資料3の中小企業政策に「経営承継円滑化法(事業承継税制等)」という項目があります。 名前が長く、内容も4つに分かれているため、まとめて覚えにくい法律です。
ただしM&Aの実務で効いてくるのは、主に2つです。そこを軸に整理します。
四本柱
| 柱 | 内容 | M&Aでの関わり |
|---|---|---|
| ① 事業承継税制の認定 | 株式の贈与・相続に係る税の納税猶予・免除 | 親族内承継との比較で出てくる |
| ② 金融支援 | 日本政策金融公庫等の特別融資、信用保証の特例 | 譲り受け側の資金調達 |
| ③ 遺留分に関する民法の特例 | 除外合意・固定合意 | 株式の集約・分散の解消 |
| ④ 所在不明株主に関する会社法の特例 | 通知が到達しない株主の株式の売却等の手続について、5年→1年に短縮 | 株式の分散への対処 |
M&Aの現場で直接使う可能性が高いのは③と④です。 どちらも「株式が売主の手元に揃っていない」という、中小企業に非常に多い問題への手当てだからです。
④ 所在不明株主|5年が1年になる
会社法には、通知が到達しない株主(所在不明株主)の株式について、 一定の手続を経て競売または売却できる制度があります。ただし5年という期間の要件があります。
経営承継円滑化法の特例は、一定の認定を受けることで、この期間を1年に短縮するものです。
なぜこれがM&Aで重要か。株式が100%揃わないと、買い手が買いにくいからです。
中小企業では、創業時の名義株、相続で分散した株式、退職した役員が持ったままの株式などが残り、 連絡が取れない株主がいることが珍しくありません。1%でも所在不明の株主がいると、 買い手は後からその株主が現れるリスクを抱えることになります。
法務DDの調査事項に株式の帰属が入るのは、このためです。 株主名簿と実態が一致しているかは、最初に確かめるべき論点の1つです。
ただし、5年が1年になるとはいえ、認定と手続に時間がかかります。 M&Aの話が出てから始めるのでは間に合わないことがあり、 ガイドラインが譲り渡し側の留意点として「早期判断の重要性」を挙げているのは、こうした事情も含みます。
③ 遺留分の特例|除外合意と固定合意
遺留分は、相続人に保障された最低限の取り分です。 後継者に株式を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害し、相続後に株式が分散するおそれがあります。
経営承継円滑化法の特例は、推定相続人全員の合意を前提に、次の2つを認めるものです。
- 除外合意……後継者が贈与を受けた株式を、遺留分の算定の基礎から除く
- 固定合意……株式の価額を合意時点の価額で固定する(その後に株価が上がっても、上がった分は算定に影響しない)
手続には推定相続人全員の合意に加え、経済産業大臣の確認と家庭裁判所の許可が必要です。 全員の合意という要件があるため、関係が良好なうちにしか使えないという性格があります。
M&Aとの関係で言えば、これは親族内承継のための制度です。 ただし、ガイドライン第1章の事例に「親族内承継の頓挫から中小M&Aに移行し成立した事例」があるとおり、 親族内承継を検討した経緯を持つ会社は少なくありません。 資料3の「提案」工程に「第三者承継以外の事業承継スキームに関する基本的な知識」が 項目として置かれているのは、こういう場面のためです。
① 事業承継税制|M&Aでは「比較対象」として出てくる
事業承継税制は、後継者が株式を贈与・相続により取得した場合に、 一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予し、最終的に免除する制度です。
M&Aの文脈で問題になるのは、これを使うかどうかで、選べる道が変わる点です。 親族に承継すれば税制を使える可能性がありますが、第三者に譲渡すれば対象外です。 逆に、承継しても後継者が事業を続けられるとは限らない——ここが経営者の悩みどころになります。
また、猶予を受けた後に一定の事由が生じると、猶予されていた税額を納付する必要が生じ得ます。 「税制を使って承継した会社を、後から売る」という場面では、この点が論点になります。
制度には適用期限や特例承継計画の提出期限が定められており、 税制改正によって変更され得ます。期限は必ず、受験・実務の時点で一次資料により確認してください。
支援者の役割は、ここでも変わりません。税制を使うべきかの判断は税理士の領域です (税理士法第52条により、税務相談は無償でも税理士以外は行えません)。 論点があることに気づき、つなぐところまでが範囲です。
② 金融支援|買い手側の資金
金融支援は、事業承継に伴い必要となる資金について、 日本政策金融公庫等による特別融資や信用保証協会の保証の特例を設けるものです。
M&Aでは、譲り受け側の資金調達の選択肢として関わります。 資料3の財務・税務にも「M&Aに伴う資金調達に関する基礎知識」として 銀行融資、公的融資とLBOローンが並んでいます。
中小M&Aでは、買い手が個人や小規模な事業者であることもあり、 資金調達の目処が立つかどうかが成立の可否を左右します。
だからこそガイドラインは、譲り受け側の調査項目に 「最終契約の実行可能性の調査」を置き、 「財務諸表や預金通帳、融資証明書等の確認」により 「借入を予定している場合には金融機関との調整状況の確認」を求めています。
買えると言っている人が、本当に払えるのか。調べるべき項目として明記されています。
試験で押さえる形
- 四本柱は事業承継税制の認定/金融支援/遺留分に関する民法の特例/所在不明株主に関する会社法の特例
- 遺留分の特例は除外合意と固定合意。推定相続人全員の合意+経済産業大臣の確認+家庭裁判所の許可
- 所在不明株主の特例は5年 → 1年
- 事業承継税制は親族内承継との比較で出てくる。適用期限は改正され得る
- 金融支援は譲り受け側の資金調達の選択肢。実行可能性の調査ともつながる
資料3では、この項目に●(優先項目)は付いていません。 制度の名前と、四本柱が何かを言えるところまでを目安に、 ●が付いた4つ(支援機関登録制度・補助金・各種ガイドライン・事業承継引継ぎ支援センター)に時間を配分するのが現実的です。
本記事は一般的な制度の説明です。事業承継税制の適用可否、遺留分の特例の手続、 相続に関する判断は、必ず税理士・弁護士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。
当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。