資料3の「中小企業政策」は「中小企業の定義と制度の枠組み」から始まります。 地味な項目ですが、制度の入口です。
補助金が使えるか、税制の特例が適用されるか——すべて「その会社が中小企業か」から始まります。
業種ごとに基準が違う
中小企業基本法は、中小企業者を業種ごとに定義しています。 資料3の項目名も「中小企業者の定義(資本金・従業員数)」です。
押さえるべき構造は3つです。
- 業種によって基準が異なる……製造業その他、卸売業、小売業、サービス業で、それぞれ別の数字が置かれている
- 資本金「または」従業員数……どちらか一方を満たせば中小企業者にあたる。「かつ」ではない
- 資本金の基準も従業員数の基準も、製造業その他がいちばん大きく、小売業がいちばん小さい
2つ目が、試験で狙われやすい論点です。 「資本金は基準を超えるが従業員数は下回る」会社も中小企業者にあたります。 「両方を満たす必要がある」とする選択肢は誤りです。
具体的な数字は法令に定められています。受験時には中小企業庁の公表する定義表で確認してください。
小規模企業者は、もう一段小さい区分
資料3には「小規模企業者、みなし大企業等の定義」という項目もあります。
小規模企業者は、中小企業者のなかでもさらに規模の小さい区分で、 従業員数を基準に定義されます(業種によって基準が異なり、商業・サービス業のほうが小さい)。
この区分が意味を持つのは、支援策の対象が分かれるからです。 小規模企業者だけを対象とする制度や、補助率が変わる制度があります。
資料3には小規模企業振興基本法も項目として挙がっています。 中小企業基本法が「成長発展」を軸に置くのに対し、こちらは小規模企業の「事業の持続的発展」を 基本原則に据えた法律です。大きくなることだけが目的ではないという政策の転換を示すものとして位置づけられています。
中小M&Aの文脈では重要です。後継者がいないから会社を譲るという選択は、 成長のためのM&Aとは動機が違います。ガイドライン第1章の事例にも 「小規模企業・個人事業主において中小M&Aが成立した事例」が最初に挙げられています。
みなし大企業|形式だけでは判定できない
みなし大企業は、資本金や従業員数の基準では中小企業者にあたるものの、 大企業の支配下にあるため、支援策の対象から外される会社を指す考え方です。
典型は、大企業が発行済株式の一定割合以上を保有しているケースです。 実質的に大企業の一部として機能しているのに中小企業向けの支援を受けるのは、 制度の趣旨に反する——という発想に基づきます。
M&Aの実務で、この論点は取引の後に効いてきます。 譲り受け側が大企業である場合、譲渡後の会社は、みなし大企業に該当する可能性があります。 そうなると、それまで使えていた中小企業向けの支援策が使えなくなることがあります。
具体的な該当要件は制度ごとに定められており、制度によって判定基準が異なります。 「一律にこう」という答えはありません。個別の適用可否は、その制度の公募要領・法令で確認するのが原則です。
定義が効いてくる場面
中小企業の定義は、次のような場面で直接効いてきます。
| 場面 | 効き方 |
|---|---|
| 事業承継・M&A支援補助金 | 対象となる事業者の要件 |
| 経営承継円滑化法(事業承継税制等) | 認定の対象 |
| 法人税の軽減税率 | 中小法人の判定(税法上の基準は中小企業基本法とは別) |
| 中小企業会計基準 | 適用が想定される範囲 |
| M&A支援機関登録制度 | 支援対象としての中小企業 |
注意すべきは3行目です。税法上の「中小法人」の判定基準は、中小企業基本法の定義とは別物です。 資本金1億円以下という税法独自の基準が置かれています。
同じ「中小企業」という言葉でも、どの法律の話かで基準が変わる。 ここは混同しやすく、設問にもしやすい論点です。
M&Aの実務で、定義を確かめる場面
実務では、次のような場面で「この会社は中小企業者か」を確かめることになります。
① 相談の入口——事業承継・M&A支援補助金が使えるかどうかは、依頼者にとって費用の話です。 ガイドラインは、補助金の対象となるためにはM&A支援機関登録制度に登録された機関の支援であることを 前提とする仕組みを背景に置いています。会社側の要件と、支援機関側の要件の両方が揃って初めて使えます。
② 事業承継税制を検討する場面——経営承継円滑化法の認定には、会社の規模要件があります。 親族内承継との比較を求められたとき、そもそも適用対象かどうかが最初の分岐になります。
③ 譲渡後の姿を考える場面——譲り受け側が大企業なら、譲渡後はみなし大企業に 該当する可能性があります。それまで使えていた支援策が使えなくなることがあり、 買い手にとってのコスト要因にもなり得ます。
いずれも、支援者が結論を出す場面ではありません。 補助金の該当性は公募要領、税制の適用は税理士——論点として気づき、確認先につなぐところまでが役割です。 合格者像の「検討が必要な論点を見極め、士業専門家と連携できる水準」が、ここでも当てはまります。
試験で押さえる形
- 中小企業者の定義は業種ごとに、資本金「または」従業員数で判定する
- 小規模企業者は従業員数を基準とした、さらに小さい区分
- 小規模企業振興基本法は「事業の持続的発展」を基本原則に置く
- みなし大企業は、形式的には中小でも大企業の支配下にあるため支援対象から外れる考え方。要件は制度ごとに異なる
- 税法上の中小法人の基準は、中小企業基本法の定義とは別
資料3では、これらの項目に●(優先項目)は付いていません。 ●が付いているのはM&A支援機関登録制度・事業承継M&A支援補助金・各種ガイドライン・ 事業承継引継ぎ支援センターの4つです。 定義はそれらを理解するための土台として押さえるのが、配分として適切です。
本記事は一般的な制度の説明です。個別の制度の適用可否は、各制度の公募要領・法令、 および税理士等の専門家にご確認ください。
この記事について(出典と免責)
本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。
試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。
本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。
出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。
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当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。
中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点
同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。
問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。
本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。