売り手を受託したものの、手元の買い手候補に当てはまる相手がいないことがあります。業種が特殊、地域が限られる、規模が小さい——理由はさまざまです。

このとき、自分で買い手を探すことになります。既存の登録先に当てるだけの進め方では、数か月が過ぎて売り手が疲れます。本稿では、探す順番と接触の仕方、秘密保持との兼ね合いを整理します。

探す順番

いきなり遠くを探すと時間がかかります。近いところから順に当てていきます。

最初は同じ商流の中です。売り手の取引先、仕入先、同じ業界団体に属する会社。事業の内容が分かっているので、買う理由が説明しやすく、検討も早く進みます。ただし売り手の意向を必ず確かめます。取引先に知られたくないという売り手は少なくありません。

次に隣接する業種です。同業でなくても、顧客が重なる、技術が使える、人手を必要としている、といった理由で買う会社があります。ここは売り手が思いつかない相手が出てくる領域です。

そして地域で探す方法です。売り手の商圏と同じ地域で、拡大の意欲がある会社を当てます。地域の金融機関が情報を持っていることがあります。

最後に投資会社です。事業会社で相手が見つからない場合の選択肢になります。進め方が事業会社と違うため、売り手にその違いを先に説明しておきます。

接触の仕方

相手に接触するとき、最初に渡せる情報は限られます。会社名を出さずに、事業の概要と規模だけを伝える形になります。

伝える内容は、相手が検討するかどうかを判断できる最小限にします。業種、おおよその売上規模、所在する地域の範囲、譲渡の理由の概略、譲渡の形。これだけで、興味を持つ会社と持たない会社が分かれます。

避けたいのは、特定できる情報を混ぜることです。業種と地域と規模を細かく書くと、業界内では会社が分かります。どこまで書くと特定されるかは業種によって違うので、売り手と一緒に判断します。

接触の経路は、相手の役職によって変えます。経営者が直接判断する会社であれば、社長に当てます。投資の窓口がある会社であれば、その部署に当てます。どちらか分からないときは、代表電話より、面識のある人の紹介を探すほうが話が通ります。

接触の記録は、断られた場合も残します。相手の社名と担当者、伝えた内容、反応。次の案件で当てるときに、前回の会話を踏まえて話せます。前回のことを覚えていない相手に当て直すと、同じ説明をもう一度することになり、相手の時間を取ります。

秘密保持との兼ね合い

買い手を探す行為そのものが、情報を外に出す行為です。売り手との約束の範囲内で行う必要があります。

先に確かめるのは、当ててはいけない相手です。取引先、同業の特定の会社、親族が関わる会社——売り手には必ず「ここには当てないでほしい」という相手があります。聞かずに当てて、売り手が後から知ると信用を失います。

当てた先は記録します。いつ、どの会社に、何を伝えたか。記録がないと、同じ会社に二度当てることになり、相手の印象が悪くなります。また、売り手から「どこに当てたのか」と聞かれたときに答えられません。

詳しい情報を渡す前には、秘密保持契約を結びます。口頭で興味を示した段階で企業概要書を渡してしまうと、検討しなかった会社に情報が残ります。

断られたあとの扱い

当てた相手の多くは断ります。断られた理由を聞いておくことが、次に効きます。

理由は大きく分かれます。規模が合わない、地域が遠い、いまは投資の時期ではない、事業の内容が自社と合わない。このうち「いまは時期ではない」は、将来の候補として残ります。半年後に状況が変わることがあるためです。

「規模が合わない」と言われた場合、どのくらいの規模なら検討するのかを聞いておくと、次の案件で当てられます。断られた接触も、情報としては残ります。

売り手には、断られた事実と理由を伝えます。伝えないまま時間が過ぎると、売り手は「何も進んでいない」と感じます。断られた理由が条件に関わるものであれば、条件を見直す相談の材料になります。

なお、断られた理由を売り手に伝えるときは、言葉を選びます。相手の率直な表現をそのまま伝えると、売り手が傷つくことがあります。事実を落とさずに、受け取れる形に整えます。

断りの連絡を受けたら、短くても礼を返します。検討に時間を使ってもらったことへの返礼であり、次の案件で当てるときの下地にもなります。返事をしないまま終える仲介者は意外に多く、買い手の側はそれを覚えています。

開拓を続ける仕組みにする

案件ごとに一から探すと、毎回同じ手間がかかります。探した結果を残して、次に使える形にします。

残しておきたいのは、業種ごとに買う意欲のある会社、規模の希望、地域の範囲、検討の速さ、過去に当てた時期と結果です。これが積み上がると、次の案件で最初に当てる先が絞れます。

情報は古くなります。一年前に意欲があった会社が、いまは別の案件で手一杯かもしれません。定期的に当て直す必要があります。案件がないときに連絡を取っておくと、案件が出たときに話が早く進みます。

買い手の開拓は、売り手の受託と同じくらい時間のかかる仕事です。案件が来てから始めるのではなく、常に進めておく仕事として扱うほうが、結果として売り手を待たせません。

なお、個別の判断は案件の事情によって変わります。法務・税務にまたがる論点は、弁護士・税理士などの専門家に確認してください。

よくあるご質問

A.売り手の同意が必要です。取引先に知られたくないという売り手は少なくありません。当ててよい相手と当ててはいけない相手を、受託の早い段階で聞いておいてください。
A.いつ、どの会社に、何を伝えたかを残してください。記録がないと同じ会社に二度当てることになり、売り手から「どこに当てたのか」と聞かれたときにも答えられません。
A.理由によります。「いまは時期ではない」であれば、時間を置いて当て直す価値があります。「事業が合わない」であれば、同じ案件での再接触は避けたほうがよいです。

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執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら