専門卸は、扱う商品の範囲を絞り、その分野に深く入り込んでいる卸です。機械工具、電材、医療材料、化学品、半導体の部材、特定メーカーの代理店など、業種はさまざまですが、共通するのは「品数は限られるが、その分野なら何でも分かる」という形です。

総合卸が品揃えと物流の規模で勝負するのに対し、専門卸は分野の知識と、メーカーとの関係で立っています。したがって、譲渡の場面で評価されるものも違います。ここでは、引き継ぐ側が何を見るのかを整理します。

メーカーとの関係が、最初の論点になる

専門卸の多くは、特定のメーカーから仕入れる口座を持っています。代理店契約や特約店契約の形を取っていることもあります。この口座は、新しく作ろうとすると簡単ではありません。メーカー側が販売網を管理しているため、既存の代理店がある地域に新しく口座を開かないことがあります。

したがって、引き継ぐ側にとって、仕入口座そのものが大きな価値になります。ただし、ここが同時に最大の論点でもあります。代理店契約には、支配権が変わった場合に相手方が解除できる条項(COC条項)が入っていることがあります。株式譲渡の形であれば会社は変わりませんが、契約にその条項があれば通知や承諾が必要になります。

確かめる順序としては、まず契約書を集め、支配権の異動に関する条項があるかを見ます。次に、メーカー側の担当者との関係が、経営者個人のものか会社のものかを整理します。「社長だから口座がある」状態だと、交代後に続くかが問われます。

在庫は、量より構成を見られる

卸の貸借対照表で大きいのは在庫です。専門卸では、「すぐ出る在庫」と「置いているだけの在庫」の差が大きくなります。特定の取引先のために確保している品、生産が終わった機種の補修部品、過去に見込みで仕入れた品が混ざります。

引き継ぐ側が見るのは、金額ではなく回転です。何年動いていないものがいくらあるのか、それが評価上どう扱われるのか。長く動いていない在庫は、時価に直す段階で下がります。一方で、生産終了品の在庫は「ここにしかない」価値を持つことがあります。取引先がその部品のために付き合っている場合、それは強みです。

この区別は、在庫の一覧に「いつ入ったか」「直近1年で何回出たか」が付いていないと説明できません。棚卸しの記録が整っている会社は、ここで説明ができます。整っていない会社では、買い手が一律に割り引いて見ることになります。

提案できる人がいるかどうか

専門卸の売上は、カタログを渡して注文を待つ形では成り立ちません。取引先の現場が何に困っているかを聞き、どの商品を組み合わせれば解決するかを示す形で成り立っています。この部分は、商品知識と現場の経験を持つ人がやっています。

したがって、引き継ぐ側は「その人が残るか」を見ます。経営者自身がその役割を担っている会社では、交代後にどうするかが条件になります。一定期間、顧問や従業員として残る形が取られることがあります。

また、知識が1人に集中しているか、複数人に分かれているかも見られます。複数人が分野を分けて担っている会社は、1人が抜けても回ります。この点は、譲渡の前に手を打てる部分です。若手に同行させる、品目ごとの要点を書き出す、取引先の窓口を2人体制にするといった形で、集中を薄められます。

与信と回収の管理

卸は、仕入れて売るまでの間、資金を立て替えます。仕入先への支払いが先で、取引先からの入金が後になる形が多く、運転資金の負担が大きい業態です。加えて、取引先が払えなくなると、その分がそのまま損になります。

引き継ぐ側が見るのは、取引先ごとの与信をどう決めているか、支払いが遅れている先がないか、長く滞っている売掛金が残っていないかです。記録が無く「長い付き合いだから」で続いている取引があると、そこが論点になります。

あわせて、取引信用保険に入っているか、ファクタリングを使っているか、手形の扱いがどうなっているかも確認されます。中小企業では手形の支払いサイトが長いことがあり、資金の回り方に影響します。

この部分は、資料を整えるだけで印象が変わります。取引先の一覧に、与信の限度額、支払条件、直近の支払い状況を付けておくと、説明が要りません。

引き継ぐ側から見た組み合わせ方

専門卸を買う側の動機は、おおむね3つに分かれます。

  • 扱う分野を増やす。既存の販路に新しい商材を乗せる形。取引先が重なっていれば、提案の幅が広がります。
  • 地域を広げる。同じ分野で、別の地域の卸を加える形。仕入のまとまりが増えるので、仕入条件の改善が見込めます。
  • メーカー側が販売網を確保する。製造業が、自社製品を扱う卸を傘下に入れる形。

どの動機の相手かによって、見るところが変わります。分野を増やしたい相手は人と知識を重視し、地域を広げたい相手は取引先と在庫を重視します。自社の強みがどちらに当たるかで、候補の向きが変わります。

許認可や契約の承継、税務の扱いは個別の事情で変わります。実際に進める際は、弁護士・税理士に確認してください。

よくあるご質問

A.仕入口座と代理店契約、動く在庫の構成、分野の知識を持つ人、取引先ごとの与信の管理が見られます。品揃えの規模ではなく、特定の分野での深さが評価の対象になります。
A.株式譲渡では会社が変わらないため契約は残りますが、支配権の異動に関する条項(COC条項)があれば通知や承諾が必要です。事業譲渡では、相手方の同意を得て個別に移すことになります。契約書を先に集めて確認してください。
A.時価に直す段階で評価が下がることがあります。ただし、生産終了品の補修部品のように「ここにしかない」在庫は強みになることもあります。いつ入っていつ出たかの記録があると、説明ができます。
A.一定期間、顧問や従業員として関与する形を条件に入れることが多くあります。譲渡の前に、若手への同行や窓口の複数化で集中を薄めておくと、条件の交渉で有利に働きます。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら