資料3の法務基礎には13の法律が並び、●(優先項目)が付いているのは4つ (商法・会社法/民法/労働法/弁護士法)です。

残りの法律にも、出てくる場面があります。 「いつ関係するか」を知っておくのが、この項目の使い方です。

金融商品取引法|相手が上場企業なら

中小M&Aの当事者が金融商品取引法の直接の適用を受けることは多くありません。 問題になるのは、譲り受け側が上場企業である場合です。

とくに重要なのがインサイダー取引規制です。 上場企業によるM&Aの決定は重要事実にあたり得ます。 公表前にその情報を知った者が、その会社の株式を売買すれば規制に触れる可能性があります。

M&Aの支援者は、公表前の情報に触れる立場にあります。 したがって、自分や家族が当該株式を売買しないことはもちろん、 情報を他人に伝えないことも必要になります。

これは、ガイドラインの情報管理の規定とも重なります。 資料3の倫理・行動規範には「情報の取り扱い」「関係者の指導監督」「不適切行為の禁止」が並んでおり、 担当者個人だけでなく、組織として情報を管理することが求められています。

なお、上場企業が関わる場合には、適時開示のタイミングも案件の進行に影響します。

外為法|買い手が海外なら

外国為替及び外国貿易法(外為法)は、対内直接投資—— 外国投資家による日本企業への投資について、事前届出または事後報告を求める規制を置いています。

事前届出の対象となるのは、国の安全等に関わる業種に属する会社への一定の投資です。 対象業種は政令等で定められており、防衛、電力、通信、鉄道、サイバーセキュリティ関連などが含まれます。

中小M&Aでも、買い手が外国法人や外国人である案件は現実に存在します。 そのとき、対象会社の事業が届出の対象業種に該当しないかの確認が必要になります。

これは取引の実行可能性に直結します。 事前届出が必要なのに行っていなければ、取引そのものが進められません。

支援者の役割は、「買い手が海外である」という事実に気づいた時点で、 外為法の確認が必要だと認識することです。該当性の判断は弁護士の領域です。

不正競争防止法|営業秘密という資産

不正競争防止法は、営業秘密の保護を定めています。

営業秘密として保護されるためには、秘密として管理されていること(秘密管理性)、 有用な情報であること(有用性)、公然と知られていないこと(非公知性)といった要件があります。

M&Aでは、2つの方向で関わります。

① 対象会社の資産として——顧客リスト、製造ノウハウ、レシピ、設計データ。 中小企業では特許を取っていない技術が競争力の源泉であることが多く、 これが営業秘密として適切に管理されているかは、法務DDの調査事項になります。

管理されていなければ、従業員が持ち出しても止められない可能性があります。 買い手から見れば、買った後に価値が流出するリスクです。

② 取引の過程で——M&Aの検討過程では、対象会社の営業秘密が買い手候補に開示されます。 だから秘密保持契約が結ばれ、ガイドラインはネームクリアの前提として 譲り渡し側の同意と候補先との秘密保持契約の締結を求めています。

資料3の法務に「秘密保持に関する法律知識(●)」が置かれているのは、 この2つが背景にあります。

個人情報保護法|データも移転する

会社を譲り渡せば、その会社が持っている個人データも一緒に動きます。 顧客名簿、従業員の情報、取引先の担当者情報——いずれも個人情報です。

個人情報保護法は、個人データの第三者提供について本人の同意を原則としつつ、 事業の承継に伴う提供については別の扱いを定めています。

ただし、スキームによって状況が変わります。

  • 株式譲渡……法人格が変わらないため、データの保有者は変わらない
  • 事業譲渡・会社分割・合併……別の法人へ移るため、承継に伴う取扱いの検討が必要

加えて、M&Aの検討段階でも論点があります。 DDで開示する資料に個人情報が含まれる場合、その取扱いに配慮が必要です。

法務DDでは、個人情報の管理体制そのものも調査事項になり得ます。 過去に漏えい事故があれば、偶発債務につながります。

倒産法|事業再生局面のM&A

資料3の法務基礎には倒産法も挙げられています。

中小M&Aの一部は、事業再生の局面で行われます。 債務超過、返済が困難、といった状態で、事業だけを残すために譲渡する——という形です。

ガイドラインにも、金融機関の章に 「譲り渡し側が事業再生局面にある場合の中小M&A支援の在り方」という節が置かれています。

また、ガイドラインは譲り受け側の調査について、こう書いています。

特に、譲り渡し側が債務超過の場合等、M&Aの成立において譲り受け側の信用が特に重要となるケース においては特に慎重な調査の実施が必要であり、(中略)譲り受け側の財務状況について、 少なくとも決算公告や税務申告書の確認により適切な確認を実施することが求められる。

さらに、最終契約の節には次の記述があります。

譲り渡し側のキャッシュフローの悪化・債務超過等がM&Aの背景として存在する場合には、 譲り渡し側の経営者は、時間的な切迫性や他の譲り受け側が容易に見つからないなどの事情から 焦燥感を覚え、譲渡額等の形式的な条件のみに注意が向き、 最終契約上の義務の内容やその不履行リスクを正しく評価できない可能性がある。

再生局面ほど、支援者が慎重になる必要がある。 そして「そもそもM&Aを実行すべきかも含めて慎重に検討を行うことが求められる」とされています。

関連する公的窓口として、資料3には中小企業活性化協議会が挙げられています。

本記事は一般的な制度の説明です。個別の法的判断は、必ず弁護士等の専門家にご確認ください。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.主に譲り受け側が上場企業である場合です。上場企業によるM&Aの決定は重要事実にあたり得るため、公表前に情報を知った者による株式売買はインサイダー取引規制に触れる可能性があります。支援者は公表前の情報に触れる立場にあるため、情報管理が求められます。
A.外国為替及び外国貿易法(外為法)の対内直接投資規制により、国の安全等に関わる業種に属する会社への一定の投資には事前届出が必要になる場合があります。該当性の判断は弁護士等の専門家にご確認ください。
A.不正競争防止法上の営業秘密として保護され得ます。ただし秘密として管理されていることなどの要件があり、管理が不十分であれば流出を止められない可能性があります。法務DDの調査事項になり得る論点です。
A.中小M&Aガイドライン第1章には、経営状況が良好でない中小企業において中小M&Aが成立した事例が挙げられています。ただし譲り受け側の信用が特に重要となるため、より慎重な調査が求められ、売り手側も焦燥感から条件を正しく評価できない可能性が指摘されています。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら