事業承継のご相談をいただくとき、最初にうかがうことがあります。「この話は、どなたかにもうお話しされましたか」。この問いへの答えは、驚くほど分かれます。顧問税理士にだけ話した方、金融機関の担当者から水を向けられた方、そして、誰にも話していないという方。最初に誰へ話すかによって、その後に見える選択肢の幅が変わってしまうことがあるため、順番には一定の設計が必要です。

本稿では、承継の相談相手を「得手不得手」で整理し、家族と外部のどちらを先にするかという悩ましい論点と、相談段階での情報管理について、選択肢を並べる形でご説明します。どれが正解という話ではなく、ご自身の状況に当てはめて判断していただくための材料としてお読みください。

最初の相談相手で、見える景色が変わる

承継の相談には、ひとつ特徴があります。相談を受けた側は、多くの場合自分が扱える解決策の方向へ話を運ぶということです。これは不誠実だからではなく、自分の専門領域で最善を尽くそうとする自然な行動です。

たとえば、税務の専門家に相談すれば、自社株の評価と移転をどう設計するかという軸で話が進みます。金融機関に相談すれば、融資と保証、そして取引関係を含めた枠組みで検討が始まります。M&Aの仲介者に相談すれば、第三者への譲渡を前提とした話になりやすい。どれも間違いではありませんが、最初の一人の視野が、そのまま検討の枠になってしまうことがあります。

枠が狭くなるとどうなるか

ありがちなのは、親族内承継の可能性を十分に検討しないまま第三者譲渡の準備が進む、あるいは逆に、後継者候補の意思が固まらないまま数年が過ぎ、第三者承継という選択肢を検討する時期を逸してしまう、という展開です。どちらも、途中で「そういえば、あの道は検討したのだろうか」と立ち止まる機会がなかったために起きます。

ですから最初の相談では、結論を求めるよりも「自社が取りうる選択肢を、漏れなく並べてもらうこと」を目的にすることをおすすめします。相手に対して「まだ方針は決めていません。どういう道があるかを一通り教えてください」と最初に伝えるだけでも、話の運ばれ方は変わります。

身近な相談先の、得意なことと苦手なこと

中小企業の経営者が現実に相談できる先は、それほど多くありません。それぞれの性格を把握しておくと、聞くべきことと、そこでは聞けないことが整理できます。

  • 顧問税理士——自社の数字と株主構成を最もよく知っています。自社株の評価水準、贈与・譲渡の税務、事業承継税制の適用可否といった論点で頼りになります。一方、買い手候補の探索や交渉の実務は通常の業務範囲外です。
  • 金融機関の担当者——借入・保証・資金繰りの実態を把握しており、承継に伴う融資や経営者保証の扱いを具体的に詰められます。ただし、相談内容が行内の与信判断に影響しうる点は意識しておく必要があります。
  • 商工会議所・商工会、公的な支援窓口——中立的な立場で選択肢を並べてもらいやすく、費用面の負担も軽い相談先です。個別案件を最後まで伴走するというより、初期の交通整理に向いています。
  • 弁護士——株式が分散している、親族間に争いの芽がある、名義株が残っているなど、法的な整理が先に必要な場合に有効です。
  • M&A仲介会社・アドバイザー——第三者承継を検討する場合の相場観、買い手候補の層、進め方の実務を具体的に聞けます。逆に言えば、親族内承継だけで完結する話であれば出番は限られます。

この中で「まず一人」を選ぶなら、自社の数字を既に知っていて、かつ利害が相対的に薄い相手が無難です。多くの会社では顧問税理士がこれに当たりますが、税理士が高齢で承継案件の経験が乏しい場合もありますので、その点は正直に確認してよい部分です。関連する整理は「M&Aは誰に相談すべきか」でも扱っています。

家族より先に、外部へ話してよいのか

これは非常によくいただく質問です。「妻にも子にも言っていないのに、外部に相談するのは順番が違うのではないか」。お気持ちはよく分かります。同時に、家族に話す前に外部で整理しておいたほうが、家族との対話がうまくいくという実感もあります。

先に外部へ話すことの利点

家族への相談は、どうしても感情を伴います。「継いでほしいのか、継がなくてよいのか」「会社を売るというのは失敗なのか」といった受け止め方の違いが、事実の確認より先に出てきてしまう。ここに、選択肢と見通しという事実の土台があるだけで、対話の質は変わります。外部で一度整理しておけば、家族に対して「こういう道が三つあって、それぞれこういう時間軸になる」と、具体的な材料を出せます。

先に家族へ話すことの利点

一方で、後継者候補になりうるご家族がいる場合、外部で方針を固めてから伝えると「もう決まっていたのか」という不信を招くことがあります。とくにお子様が会社に在籍している、あるいは将来の可能性を意識しているような場合は、方針を固める前の段階で一度意向を聞いておくほうが、後の摩擦が小さくなります。

折衷案として実務でよく取るのは、「外部には選択肢の整理まで、家族には方針を固める前に」という順序です。外部相談は情報収集にとどめ、結論を出す前に必ず家族の意向確認を挟む。この順番であれば、どちらの利点も取りやすくなります。家族への伝え方は「家族に会社売却をどう伝えるか」もあわせてご覧ください。

相談の前に整えておくと話が早い情報

初回の相談は、手ぶらでも成立します。ただ、次の情報が手元にあると、一度の面談で得られるものが大きく変わります。いずれも新たに作る必要はなく、既にある書類を持ち出すだけで足ります。

  • 直近3期分の決算書——貸借対照表・損益計算書・勘定科目内訳明細書。役員借入金や不動産の保有状況が分かります。
  • 株主名簿——誰が何株を持っているか。名義株の有無も含めて。
  • 借入の一覧——金融機関名、残高、保証の有無。
  • 役員・従業員の名簿——年齢構成が分かる形が望ましい。
  • ご自身の希望——いつまでに、何を優先したいか。箇条書きで構いません。

とくに株主名簿は、実態と一致しているかどうかの確認が重要です。創業時の名義借り、相続で分散したまま整理されていない持分、退職した役員が保有したままの株式などは、承継の方法そのものを左右します。詳しくは「相談前に整理しておく情報」で一覧にしています。

もうひとつ、「決めていないこと」を決めていないまま持ち込んで構いません。売るか継がせるか決まっていない、時期も決まっていない、という状態こそが相談の出発点として自然です。方針が決まっている方だけが相談する場ではありません。

相談段階で、情報は守られるのか

「相談したことが取引先や従業員に伝わらないか」という不安は、相談を先送りにする最大の理由のひとつです。ここは冷静に、仕組みの面から確認してください。

秘密保持契約を先に結ぶ

専門的な支援を行う事業者との相談では、具体的な情報をやり取りする前に秘密保持契約(NDA)を締結するのが一般的です。締結を申し出て嫌がるような相手には、それ以上の情報を渡さないという判断で構いません。契約書の有効期間、目的外使用の禁止、返還・破棄の定めがあるかを確認してください。

社名を伏せた形での相談

初期段階では、社名や所在地を伏せ、業種・規模・おおまかな財務の特徴だけで相談を進めることもできます。相場観を知りたいだけの段階であれば、この形で十分な場合が少なくありません。

社内での取り扱い

意外に見落とされるのが社内側です。面談の予定を共有カレンダーに書く、資料を共有サーバーに置く、社内の会議室で面談する——こうした日常の動作から漏れることがあります。書類は施錠できる場所に置き、やり取りは個人のメールアドレスで行うなど、基本的な手当てをしておいてください。情報管理の実際は「M&Aの情報漏洩はなぜ起きる」で詳しく扱っています。

一人に決めず、複数の目を通す

最後に、実務者としてお伝えしたい点があります。承継は一生に一度の判断ですから、最初の相談相手を「決定的な一人」にしないほうがよい、ということです。

帝国データバンクの2025年の調査では、後継者不在率は50.1%とされています。半数の会社が、親族内・社内に後継者を見いだせていない計算になります。つまり、親族内承継を前提に話を始めた会社が、途中で第三者承継の検討に移ることは、例外的な展開ではありません。だからこそ、ひとつの前提に固定されない相談の持ち方が要るのです。

複数の目を通す具体的な方法

  • 顧問税理士に自社株評価と税務の見通しを、別途、承継実務の経験がある先に進め方の全体像を、それぞれ聞く
  • 同じ質問を二者にして、答えの違いがどこから来ているかを確認する
  • 金融機関に相談する場合は、その情報が与信判断に及ぼす影響の範囲をあらかじめ確認しておく
自社株の評価、贈与・譲渡・相続の課税関係、事業承継税制の適用可否は、株主構成・評価方法・親族関係により結論が大きく変わります。個別の判断は弁護士・税理士等の専門家にご確認ください。

まとめ|順番は「選択肢を並べる → 家族 → 実行」

最初の相談は、結論を出す場ではなく選択肢を並べる場だと位置づけてください。そのうえで、方針を固める前に家族の意向を確認し、実行の段階で専門家を使い分ける。この順番であれば、どの道を選んでも、後から「あの選択肢を見ていなかった」という後悔が残りにくくなります。

当社では、相談料・着手金・月額報酬をいただいておりません。方針が決まっていない段階、第三者承継を選ばない前提の整理だけでも構いませんので、一度、選択肢を並べるところからご一緒させてください。

よくあるご質問

A.顧問税理士には職業上の守秘義務があり、通常、依頼者の同意なく第三者へ伝えられることはありません。ただし、経理担当者を通じて資料を依頼する、事務所からの郵送物が会社に届くといった経路から社内の察知につながることはあります。連絡手段を個人の携帯やメールに限定する、資料は直接手渡しするなど、経路の面での手当てをしておくと安心です。
A.承継の相談そのものが直ちに不利に働くわけではなく、むしろ後継者が定まる見通しが示されることで、長期的な取引の安定材料として受け止められることもあります。一方、後継者が不在のまま経営者が高齢であるという事実が共有されれば、それは与信判断の一要素になり得ます。相談する時期と伝える内容は、自社の状況を踏まえて選んでください。
A.はい、その段階でのご相談が最も多いというのが実感です。方針が固まっていない状態は、選択肢を比べる余地が最も大きい状態でもあります。当社では相談料・着手金・月額報酬をいただいておらず、その場でご契約を求めることもありません。まずは選択肢の整理からお使いください。

Free Consultation

最初の一歩は、選択肢を並べるところから。

方針が決まっていない段階のご相談も歓迎します。相談料・着手金・月額報酬は0円です。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら