資料3の「倫理・行動規範」には「広告・営業」という中項目があり、 「虚偽・誤解を与える文言使用の禁止」と「不適切な営業活動の禁止」が並んでいます。

ガイドラインは、この範囲を「行ってはならない」という強い表現で、具体的に列挙しています。

3つの類型

ガイドラインは、広告・営業先の中小企業の意思決定を適切に支援する観点から、 次のような広告・営業を行ってはならないとしています。

  1. 名乗らない勧誘
    仲介者・FAの名称、勧誘を行う者の氏名、仲介契約・FA契約の締結について勧誘する目的である旨を告げずに行う広告・営業
  2. 考える時間を与えない勧誘
    仲介契約・FA契約を締結し、M&Aの手続を進めるか否かの意思決定の上で必要な時間を与えず、即時の判断を迫る広告・営業
  3. 虚偽・誤認を招く表示
    M&Aの成立の可能性やその条件等、意思決定に影響を及ぼす事項について、 虚偽若しくは事実に相違する又は誤認を招くような広告・営業

1つ目は「何の話で連絡してきたのか」を最初に言え、という規定です。 M&Aの打診は、経営者にとって重い話です。用件を隠して接触すること自体が禁じられています。

虚偽・誤認の4つの例

3つ目の類型には、例が4つ挙げられています。

  • 買い手・売り手がいると偽る……譲り受け(譲り渡し)の意向が無い企業、その意向を確認していない企業、 又は実際には存在しない企業について、意向があると偽り又はそのように誤認させるもの
  • 過大なバリュエーションを提示する……譲渡額の水準について過大な企業価値評価を示すもの
  • 財務状況や見通しを実際より良く見せる……事実に相違する、又は実際のものよりも優良・有利であると誤認させるもの
  • 確定的な判断を下す……その他M&Aの成立の可能性やその条件について確定的な判断を下すもの

1つ目の「意向を確認していない企業」が含まれている点に注意してください。 実在する会社であっても、買う意向を確認していないのに「買いたい会社がある」と言えば、この類型に当たります。 嘘をついていなくても、確認していなければ足りないということです。

過大なバリュエーションが名指しされている理由

2つ目には、ガイドラインが注記を付けています。

仲介者がバリュエーションを実施する場合、確定的なバリュエーションではない旨、 必要に応じて士業等専門家等のセカンド・オピニオンを求めることができる旨等を明示する必要がある

これは、利益相反の節にあった「仲介者はバリュエーション・DDの結論を決定しない」と一体の規定です。

企業価値の見立ては、依頼を取るための道具にもなり得ます。 高い数字を示せば話は前に進みますが、その数字が交渉で下がれば、依頼者は落胆し、判断を誤ります。 だから提示する段階で「確定ではない」と言い、他の意見を取れると伝えることが求められます。

4つ目の「確定的な判断を下すもの」も同じ筋です。M&Aの成立も条件も、事前には確定できません。 断定した時点で、それは誤認を招く表示になります。

広告・営業の「停止」という論点

資料3の倫理・行動規範には、「意思決定(広告・営業の停止、内容、方法)」という項目があります。 内容と方法だけでなく、停止が並んでいる点が特徴です。

ガイドラインは、広告・営業の段階で得た情報や苦情等について、 その内容を組織的に記録し、共有しなければならないとしています。 ここでも「担当者限りにしない」という原則が現れます。

試験対策としては、「組織的に記録・共有」という言葉が出てくる箇所を拾っておくと効率的です。 不適切な譲り受け側に係る情報、広告・営業に関する苦情——いずれも、個人で抱えないことが求められています。

契約締結の段階へ|仲介とFAの違いを理解させる責任

広告・営業の次の工程が、仲介契約・FA契約の締結です。ガイドラインはこう書きます。

仲介者・FAは、それぞれ、業務形態の実態に合致した契約(仲介契約・FA契約)を締結する必要がある。

そして、依頼者側の困難を明示します。

依頼者は、M&Aについて必ずしも十分な知識を有しているとは言えず、また、一般に、仲介契約・FA契約の内容は 多岐にわたる複雑なものとなるため、仲介とFAの違い等や契約内容を理解することは容易ではない。

資料3の「M&A実務の基礎」には「仲介とFAの違い」が優先項目(●)として挙がっています。 実務科目でも倫理科目でも問われる論点だということです。

この節全体を貫く発想は一つです。依頼者は判断材料を持っていない。だから、判断できる状態にしてから判断を求める。

この記事について(出典と免責)

本記事は、中小企業庁が公表した資料をもとに、株式会社プラチナパートナーズが作成したものです。 本試験の実施主体・運営事業者が作成・監修・承認したものではありません。

試験の名称・科目構成・出題数・出題範囲・合格基準・実施時期等は、2026年9月時点で公表されている 検討会資料および企画競争募集要領に「想定」「現状案」として示された内容です。 試験名は資料上「中小M&A資格試験(仮称)」と表記されています。実際の試験と異なる可能性がありますので、 受験にあたっては必ず公式の試験案内をご確認ください。

本記事の法務・税務・会計に関する記述は一般的な制度の説明です。 個別の案件における判断は、必ず弁護士・税理士・公認会計士等の専門家にご確認ください。

出典:「中小M&A市場の改革に向けた方向性について」(中小企業庁・第4回 中小M&A市場の改革に向けた検討会 資料2、2026年3月17日)/ 同 資料3「試験科目詳細」/ 「中小M&A資格試験実施事業」企画競争募集要領(中小企業庁、2026年3月27日)/ 中小M&Aガイドライン(第3版)(中小企業庁、2024年8月)/ 中小M&A専門人材(個人)向け 使命・倫理行動規範・知識スキルマップ をもとに当社が作成。

よくあるご質問

A.中小M&Aガイドラインは、名称・勧誘者の氏名・勧誘目的を告げない広告営業、意思決定に必要な時間を与えず即時の判断を迫る広告営業、M&Aの成立の可能性や条件について虚偽・事実相違・誤認を招く広告営業を行ってはならないとしています。
A.譲り受けの意向が無い企業、意向を確認していない企業、実際には存在しない企業について意向があると偽ったり誤認させたりすることは禁じられています。意向を確認していない段階で「買いたい会社がある」と伝えることは該当し得ます。
A.過大なバリュエーションの提示は禁止されています。また仲介者がバリュエーションを実施する場合、確定的なバリュエーションではない旨と、必要に応じて士業等専門家等のセカンド・オピニオンを求めることができる旨を明示する必要があるとされています。

Book

この試験の勉強に使えるもの:試験範囲マップ|251項目と当社コラムの対応表で、どの項目にどの記事が対応しているか(と、当社が書けていない項目)を一覧できます。

中小M&A資格試験 合格問題集|一次資料で解く、全300問

当社取締役副社長 神垣宏康が執筆した問題集です。中小M&Aガイドライン第3版・知識スキルマップ・検討会資料「試験科目詳細」といった公表資料だけから全300問を作成し、全問に出典を明記しています。

本編180問(M&A実務55/市場動向・政策17/財務・税務37/法務32/倫理・行動規範39)+本試験と同じ60問・科目配分の模擬試験2回120問。各問に解説と出典。禁忌肢が想定される問題の明示と、付録に禁忌肢チェックリスト。付録の出題範囲対応表は、資料3の小項目から問番号を引ける形にしてあります。

中小M&A資格試験 合格テキスト|一次資料で体系的に学ぶ、4科目の要点

同じシリーズの基本書です(2026年10月3日刊行)。序章で制度創設の経緯・4科目と配点・合格基準・禁忌肢・CBTでの実施形式・学習プランを示し、第1章 M&A実務/第2章 中小M&A市場動向・中小企業政策/第3章 財務・税務/第4章 法務/第5章 倫理・行動規範の順に解説しています。付録は用語集・重要数値一覧・スキーム比較表・出題範囲対応表・学習記録シート。数値・期間・条文には出典を併記し、制度の数値は2026年10月1日時点です。

問題集で問われ方を確かめ、間違えた問から本書の該当節に戻る形を想定しています。付録の出題範囲対応表が、2冊の往復の索引になります。

本書は試験の実施主体・運営事業者が作成・監修したものではありません。制度の内容は2026年9月時点の公表資料に基づく「想定」「現状案」です。受験にあたっては公式の試験案内をご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役副社長。中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら