めだと、デューデリジェンスの結果で価格が下がっても、手数料は下がりません。理屈としてあり得ない条項ではありませんが、売り手にとっては不利になり得ますので、そう書かれているなら理由を確認すべきです。
仲介契約の読み方全般については「M&A仲介契約(アドバイザリー契約)の読み方」で条項ごとに整理しています。あわせてご覧ください。
価格が下がる話が出たときの実務対応
デューデリジェンスの後で減額の提案を受けたとき、手数料より先に考えるべきことがあります。その減額に根拠があるかです。
正当な減額もあります。未払残業代が積み上がっていた、退職給付の引当が不足していた、在庫に相当の滞留があった——これらは価格に反映されるべき事実です。一方で、根拠の薄い減額提案が出ることもあります。「思ったより印象が悪かった」といった漠然とした理由での引き下げは、交渉の技術として使われることがあります。
したがって、減額提案を受けたら次の順序で確認してください。①どの指摘に基づく減額か ②その指摘の金額的な影響はいくらか ③減額幅とその金額は見合っているか ④価格以外の方法(表明保証、補償、価格調整条項)で解決できないか。金額の引き下げ以外にも、着地のさせ方はあります。
この段階での対応は、「DDで問題が見つかったとき」や「M&Aの価格交渉」でも扱っています。仲介者が売り手側に立って論点を整理できるかどうかが、結果に直結する場面です。
見込みは、幅で持っておく
最後に、資金計画の立て方について申し上げます。M&Aの手取りは、一つの数字ではなく幅で考えておくのが実務的です。
試算しておくべきは、少なくとも次の三つの数字です。第一に基本合意の価格で成約した場合の手取り。第二に価格が1割程度下がった場合の手取り。第三に基本合意後に不成立となった場合に手元から出ていく金額です。三つ目は、中間金と専門家費用、そしてご自身が費やした時間です。
手取りの計算では、手数料だけでなく税金も差し引く必要があります。株式譲渡益への課税は20.315%(所得税15%・復興特別所得税0.315%・住民税5%)です。加えて、譲渡した翌年には住民税や社会保険料の負担が変わることもあります。具体的な税額は個別の事情によりますので、税理士にご確認ください。
当社では、ご契約の前に総額の目安を書面でご提示し、価格が動いた場合の見込みもあわせてお伝えしています。数字を確認したうえでご判断いただくことが、後の納得につながると考えています。
よくあるご質問
Free Consultation
価格が動いた場合の見込みも、お伝えします。
基本合意の価格で成約した場合、価格が下がった場合、不成立となった場合——三つの数字をご契約前にお示しします。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。