直接交渉の制限は、3つの軸で絞れと書かれている条項です。 どの候補先か(範囲)・何の交渉か(目的)・いつまでか(期間)の3つです。
この3軸を押さえると、設問で「どこが行き過ぎか」を判断できるようになります。
条項自体には合理性がある
まず前提です。
依頼者が、M&Aの相手方となる候補先と、M&A専門業者を介さずに直接、交渉又は接触することを禁じる旨の条項が設けられることがある。 これは、交渉の窓口をM&A専門業者に一本化することで交渉が円滑化し得る等の観点から、それ自体は一定の合理性が認められる。
売り手と買い手が仲介者を通さず直接話すと、言った言わないが生まれ、条件が二重になり、交渉が崩れます。 窓口の一本化には実務上の理由があります。
① 範囲|制限できるのは「紹介した候補先」だけ
ガイドラインは、制限対象を無限定にすることの問題を指摘します。
直接交渉が制限される候補先が無限定の場合、例えば、依頼者が自ら候補先を発見することが事実上困難となる。
そのうえで、限定の仕方を具体的に書いています。
直接交渉が制限される候補先については、依頼者が「自ら候補先を発見しないこと」及び 「自ら発見した候補先と直接交渉しないこと」を明示的に了解している場合を除き、 当該M&A専門業者が関与・接触し、紹介した候補先のみに限定すべきである。
つまり原則は「仲介者が紹介した相手だけ」。依頼者が自力で見つけた相手は対象外です。 例外は、依頼者自身が明示的に了解している場合に限られます (依頼者が発見した候補先とのM&A成立に向けた支援を、改めて専門業者に依頼する場合が想定されています)。
② 目的|M&Aに関する交渉に限る
2つ目の軸は、何の交渉を禁じるかです。
交渉の目的を限定せずに一律に交渉を禁じる場合、例えば、 通常の事業に属する取引のための交渉すら禁じられることとなり、依頼者の通常の事業を阻害するおそれがある。 したがって、直接交渉が制限される交渉は、依頼者と候補先のM&Aに関する目的で行われるものに限定すべきである。
ここは実務的に効く指摘です。候補先が同業他社や取引先であることは珍しくありません。 目的を限定せずに接触を禁じると、普段の商売ができなくなります。
③ 期間|契約が終わったら制限も終わる
3つ目が期間です。ここはテール条項との関係で理解する必要があります。
依頼者がM&A専門業者の手数料の発生を防ぐため、あえて当該M&A専門業者との契約を終了させ、 その後に当該M&A専門業者から紹介を受けた候補先と直接交渉してM&Aを実行しようとするようなケース等については、 後述するテール条項によりM&A専門業者の手数料の発生が認められ得る。
つまり「契約を切って抜け駆けする」問題は、テール条項が引き受けます。 直接交渉の制限を契約終了後まで延ばす必要はありません。さらにガイドラインは続けます。
仮に、契約終了後、依頼者の直接交渉を禁じた場合、例えば、依頼者がM&A支援機関に対して 手数料ないし支援の対価相当額を支払うことを覚悟した上でM&Aを実行することが難しくなり、 依頼者の自由な経営判断を損なうおそれがある。 以上を踏まえると、直接交渉の制限に関する条項の有効期間は、仲介契約・FA契約が終了するまでに限定すべきである。
お金で解決する道を残す、という考え方です。手数料を払ってでも進めたいなら進められる。 それを封じると、依頼者は会社の将来を決める自由を失います。
3条項の関係を、1枚で整理する
専任条項・直接交渉の制限・テール条項は、それぞれ別の局面を受け持ちます。
| 条項 | 何を制限するか | 期間の目安 |
|---|---|---|
| 専任条項 | 他のM&A専門業者への依頼 | 最長でも6か月〜1年以内 |
| 直接交渉の制限 | 候補先との直接の交渉・接触 | 契約終了まで |
| テール条項 | 契約終了後のM&Aに対する手数料の発生 | 最長でも2年〜3年以内 |
直接交渉の制限だけが「契約終了まで」で、月数の目安を持ちません。ここが混同しやすい点です。
なお、直接交渉の制限は契約締結前に説明すべき事項にも挙げられています (「依頼者自らが候補先を発見すること及び依頼者自ら発見した候補先との直接交渉を禁止する場合にはその旨、 直接交渉が制限される候補先や交渉目的の範囲等」)。範囲と目的まで説明するのが求められる水準です。
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出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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