DDが終わると、買い手から指摘が出てきます。これを売り手にどう伝えるかで、その後の交渉が変わります。

report をそのまま渡すと、売り手は自社を否定されたと受け取ります。一方、要約しすぎると後の交渉で前提がずれます。本稿では、何をどう分けて伝えるかを整理します。

報告書をそのまま渡さない

DDの報告書は、買い手が自社の判断のために作ったものです。買い手の社内に向けて書かれているため、売り手が読むと厳しく感じる表現が入っています。

また、報告書には買い手の評価の考え方や、交渉の方針が書かれていることがあります。買い手が売り手に見せる前提で作っていない文書なので、そのまま渡すのは買い手との信頼にも関わります。

売り手に渡すのは、指摘の内容を整理した一覧です。何が指摘されたか、それがなぜ問題なのか、条件にどう影響しうるか。この三つが分かる形にします。

なお、買い手が報告書の一部を売り手に示すこともあります。その場合は買い手の判断に従います。仲介者が勝手に渡す形は取りません。

伝える順番

指摘が多いとき、どこから伝えるかで受け取り方が変わります。

最初に、取引そのものに影響するかどうかを伝えます。買い手が降りる可能性があるのか、条件の調整で済むのか。ここが分からないと、売り手は最悪を想像します。

次に、金額に影響する指摘を伝えます。いくらの話なのかを示します。

そのあとで、金額には影響しないが買収後に整える必要がある指摘を伝えます。管理体制や書類の整備です。

最後に、指摘ではあるが買い手も問題視していない項目を伝えます。「挙がったが影響は小さい」と分かれば、売り手は安心します。

この順番にすると、売り手は全体の重さを掴んでから細部を聞けます。細部から始めると、全部が重大に聞こえます。

金額に換算できる指摘

指摘のうち、金額に置き換えられるものがあります。これらは条件の交渉の対象になります。

未払いの残業代、退職金の引当の不足、簿外の債務、回収できない売掛金、価値が落ちている在庫、修繕が必要な設備。いずれも金額が計算できます。

金額が計算できるものは、価格の調整か補償のどちらで処理するかを決めます。確定している金額は価格、確定していない金額は補償で扱うのが基本です。

売り手に伝えるときは、金額と根拠を一緒に示します。「未払いの残業代の指摘があり、買い手の試算では○○万円」という形です。根拠が示されていなければ、買い手に確かめてから伝えます。

金額に換算できない指摘

金額に置き換えられない指摘もあります。こちらの扱いのほうが難しくなります。

社長への依存、特定の取引先への集中、キーマンの存在、契約書のない取引、管理体制の弱さ。どれも金額では表せませんが、買い手の判断には影響します。

これらは、条件の文言で処理されることがあります。社長の引き継ぎ期間を長くする、キーマンの継続勤務を前提条件にする、取引先の同意を取得条件にする。金額ではなく、取引の形が変わります。

売り手に伝えるときは、金額の話ではないことを明示します。「これは価格の話ではなく、引き継ぎの期間に関わる指摘です」と分けておかないと、売り手は値下げの話だと受け取ります。

売り手の反応に備える

指摘を聞いた売り手の反応は、いくつかに分かれます。どの反応にも対応できるように準備します。

反論する。「それは違う」と言われたら、根拠を聞きます。売り手の言うことが正しい場合もあります。買い手の理解が誤っているなら、訂正を伝えます。

落胆する。自社を否定されたと感じる方がいます。指摘は会社の評価ではなく、買収のために確かめた事実だと伝えます。

怒る。細かく調べられたことに腹を立てる方がいます。買い手が資金を出す立場であることを説明しますが、感情が落ち着くまで交渉の話はしません。

諦める。「もうやめたい」と言われることがあります。この場合、指摘の重さを冷静に見せます。実際には条件の調整で済むことが多いためです。

条件の交渉につなげる

指摘を伝えたら、次は条件の話になります。ここで売り手に確かめるのは、どこまで受け入れられるかです。

価格が下がる場合、下限はいくらか。補償を引き受ける場合、上限と期間はどこまでか。引き継ぎの期間が延びる場合、何か月まで受けられるか。

先に下限を決めてから交渉に入ります。交渉の最中に決めると、流れに押されて譲りすぎます。

また、指摘のうち売り手が解消できるものがあれば、解消する選択もあります。名義の整理、契約書の作成、未払いの精算。解消すれば、その分の調整は不要になります。

下限を決めるときは、売り手が売る目的に戻ります。借入の返済が目的なら、返済できる額が下限です。目的から離れた下限を置くと、交渉が止まります。

記録と、次の案件への反映

どの指摘がどう処理されたかを記録します。最終契約の文言と対応づけておくと、成約後に問題が起きたときに辿れます。

また、出やすい指摘は案件を重ねると見えてきます。未払いの残業代、名義株、社長個人の資産の混在、契約書の不在——どの業種でも出ます。

出やすい指摘は、受託の段階で確かめる項目に足します。先に分かっていれば、DDの前に解消でき、条件の調整を小さくできます。

この積み上げが、仲介者の仕事の質を変えます。同じ指摘で毎回止まるのは、確認の項目を更新していないということです。

なお、個別の判断は案件の事情によって変わります。法務・税務にまたがる論点は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

よくあるご質問

A.買い手が作った文書なので、買い手の判断に従います。仲介者が勝手に渡す形は取りません。売り手には、指摘の内容を整理した一覧を渡すのが実務的です。
A.数より中身で決まります。金額に換算できる指摘は価格や補償で処理できます。社長への依存や取引先の集中といった指摘は、引き継ぎの期間や前提条件の形で処理されることがあります。
A.根拠を聞いてください。売り手の言うことが正しい場合もあります。買い手の理解が誤っているなら、訂正を伝えます。一方的に買い手の指摘を押し通す形は取りません。

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執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

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