国際物流の実務は、許可・資格者・荷主の三つが揃って初めて成り立ちます。なかでも通関業は許可と通関士の配置が要件で、人が抜ければ業務が止まります。本稿では、許可、資格者、荷主基盤という三つの軸で整理します。
相談のきっかけ
この業種の相談は、人の確保と取引の規模から出てきます。
- 通関士を確保できない — 有資格者が高齢で、後任が育っていない
- 荷主の要求に応えきれない — 倉庫や輸送の手配まで一括で求められるが、自社の体制が足りない
- 為替と運賃の変動 — 海上・航空の運賃の変動に、単独では耐えにくい
- 後継者がいない — 帝国データバンクの2025年調査では、日本企業の後継者不在率は50.1%です
レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件超で2年連続の過去最多です。第三者への承継は、以前より一般的な選択肢になっています。
許可と登録|業務ごとに必要なものが違う
国際物流では、担う業務ごとに許可や登録が分かれます。
- 通関業の許可 — 税関長の許可で、営業所ごとに通関士の配置が求められます
- 貨物利用運送事業 — 他人の運送手段を使って運送を引き受ける事業の登録・許可。国際と国内、モード(海上・航空・鉄道)で区分があります
- 倉庫業の登録 — 自社で保管を行う場合
- AEO(認定事業者) — 認定を受けている場合、その維持の要件
株式譲渡であれば法人が存続するため許可は残りますが、役員の変更や営業所の体制について届出が必要になります。事業譲渡では取り直しが前提です。手続きは税関・地方運輸局と専門家にご確認ください。
※ 税務・法務の取り扱いは個別の事情で結論が変わります。実行の前に、顧問税理士・弁護士にご確認ください。
通関士の配置が、業務継続の条件
通関業では、営業所ごとに通関士を置くことが求められます。
つまり、通関士が辞めればその営業所の業務が続けられません。承継では、有資格者の人数と年齢、どの営業所に配置されているかが真っ先に確認されます。
開示の段階で答えられるようにしておきたいのは、配置が変わるか、勤務地が変わるか、処遇がどうなるかの三点です。有資格者は転職の選択肢が多いため、譲渡の設計では残留の条件を先に話すことが多くなります。
荷主基盤と、与信の管理
売上の構造を、荷主ごとに分けて見ます。
- 荷主の集中度 — 上位数社で売上の何割か
- 取扱の内容 — 輸入か輸出か、品目、仕向地。品目によっては他法令の確認(食品・医薬品・危険物など)が必要です
- 立替の規模 — 関税・消費税を立替えている場合、資金の負担が大きくなります
- 与信の管理 — 立替金の回収が滞っている荷主がいないか
関税・消費税の立替は、帳簿の売掛金には出るが利益を生まない資金です。買い手は運転資金として必ず見ます。月末の立替残高の推移を出せるようにしておきます。
コンプライアンスの記録
税関と関わる事業なので、法令遵守の記録が評価の前提になります。
確認されるのは、過去の申告の誤りと、その是正の記録です。修正申告や関税の追徴があった場合、原因と再発防止の対応が残っているか。AEOの認定を受けている場合は、その維持のための内部の管理の仕組みも見られます。
誤りがあったこと自体より、記録と対応の形が残っているかが見られます。隠すより先に出すほうが、結果として条件は安定します。
価格の議論で見られる数字
許可と資格者に支えられた事業として、次の点が議論の対象になります。
- 通関士の人数と年齢構成 — 営業所ごとの配置
- 荷主別の売上と粗利 — 立替を除いた、自社の作業に対する利益
- 立替金の残高の推移
- 許可・登録の種類 — 対応できる業務の幅
当社の報酬は移動総資産レーマン方式(基準額=株式価値+負債総額)で、最低報酬は2,000万円(税別)です。基本合意の時点で成功報酬額の10%を中間金としてお支払いいただき、成功報酬から全額差し引きます。基本合意後に不成立となった場合、返金はいたしません。
売り手が先に整えられること
準備として効果が大きいのは次の三つです。
第一に、許可・登録と資格者の一覧です。営業所ごとに、どの許可を持ち、通関士が何人配置されているか。氏名は出さずに人数と資格の取得年、年代が分かる形にします。
第二に、荷主別の粗利です。売上には立替金が混ざるため、粗利で見られます。荷主ごとに、取扱件数と粗利を出せるようにします。
第三に、立替金の管理の記録です。月末の残高と、回収の状況。資金の負担が把握できていることが、経営の説明になります。
進め方の順番
検討の初期は、社名を出さずに進めることができます。
- 秘密保持契約を結び、匿名の概要で相手の関心を見る
- トップ面談で、相手の目的と譲渡後の運営方針を確かめる
- 意向表明・基本合意で、価格と引き継ぎの枠組みを決める
- デューデリジェンス(買い手の調査)を受け、最終契約・クロージング
この業種では、通関士が残るかが業務の継続そのものに関わります。価格より先に、この条件を確かめることをお勧めします。