事業承継の計画づくりにおいて、最も身近で頼りになる専門家は顧問税理士です。自社の数字を継続的に見てきた方であり、株式の評価も税務の設計も、まずはここから始まります。一方で、承継には税務以外の論点も多く、税理士だけで完結するものではありません。本稿では、承継計画づくりにおいて顧問税理士に何を依頼するのか、どんな資料を用意すべきか、そしてどこからは別の専門家に相談すべきかを整理します。
承継における顧問税理士の位置づけ
顧問税理士は、会社の数字を最も長く見てきた外部の専門家です。決算書の作成、税務申告、日々の記帳指導を通じて、会社の実態を継続的に把握しています。この蓄積は、承継の設計において大きな価値を持ちます。
とくに次の領域では、顧問税理士の関与が実質的に不可欠です。
- 自社株の評価額の算定
- 株式の移転方法(贈与・売買・遺贈)ごとの税負担の比較
- 事業承継税制(納税猶予制度)の適用可否の検討
- 役員退職金の金額と支給時期の設計
- 役員借入金・貸付金など、法人と個人の間の整理
- 決算書の整備と、承継後の税務の見通し
一方で、税理士の専門は税務です。遺留分や契約の問題は弁護士の領域であり、株式の第三者への譲渡は別の専門性を要します。役割の境界を理解しておくことが、円滑な連携の前提です。
何を依頼するか
「事業承継を考えているので相談したい」という漠然とした形でも相談は始められますが、依頼の内容を具体化しておくほうが、話は早く進みます。段階ごとに整理します。
第1段階|現状の把握
まず依頼したいのは、自社株の評価額の算定です。これがなければ、贈与するにも売買するにも、税負担の見通しが立ちません。あわせて、株主構成の確認(法人税申告書別表二と株主名簿の突き合わせ)も依頼します。
第2段階|移転方法の比較
評価額が分かったら、贈与・売買・遺贈それぞれの場合に、誰にいくらの税負担が生じるかを試算してもらいます。暦年贈与と相続時精算課税の比較、複数年に分けた場合の試算も含めて依頼するとよいでしょう。手段ごとの特徴は「自社株を後継者に渡す手段」で整理しています。
第3段階|制度の適用検討
事業承継税制の適用可否を検討します。特例措置には特例承継計画の提出期限(2027年9月30日)と適用期限(2027年12月31日)が定められており、活用を検討するなら期限から逆算した準備が必要です。適用後の継続要件と報告義務についても、あわせて確認してください。
第4段階|計画への落とし込み
ここまでの検討を、年表の形にまとめます。いつ株式を移し、いつ代表を交代し、いつ退職金を支給するか。事業承継計画の作り方は「事業承継計画書の作り方」をご参照ください。
相談の前に用意する資料
相談を効率的に進めるために、次の資料を揃えておくことをおすすめします。多くは顧問税理士側にもありますが、経営者ご自身が把握しておくことに意味があります。
| 資料 | 目的 |
|---|---|
| 直近3期の決算書・申告書 | 評価額の算定と現状把握の基礎 |
| 株主名簿 | 株式の所在と分散状況の確認 |
| 不動産の登記事項証明書 | 会社と個人の資産の混在状況の確認 |
| 借入の一覧と保証の状況 | 個人保証の整理に向けた前提の確認 |
| ご家族の構成 | 相続人の範囲と遺留分の検討 |
| 承継の希望時期 | 逆算した準備のスケジュールを組むため |
とくに5番目と6番目は、経営者ご自身しか提供できない情報です。ご家族の構成や、いつ引退したいかというお気持ちを伝えなければ、税理士も設計のしようがありません。
税理士以外に相談すべき領域
承継には、税務以外の論点が数多くあります。相談先を整理します。
- 弁護士:遺言の作成、遺留分の対策、種類株式の設計、契約書の確認、労務の取り扱い
- 司法書士:登記の手続き、定款の変更
- 金融機関:個人保証の見直し、承継後の融資枠、後継者の資金調達
- 社会保険労務士:就業規則、労務条件の整備
- M&A仲介・事業承継アドバイザー:第三者承継の可能性の検討、選択肢の比較
実務上、これらの相談先の間で情報が共有されていないと、設計が食い違うことがあります。たとえば、税務上有利な株式の移転設計が、遺留分の観点では問題を含んでいるといったことです。
そこで有効なのが、顧問税理士に「他の専門家との窓口も担ってほしい」と依頼することです。会社の実情を最もよく知る立場から、他の専門家に必要な情報を渡してもらえます。ただし、事務所によって対応の範囲は異なりますので、事前に確認してください。
連携がうまくいかないとき
ご相談を伺っていると、次のような声を聞くことがあります。
「承継の話をしても、具体的な提案が出てこない」。税理士事務所によって、事業承継への関与の深さは異なります。日常の記帳と申告を中心とする事務所では、承継の設計は専門外ということもあります。その場合、顧問契約は継続したまま、承継の部分だけ別の専門家に相談するという形も選べます。
「提案された方法が自分には合わない気がする」。承継の設計に唯一の正解はなく、複数の考え方があり得ます。判断に迷う場合は、セカンドオピニオンを求めることも一つの方法です。顧問税理士との関係に配慮しつつ、別の視点を得ることは不自然なことではありません。
「先代と後継者で、税理士に対する信頼が違う」。長年の関係は先代と築かれたものです。後継者が別の考えを持つことはあり得ます。承継後の顧問契約をどうするかは後継者の判断ですが、承継の期間中は情報の連続性を保つことに価値があります。
なお、第三者へのM&Aを検討する場合の税理士との関わり方については、「M&Aと顧問税理士」で別途整理しています。
まとめ|早く伝えるほど、選択肢が残る
顧問税理士との連携で最も大切なのは、早く伝えることです。株式の評価も、移転の設計も、制度の適用も、時間があるほど選択肢が広がります。承継の時期が迫ってからでは、採れる手が限られます。
相談の第一歩は、自社株の評価額を算定してもらうことです。数字が出れば、そこから議論が始まります。あわせて、ご家族の構成と、いつ引退したいかというお考えを率直に伝えてください。
そして、税理士だけで承継が完結するわけではないことも押さえておいてください。法務は弁護士、保証は金融機関、そして第三者承継の可能性については当社のような仲介会社。それぞれの領域を適切に使い分けることが、納得のいく承継につながります。
よくあるご質問
Free Consultation
税理士との検討と並行して、選択肢を確かめませんか。
第三者承継という道も含めて、比較の材料をご提供します。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。