法務は配点17〜18%(60問なら10〜11問)で、4科目のうち最も軽い科目です。
ところが試験科目詳細を数えると、優先項目(●)は24個と、6つの大項目の中で最多です。 問題数は少ないのに、重要だと印を付けられた項目がいちばん多い。この非対称に、この科目の性格が表れています。
項目数と優先項目の分布
資料3の大項目ごとに、項目数と●の数を数えると次のようになります。
| 大項目 | 項目数 | うち優先(●) | 配点 |
|---|---|---|---|
| M&A実務 | 84 | 13 | 35〜40% |
| 中小M&A市場動向 | 8 | 1 | |
| 中小企業政策 | 12 | 4 | |
| 財務・税務 | 47 | 11 | 20〜23% |
| 法務 | 49 | 24 | 17〜18% |
| 倫理・行動規範 | 51 | 1 | 25% |
法務は、項目の約半分に●が付いています。 出題数が10〜11問しかないところに24項目の優先が示されているということは、 どこから出てもおかしくないということでもあります。
逆に倫理・行動規範は51項目に●が1つだけですが、配点は25%で最も重い。 ●の数と配点は、対応していません。ここを取り違えると、勉強の配分を誤ります。
法務基礎|13の法律のうち、●は4つ
資料3の法務基礎「各種法律に関する基礎知識」には、13の法律が並びます。
| 法律 | 優先 |
|---|---|
| 商法・会社法 | ● |
| 民法 | ● |
| 労働法 | ● |
| 弁護士法 | ● |
| 独占禁止法/金融商品取引法/外為法/不正競争防止法/商業登記法/不動産登記法/倒産法/不動産関連法/個人情報保護法 | — |
●が付いた4つの並びが、この科目の設計を語っています。
- 会社法……株式、株主総会、取締役会、組織再編。会社という器そのもの
- 民法……契約、意思表示、債務不履行、損害賠償。契約の土台
- 労働法……雇用の承継、労働条件の変更。従業員という、中小M&Aで最も重い資産
- 弁護士法……自分がやってはいけないことの線
弁護士法に●が付いていることに注目してください。 M&Aの法律知識ではなく、支援者自身の行為規範です。 合格者像が「士業専門家と連携できる水準」と定義されていることと、正確に対応しています。
契約の各段階に、1つずつ●が置かれている
法務科目の残りは、契約の各段階に紐づく法律知識です。 ここに●が集中しています。
| 段階 | 項目 | 優先 |
|---|---|---|
| 秘密保持契約 | 秘密保持に関する法律知識 | ● |
| アドバイザリー契約 | アドバイザリー(仲介・FA)契約に関する法律知識 | ● |
| 意向表明 | 意向表明に関する法律知識 | — |
| 基本合意 | 基本合意に関する法律知識 | ● |
| 法務DD | 調査事項に関する法律知識 | ● |
| 最終契約 | 最終契約に関する法律知識 | ● |
| 最終契約 | 表明保証に関する法律知識 | — |
| クロージング | クロージングに関する法律知識 | ● |
| リスク/係争 | リスク事項に関する法律知識 | ● |
| リスク/係争 | M&A判例、係争に関する法律知識/許認可・コンプライアンス | — |
案件の進行順に、ほぼ1段階ごとに●が置かれています。 「どこか1か所を深く」ではなく、各段階で最低限の法律知識を持っているかを見る設計です。
なお、資料2には科目間の切り分けが明記されています。 オペレーションに関する内容は「M&A実務」で、そのオペレーションに必要な法律知識は「法務」で出題する、というものです。 同じ場面が、視点を変えて2回問われるということになります。
「専門家連携に必要な基礎知識」という水準
法務科目の設置目的は、資料2・募集要領にこう定義されています。
専門家連携に必要となる法律の基礎知識および法務リスクに係る知識
財務・税務科目と同じ言い回しです。条文を解釈して結論を出す水準ではありません。
実務上も、そこを越えれば弁護士法第72条の問題になります。 ガイドラインは、紛争解決に向けた支援は非弁行為に該当しうるおそれがある旨を説明しなければならないとし、 最終契約についても「可能な限り、中小M&Aに関する知見と実務経験を有する弁護士の関与の下で締結することが望ましい」 としています。
つまりこの科目が測っているのは、「この条項は危ない」と気づけるかであって、 「この条項はこう解釈すべきだ」と言えるかではありません。
勉強の順序
- 弁護士法第72条・税理士法第52条の線を先に押さえる(倫理科目とも直結)
- 会社法の基礎——株式、株主名簿、株主総会・取締役会の決議事項、組織再編の手続
- 契約の各段階——秘密保持契約、アドバイザリー契約、基本合意、最終契約。 それぞれ何を定める文書で、どこに拘束力があるか
- 民法の基礎——契約の成立、債務不履行、損害賠償、補償
- 労働法——雇用の承継がスキームによって変わること、未払残業代などの労務リスク
- 法務DDの調査事項とリスク事項
資料2の難易度の定義は「一般的な社会人が一定期間の学習を行えば合格できる水準」ですが、 広範な試験範囲を設定することで全体の難易度を確保するという考え方も示されています。 法務は、まさにその典型です。深さではなく、広さで難しい科目と捉えるのが実態に合います。
本記事は一般的な制度の説明です。個別の案件における法的判断は、必ず弁護士にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
よくあるご質問
Book
この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。