資料3の法務基礎に独占禁止法が項目として挙がっています(●は付いていません)。

中小M&Aでは企業結合の届出が必要になることはまれですが、 なぜまれなのかを説明できることが、この項目の狙いだと読めます。

企業結合規制の考え方

独占禁止法は、一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる企業結合を禁じています。

対象となる行為の類型は、M&Aのスキームとほぼ対応します。

  • 株式の取得
  • 合併
  • 会社分割
  • 共同株式移転
  • 事業の譲受け

審査を行うのは公正取引委員会です。 一定の規模を超える企業結合については、あらかじめ届け出て、審査を受ける必要があります。

ここで押さえるべきは、規制の理由です。 禁じられているのは「大きくなること」ではなく、競争が実質的に制限されることです。 同じ市場の有力な事業者同士が一つになれば、価格を自由に決められる状態が生まれかねない—— 消費者の利益を守るための規制、という位置づけになります。

届出が必要になる基準の枠組み

届出の要否は、会社の規模で決まります。 考え方の枠組みは、おおむね次のとおりです。

  • 企業結合の当事会社(グループ)の国内売上高が一定額を超えること
  • 行為の類型ごとに、取得後の議決権の割合などの基準が組み合わされること

具体的な金額基準・議決権の割合は、独占禁止法および関連の政令等に定められ、 公正取引委員会が企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針等を公表しています。 数字は必ず一次資料で確認してください。

重要なのは、基準が「数百億円」という規模で設定されていることです。 中小M&Aの当事者は、この水準にはるかに届きません。

だから、中小M&Aで企業結合届出が必要になることは、実務上ほとんどありません。 ただし、譲り受け側が大企業やそのグループである場合は別です。 売り手が中小企業でも、買い手側の規模で基準を満たすことがあり得ます。

資料3の法務基礎に独占禁止法が置かれているのは、 「自社の案件では要らない」と決めつけず、買い手の規模を見て判断できるようにするためと読めます。

届出が不要でも、規制の対象外ではない

誤解しやすい点があります。届出が不要であることと、独占禁止法の適用がないことは別です。

届出基準を下回る企業結合であっても、 競争を実質的に制限することとなる場合には独占禁止法上の問題となり得ます。

中小M&Aで現実に想定されるのは、たとえば次のような場面です。

  • 地域が限定された市場で、有力な同業者同士が統合する
  • 特定の製品・サービスで、供給者が限られている

「一定の取引分野」は全国市場とは限りません。 地域や商品の範囲で画定されることがあり、小さな市場なら、小さな会社同士でも影響が出得ます。

ただし、こうした判断は高度に専門的です。 支援者の役割は、「同業の統合で、その地域の主要な事業者同士だ」という状況に気づき、 弁護士に確認を促すところまでです。

中小M&Aで、もっと近い独占禁止法の論点

企業結合審査よりも、中小企業の現場に近い論点があります。 取引における優越的地位の濫用と、関連する下請法です。

これらは企業結合の話ではなく、日常の取引の話です。しかしM&Aでは、 DDの検出事項として出てきます。

  • 対象会社が下請事業者に不当な減額や支払遅延を行っていないか
  • 取引先に対して優越的地位を濫用していないか
  • 逆に、対象会社が大手取引先から不利な条件を受け入れている場合、 その取引関係は買収後も続くのか

1つ目・2つ目は、将来の法的リスクです。是正を求められたり、 過去分の支払いが生じたりする可能性があり、簿外債務や偶発債務につながります。

3つ目は事業のリスクです。ガイドラインが企業概要書の記載事項に 商流を挙げているとおり、誰と、どういう力関係で取引しているかは、 会社の実力を測るうえで欠かせない情報です。

資料3の法務に「法務DD 調査事項に関する法律知識(●)」が置かれているのは、 こうした論点を調査事項として挙げられるかが問われるためです。

「許認可・コンプライアンス」という項目

資料3の法務には、リスク/係争の中項目に 「M&A判例、係争に関する法律知識」「許認可・コンプライアンス」という項目があります。

コンプライアンスという語は、ガイドラインの譲り受け側調査にも出てきます。

コンプライアンスに関する調査
調査対象:当該譲り受け側、譲り受け側経営者の他、役員、主要株主、関連会社
調査方法:Web上における不芳情報検索、社内のDB、業界内での情報共有の仕組みの確認、 その他外部のDB・調査会社を活用した調査
調査内容:反社会的勢力への該当性やM&Aに関するトラブルの有無等について調査する。

買い手を調べるときのコンプライアンス調査と、 対象会社を調べるときの法務DDのコンプライアンス項目——両方向で見る必要があります。

そして、倫理・行動規範には「不適切な個人・組織、反社等との関係」という項目が独立して置かれています。 資料2のサンプル問題で禁忌肢とされたのも、 反社会的組織との交友関係を確認しながら説明しなかったという選択肢でした。

独占禁止法は法務科目の一項目ですが、コンプライアンスの話は倫理科目にまたがります。

試験で押さえる形

  • 独占禁止法が禁じるのは「一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなる」企業結合
  • 対象類型は株式取得・合併・会社分割・共同株式移転・事業の譲受け
  • 審査は公正取引委員会。一定規模を超えると事前の届出が必要
  • 基準は国内売上高等で設定され、中小M&Aでは届出が必要になることはまれ。 ただし買い手が大企業グループなら別
  • 届出不要=規制の対象外ではない。「一定の取引分野」は地域・商品で画定され得る
  • 中小M&Aでより近い論点は優越的地位の濫用・下請法。DDの検出事項になる

資料3で独占禁止法に●が付いていないのは、中小M&Aでの登場頻度を反映したものと読めます。 ●が付いているのは商法・会社法/民法/労働法/弁護士法の4つでした。

本記事は一般的な制度の説明です。企業結合届出の要否、独占禁止法上の評価は 高度に専門的な判断を要します。必ず弁護士等の専門家にご確認ください。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.届出の要否は当事会社(グループ)の国内売上高等で決まり、基準は大きな規模で設定されているため、中小M&Aで必要になることはまれです。ただし譲り受け側が大企業やそのグループである場合は、買い手側の規模で基準を満たすことがあり得ます。
A.関係ないとはいえません。届出基準を下回る企業結合であっても、競争を実質的に制限することとなる場合には独占禁止法上の問題となり得ます。「一定の取引分野」は地域や商品の範囲で画定されることがあります。
A.対象会社が下請事業者に対して不当な減額や支払遅延を行っていないかは、法務DDの検出事項になり得ます。是正や過去分の支払いが生じる可能性があり、簿外債務・偶発債務につながります。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら