鋼材、ステンレス、アルミ、銅といった金属材料を扱う卸は、メーカーや商社から仕入れ、加工業者や建設会社に売る立場にあります。

他の卸と違うのは、扱う商品の価格が相場で動くことです。仕入値も売値も変動し、在庫の評価が大きく動きます。

加えて、多くの会社が切断・穴あけ・曲げといった一次加工を行っています。単に売るだけでなく、顧客が使える形にして渡す。この部分が差を作っています。譲渡の場面で見られる論点を整理します。

在庫が相場で動く

この業種の評価で最初に見られるのが在庫です。金属材料の価格は、原料の相場、為替、メーカーの価格改定で動きます。

したがって、在庫の評価方法と、相場が動いたときの処理が確認されます。

  • 評価の方法。先入先出か、総平均か、移動平均か。方法によって、相場が動く局面での損益の出方が変わります。
  • 相場が下がったときの処理。時価が簿価を下回る場合の評価の切り下げを行っているか。
  • 在庫の回転。何か月分持っているか。長く持つほど相場の影響を受けます。
  • 長期滞留。規格が合わなくなった材料、端材。

相場が上がった局面では利益が出やすく、下がった局面では損が出やすい業種です。したがって、買い手は直近の利益が相場の追い風によるものか、本来の商売によるものかを分けて見ます。

売り手として示せると強いのは、相場の影響を除いた利益です。仕入値と売値の推移を品目別に出せると、説明ができます。

仕入口座と、メーカーとの関係

仕入は、メーカー、商社、同業の問屋から行います。メーカーから直接仕入れる口座を持っているかどうかが、仕入条件に効きます。

確かめられるのは、口座の有無、取引の量、与信の枠、価格改定の通知の仕方、契約に支配権の異動に関する条項があるかです。

加えて、仕入の集中度が見られます。1社に依存していると、その社の方針変更が直接効きます。一方で、まとめることで条件が良くなる面もあります。

引き継ぐ側の動機としては、仕入をまとめて条件を改善することがあります。同業を買って仕入量を増やす形です。この場合、買い手は自社の仕入条件と比べて効果を計算します。

売り手として整えておくと良いのは、仕入先ごとの取引量と条件の一覧です。これがあれば、買い手は効果をすぐ計算できます。

加工のサービスが差を作る

材料をそのまま売るだけなら、価格の勝負になります。加工を付けることで、顧客にとっての価値が変わります。

切断、穴あけ、曲げ、面取り、表面処理の手配。顧客は、自分で加工する手間を省けます。この部分が、取引が続く理由になっています。

引き継ぐ側が見るのは次の点です。

  • 設備。切断機、レーザー、プレス。機種、年式、稼働状況。
  • 加工できる範囲。板厚、寸法、材質。
  • 納期。即日出荷ができるか。
  • できる人。設備を動かせる人が何人いるか。

「どこでも買える材料を、ここで買う理由」が加工と納期です。これを説明できるかどうかで、評価が変わります。

逆に、加工をしていない会社では、価格と在庫の品揃えが競争の軸になります。その場合は在庫の構成と仕入条件が中心の論点になります。

与信と資金の回り方

材料は単価が大きく、取引の金額も大きくなります。したがって与信の管理が効きます。

確かめられるのは、取引先ごとの与信の限度額、支払条件、手形の有無、長く滞っている売掛金、取引信用保険に入っているかです。

建設関係の取引先が多い会社では、工事の完成までの入金が遅くなることがあります。仕入の支払いが先に来るので、運転資金の負担が大きくなります。

加えて、相場が上がる局面では運転資金が増えます。同じ量を仕入れるのに必要な金額が増えるためです。これは利益が出ている局面でも資金が苦しくなる形で、業種に固有の論点です。

買い手は、この構造を見て必要な運転資金を見積ります。買収の代金だけでなく、運転資金の枠を用意する必要があります。

売り手として示せると良いのは、相場の局面ごとの運転資金の推移です。過去数年の在庫と売掛金の動きを出せると、買い手が計画を立てられます。

置き場と設備の制約

材料を扱うには、場所が要ります。重量物なので、床の強度、クレーン、搬入路が必要です。

したがって、倉庫と加工場の立地が実質的な参入障壁になります。同じ場所に同じ設備を揃えるのは簡単ではありません。

確かめられるのは、土地建物が会社名義か個人名義か、賃借の場合の条件と残存期間、クレーンの能力と検査の状況、用途地域の制約、近隣との関係です。

経営者個人の名義になっている場合、会社を譲っても不動産は個人に残ります。売るか貸すかを別に決めることになり、金額が大きいため株式の価格とは別の交渉になります。

加えて、顧客との距離が効きます。重量物の配送費は距離に比例するので、商圏が限られます。これも参入障壁であり、同時に成長の制約でもあります。

引き継ぐ側の動機

買う側の動機は、次の形に分かれます。

  • 同業が地域を広げる。配送の距離に制約があるため、別の地域の拠点を得ることで商圏が広がります。
  • 仕入をまとめる。取扱量を増やしてメーカーとの条件を改善する形。
  • 加工の能力を得る。材料を売るだけだった会社が、加工のサービスを取り込む形。
  • 顧客を得る。特定の業種(建設、製造、造船など)の顧客を持つ会社を加える形。
  • 加工業者が仕入を内製化する。材料を使う側が、仕入の機能を取り込む形。

どの動機でも、在庫の中身と、置き場と、加工できる人が見られます。

譲渡の前に整えられるのは、在庫の年齢別一覧、仕入先ごとの条件、取引先ごとの与信と支払状況、設備の一覧、不動産の名義と条件です。どれも実務の記録で、新しく作る資料ではありません。税務・許認可の扱いは個別の事情で変わるため、税理士・弁護士に確認してください。

よくあるご質問

A.在庫の評価方法と回転、長期滞留の有無が最初に見られます。相場の影響を除いた利益が示せるかが重要で、仕入口座、加工のサービス、与信の管理、置き場の確保もあわせて確認されます。
A.相場の追い風による分と、本来の商売による分を分けて見られます。品目別の仕入値と売値の推移を出せると説明ができます。相場が上がる局面では運転資金も増えるため、資金の動きもあわせて見られます。
A.どこでも買える材料をここで買う理由になるため、評価の材料になります。設備の機種と年式、加工できる範囲、納期、動かせる人の数が確認されます。加工をしていない場合は在庫の構成と仕入条件が中心になります。
A.会社を譲っても不動産は個人に残ります。売るか貸すかを別に決めることになり、金額が大きいため株式の価格とは別の交渉になります。床の強度やクレーンを備えた物件は代替が難しいため、早めに整理してください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら