商工会議所、業界団体、地域の協議会。会費を払い、役職を引き受け、行事に出てきた。これらは譲渡後どうなるのか。実務として整理しておくべき項目です。
まず、一覧にする
意外に把握されていません。加入している団体をすべて書き出してください。
列は、団体名 / 加入時期 / 年会費 / 役職の有無 / 会員資格の要件 / 脱退の条件。
会計の諸会費の勘定を数期分たどると、支払っている先が出てきます。
そして、会費以外の負担も書いてください。行事への参加、当番、寄付、協賛。お金に出ていない負担が、実は大きいことがあります。
会員資格は引き継げるのか
団体によって扱いが違います。規約を確認してください。
法人が会員の場合。株式譲渡では法人格が変わらないため、原則としてそのまま継続します。ただし、代表者の変更を届け出る必要があることが多い。
個人が会員の場合。経営者個人の名義で加入していれば、退任により資格を失います。
資格に要件がある場合。業種、所在地、従業員数、資本金。買収によって要件を満たさなくなることがあります。
事業譲渡の場合は、原則として引き継げません。新たに加入することになります。
役職を引き受けている場合
理事、監事、部会長、支部長。これらは個人に対する就任であることが多く、会社の譲渡とは別です。
退任するのであれば、任期の途中でも辞任の手続きが要ります。後任を探す必要が生じることもあります。
いつ伝えるかは、慎重な判断が必要です。団体には同業者がいます。譲渡の情報が業界に広がる経路になり得ます。
実務では、クロージング後、公表と同時に伝えるのが通常です。その前に相談しないでください。
買い手が引き継ぎたがらない場合
率直に整理します。買い手にとって、地域の付き合いは負担に見えることがあります。
会費、行事への参加、役職の当番。とくに遠方の買い手であれば、物理的に出席できません。
ただし、その付き合いが事業に効いている場合があります。仕事の紹介、情報の入手、信用の裏付け。
したがって、売り手として示すべきは、その付き合いが何を生んでいるかです。
「昔からの付き合いだから」では、引き継がれません。「この組合を通じて年間◯件の受注がある」と説明できれば、買い手の判断が変わります。
脱退する場合の注意
引き継がないと決めた場合の実務です。
脱退の予告期間を確認してください。「事業年度の末日の3か月前までに通知」といった定めがあることがあります。
出資金・持分の返還。協同組合などでは、出資している場合があります。脱退時に返還されるか、いつ返還されるかを確認してください。決算後になることが多い。
共同事業からの離脱。共同購買、共同受注、共済。脱退すると条件が変わります。
これらは貸借対照表に載っていることがあります。デューデリジェンスで確認される項目です。
共済と保険の扱い
見落とされやすい項目です。団体を通じた共済や保険に加入していることがあります。
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)、小規模企業共済、団体傷害保険、労働保険の事務組合。
とくに小規模企業共済は経営者個人の制度であり、退任に伴う請求の要件と時期を確認する必要があります。受け取り方によって課税が変わります。
中小企業倒産防止共済は法人の契約です。解約するか継続するかで、損益と資金が動きます。
いずれも税理士にご確認ください。
寄付と協賛の整理
地域の行事、スポーツ団体、学校、神社の祭礼。長年続けている支出があります。
これらは、企業価値の算定では調整の対象になり得ます。事業に直接必要でない支出として、利益に戻される可能性があります。
ただし、地域での信用に関わる場合、やめると影響が出ることもあります。
したがって、金額と、やめた場合の影響を整理して買い手に伝えてください。
「続けてほしい」という希望があるなら、交渉の条件として出せます。金額が小さければ、受け入れられることが多い。
引き継ぎの場を作る
実務で効く工夫です。主要な団体には、買い手と一緒に挨拶に行ってください。
取引先への挨拶と同じです。前経営者が紹介することに意味があります。
地域の団体は、顔の見える関係で動いています。名刺を送っただけでは、関係は引き継がれません。
そして、買い手が継続する意思があるなら、それを伝えてください。「今後も会員として続けます」という一言が、地域での受け止め方を変えます。
逆に、脱退するなら、その旨も丁寧に。黙って会費を止めるのが、最も印象を損ねます。
価値として説明する
最後に、考え方の整理です。
地域と業界の付き合いは、決算書に表れない資産です。同時に、買い手から見れば費用と手間でもあります。
どちらとして扱われるかは、説明できるかどうかで決まります。
「この団体を通じて、こういう情報が入る」「この付き合いがあるから、この取引が続いている」。具体的に語れれば、価値になります。
語れなければ、削減対象です。
譲渡を考え始めたら、自社の付き合いが何を生んでいるかを、一度棚卸ししてみてください。その作業自体が、事業の見直しになります。