製造業には、自社で企画した製品を売る形と、図面を受け取って加工する形があります。同じ「製造業」でも、この違いで評価の見方が大きく変わります。

業種ごとの事情は別に整理していますが(窯業、産業機械、自動車部品、金属加工、医療機器など)、製造業に共通して見られる論点があります。ここでは、どの業種でも必ず問われることを順に整理します。業種別の細かい話は、各業種のページを参照してください。

設備は、金額ではなく「あと何年使えるか」で見られる

製造業の貸借対照表では機械装置が大きく、償却が進んで簿価がほとんど残っていないことがあります。しかし実際にはまだ動いており、収益を生んでいます。引き継ぐ側が見るのは簿価ではなく、あと何年使えるかと、次の投資がいつ必要かです。

確認されるのは、主要な設備の機種と導入年、稼働している台数と止まっている台数、直近数年の修繕の費用、更新の計画があるかです。「来年この機械を入れ替えないと止まる」という状態なら、その金額は価格から引かれる方向に働きます。

逆に、近年に大きな投資をして設備が新しければ、その分は評価されます。補助金を使って導入した設備がある場合、処分や事業の変更に制限が付いていることがあるため、交付の条件を確認する必要があります。

設備が自社の強みの源である場合、その設備を動かせる人がいるかもあわせて見られます。設備は買えますが、動かせる人は短期間で揃いません。

取引先の階層と、図面の所有

下請けとして加工している場合、取引先の階層が論点になります。最終のメーカーと直接取引しているのか、一次や二次の下請けとして間に入っているのか。階層が深いほど、価格の決定権が弱くなります。

加えて、図面を誰が持っているかが重要です。取引先の図面で加工している場合、その図面は取引先のもので、取引が終われば仕事も終わります。自社で設計している場合、設計の能力そのものが価値になります。

引き継ぐ側が見るのは、取引先ごとの売上と取引の長さ、価格改定の経緯、取引先から求められる品質の規格(ISOや取引先独自の認定)を持っているか、監査を受けているかです。取引先の承認を得るのに時間がかかる業種では、承認済みであること自体が参入の障壁になります。

自社製品を持っている場合は、販路、ブランド、特許などが評価の中心に移ります。設計から販売まで一貫している会社は、価格の決定権を持っている分、収益の安定が高く評価される傾向があります。

技術者と、現場を回す人

製造業で共通して問われるのは人です。見られるのは2種類に分かれます。

技術を持つ人。設計ができる、特定の加工ができる、品質の判断ができる人。この技術が1人に集中しているか、複数人に分かれているかが論点です。

現場を回す人。工程の段取り、納期の調整、人の配置、トラブルの処理を担う人。経営者がこれを兼ねている会社では、交代後に誰が担うのかが条件になります。

加えて、必要な資格者がいるかも確認されます。業種によって、ボイラー、クレーン、危険物、電気、溶接などの資格が要ります。薬機法や食品衛生法の対象となる製品では、別の要件が付きます。

外国人の技能実習生や特定技能の在留資格者を受け入れている場合、その枠組みと、支配権が変わった場合の扱いを確認する必要があります。人数が多い会社では、ここが事業の前提になっていることがあります。

工場の土地と建物

製造業は土地と建物を使います。会社名義か経営者個人の名義かで、進め方が変わります。個人名義の場合、売るか貸すかを別に決めることになり、株式の価格とは別の交渉になります。

加えて、確認される点がいくつかあります。建築の確認や検査の記録があるか、増築した部分が適法か、用途地域に適合しているか、借地の場合は契約の残存期間と更新の条件がどうなっているかです。無届の増築が残っていると、調査で論点になります。

長く操業している工場では、土壌や地下水の汚染の可能性が調べられることがあります。土壌汚染対策法に基づく調査が必要になる場面もあり、調査の結果によっては対策の費用が論点になります。

設備の配置が工場の構造に組み込まれている場合、移設が難しいことも見られます。クレーンの荷重、電力の容量、排水と排気の設備は、建物と一体になっています。

引き継ぐ側の動機と、準備できること

製造業を買う側の動機は、おおむね次の形です。

  • 生産の能力を得る。受注はあるが作る能力が足りない会社が、工場と人を取り込む形。
  • 工程を増やす。前後の工程を自社に取り込み、納期と品質の責任を一本化する形。
  • 技術を得る。自社にない加工や設計の能力を加える形。
  • 取引先を得る。特定のメーカーとの取引を持つ会社を加える形。
  • 地域を広げる。顧客の近くに拠点を持つ形。

譲渡の前に準備できることは、新しい資料を作ることではなく、実務の記録を整えることです。設備の一覧(機種・導入年・稼働状況)、取引先ごとの売上と価格改定の経緯、資格者の一覧、図面と工程の記録、建物の確認と検査の書類。これらが揃っていれば、調査で説明が要りません。

逆に、記録が無い部分は買い手が一律に不利に見ます。見積りの精度が上がるのは、記録がある会社です。

許認可・環境・税務の扱いは個別の事情で変わります。実際に進める際は、弁護士・税理士・行政庁に確認してください。

よくあるご質問

A.簿価ではなく、あと何年使えるかと次の投資がいつ必要かで見られます。更新が近いならその金額が価格に影響しますが、動いて収益を生んでいる設備は評価の対象です。動かせる人がいるかもあわせて見られます。
A.見られるものが違います。下請けでは取引先の階層、取引の長さ、品質の規格と承認が中心になり、自社製品では販路、ブランド、設計の能力が中心になります。価格の決定権を持っているかが、収益の安定に表れます。
A.売るか貸すかを別に決めることになり、株式の価格とは別の交渉になります。借地の場合は契約の残存期間と更新の条件を確認してください。早い段階で整理しておくと進め方が立てやすくなります。
A.処分や事業の変更に制限が付いていることがあります。交付の条件と、残っている期間を確認してください。条件に反すると返還を求められる場合があります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら