後継者に株式を引き継ぐ際、贈与税・相続税の納税を猶予する制度が事業承継税制(法人版)です。特例措置は特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、適用期限が2027年12月31日とされており、検討する会社が増えています。
一方で、あまり語られないのが「制度を使った後で、やはり第三者に譲渡することになった場合はどうなるのか」という論点です。事業承継税制は納税の猶予であって免除ではありません。猶予を受けた株式を譲渡すれば、原則として猶予は打ち切られます。本稿ではその仕組みを整理します。制度そのものの概要は「事業承継税制(特例措置)とは」をご覧ください。
事業承継税制は「猶予」であって「免除」ではない
事業承継税制は、一定の要件を満たす非上場株式の贈与・相続について、本来納めるべき贈与税・相続税の納付を待ってもらう制度です。ここで押さえておきたいのは、税額そのものが消えるわけではないという点です。猶予された税額は、後継者が次の世代へ引き継ぐなど一定の事由が生じたときにはじめて免除される仕組みになっています。
つまり、制度を使った時点では、会社と後継者は「猶予された税額を背負った状態」にあります。この状態は、要件を満たし続けている限り続きます。逆に言えば、要件を満たさなくなれば猶予は終わり、納付が求められます。
要件には、株式を継続して保有すること、後継者が代表者であり続けること、雇用に関する要件(特例措置では一定の緩和があります)、毎年または一定期間ごとの報告・届出を行うことなどが含まれます。事務手続きを怠っただけで打ち切りとなり得る点も、実務上は重要です。
株式を譲渡するとどうなるか|原則は猶予の打ち切り
猶予を受けている株式を第三者に譲渡することは、「継続して保有する」という前提を崩す行為です。したがって、譲渡した株式に対応する猶予税額については、原則として猶予が打ち切られ、納付が必要になります。
ここで問題になるのが順序です。M&Aで受け取る対価は、まずオーナー個人に入り、そこから株式譲渡益に対する課税(個人株主なら原則20.315%)が生じます。そのうえで、猶予されていた贈与税・相続税の納付が重なる可能性があります。「売却代金は入るのだから払える」と考えていたら、想定より手元に残らなかったという事態が起こり得るということです。
なお、猶予されている税額の全部が常に一度に問題になるとは限らず、譲渡した株式の割合に応じて扱いが決まります。実際の計算は制度の細目に沿って行う必要がありますので、必ず税理士にご確認ください。
5年の経営承継期間の内か外かで扱いが変わる
制度には、申告期限の翌日から原則5年間の経営(贈与・相続)承継期間という区切りがあります。この期間の内か外かで、譲渡した場合の扱いが変わります。
経営承継期間内の譲渡
この期間中は、後継者が代表者であり続けること、株式を保有し続けることなどの要件が厳格に求められます。期間内に株式を譲渡すれば、原則として猶予は打ち切られ、猶予されていた税額と利子税の納付が必要になります。この時期のM&Aは、税務上の負担が最も重くなりやすい局面です。
経営承継期間の経過後の譲渡
5年の期間が経過した後は、要件の一部が緩和されます。譲渡した場合には、譲渡した部分に対応する猶予税額を納付するのが基本ですが、経営環境の変化を示す一定の事情がある場合には、譲渡時の対価等を基礎として税額を再計算し、当初の猶予税額との差額が免除される措置が設けられています。業績が悪化しているなど、当初の評価額よりも実際の譲渡価額が低い場合に意味を持つ仕組みです。
ただし、この措置を使えるかどうかには要件があり、誰でも自動的に適用されるものではありません。適用の可否は必ず税理士にご確認ください。
打ち切られたときに負担するもの
猶予が打ち切られた場合、負担するのは猶予されていた本税だけではありません。
- 猶予されていた贈与税・相続税(本税):譲渡した株式に対応する部分。
- 利子税:猶予されていた期間に応じて課されます。猶予期間が長いほど積み上がる性質のものです。
- 株式譲渡益への課税:M&Aで対価を受け取ること自体に対する課税(個人株主なら原則20.315%)。
- 納付までの期限管理:打ち切り事由が生じてから納付までの期限が定められています。資金の準備が間に合うかが実務上の焦点になります。
資金繰りの観点では、売却代金の入金時期と納付期限の関係が重要です。分割払いやアーンアウトの設計にしていると、手元の資金と納税のタイミングがずれることがあります(「納税資金をどう準備するか」)。
制度を使う前・使った後に考えておきたいこと
事業承継税制は強力な制度ですが、「後継者に引き継ぎ、その後も長く続ける」という前提で設計されています。将来的にM&Aの可能性がある場合は、次の点を早い段階で検討しておく価値があります。
- 後継者の意思:引き継ぐ本人が、長期にわたって経営を担う覚悟があるか。制度の要件は後継者に継続的な負担を課します。
- 事業の見通し:業界環境の変化により、単独での存続が難しくなる可能性はないか。
- 親族内承継とM&Aの比較:そもそもどちらが会社と従業員にとって良いのか(「親族内承継とM&Aの比較」)。
- すでに適用を受けている場合:譲渡の検討を始めた段階で、猶予税額の残高、経営承継期間の経過状況、届出の履行状況を確認しておきます。
- 専門家の体制:制度の継続要件を見ている税理士と、M&Aを進める担当者の情報が分断されないようにします。
当社では、事業承継税制の適用を受けている会社のご相談も承っています。制度の詳細な判断は顧問税理士や制度に詳しい専門家に確認いただきつつ、M&A側の選択肢とスケジュールを並べて比較できるよう整理をお手伝いします。
まとめ|「将来の売却の可能性」を織り込んで判断する
事業承継税制は納税の猶予であり、免除ではありません。猶予を受けた株式を譲渡すれば、原則として猶予は打ち切られ、猶予税額と利子税の負担が生じます。5年の経営承継期間を過ぎた後には、経営環境の変化に応じて税額を再計算する措置もありますが、要件の確認が必要です。
大切なのは、制度を使うかどうかを決める時点で、将来M&Aという選択肢を取る可能性まで含めて比較しておくことです。特例措置には2027年9月30日(特例承継計画の提出)と2027年12月31日(適用)という期限があり、検討の時間は無限ではありません。具体的な適用は必ず税理士にご確認ください。M&A側の選択肢の整理は、当社の無料相談でお手伝いします。