事業承継を考え始めたとき、多くの経営者様は「息子に継がせるか、それとも売るか」という二択で悩まれます。しかし実際には、その間に「役員や従業員に引き継ぐ」という道があり、さらにそれぞれの中にも複数のやり方があります。本稿では、親族内承継・社内承継・第三者承継という3つの道を、同じ軸で並べて比較します。どれが優れているという話ではなく、自社の状況にどれが噛み合うかを見極めるための材料としてお読みください。
承継の道は3つ|まず全部をテーブルに並べる
事業承継の方法は、後継者が誰かによって大きく3つに分かれます。お子様や配偶者など親族に引き継ぐ「親族内承継」、役員や従業員に引き継ぐ「社内承継」(MBO・EBOと呼ばれます)、そしてM&Aによって社外の第三者に引き継ぐ「第三者承継」です。これに、承継せずに事業をたたむ「廃業」を加えて、4つの選択肢と整理することもあります。
実務でよく見られるのが、「まず息子に打診し、断られたので次に専務に打診し、それも難しいのでM&Aを考える」という順番の検討です。順番に消していく進め方は自然ではありますが、ひとつの道を諦めるたびに数年が過ぎ、最後に残った選択肢しか採れなくなるという難点があります。
おすすめしたいのは、最初の段階で3つを並べ、それぞれの現実性を同時に確かめる進め方です。息子さんに意思を確認するのと並行して、社内に後継者候補がいるかを考え、第三者承継ならどの程度の評価になりそうかの目安を掴んでおく。そのうえで優先順位をつければ、時間の使い方が変わります。
5つの軸で比較する
3つの道を比較する軸として、実務では次の5つが使われます。
| 軸 | 親族内承継 | 社内承継(MBO・EBO) | 第三者承継(M&A) |
|---|---|---|---|
| 後継者の見つけやすさ | 親族に意思と適性のある方がいる場合に限られる | 候補は社内に限られるが、人柄と実力は把握済み | 社外から広く探せる。相手の幅がもっとも広い |
| 後継者に必要な資金 | 贈与・相続なら不要。売買なら買取資金が必要 | 株式の買取資金が必要。ここが最大の壁になりやすい | 不要(買い手が対価を支払う) |
| 個人保証の扱い | 後継者が引き継ぐか、金融機関と解除を交渉 | 後継者が引き継ぐことが多く、負担が重い | 譲受企業への引き継ぎや解除が交渉の中で整理される |
| 準備に要する期間 | 育成を含めると数年単位 | 同じく数年単位。資金調達の準備も要する | 相手が見つかれば比較的短い期間で成約に至ることもある |
| オーナーの手取り | 贈与・相続では対価は入らない | 買取価格しだい。資金制約で低くなることもある | 株式の譲渡対価を受け取れる |
この表を眺めると、それぞれの道の「効きどころ」が見えてきます。親族内承継と社内承継は、会社の文化や取引関係を連続させやすい一方で、後継者側の資金と保証の負担が重くなりがちです。第三者承継は、後継者側の資金負担がない代わりに、経営の主体が社外に移ります。
親族内承継が向いている会社
親族に承継の意思と適性のある方がいて、かつ承継までに数年の時間が取れる会社では、親族内承継が第一候補になります。従業員・取引先・金融機関の心理的な受け入れが得られやすいことも、実務上の大きな利点です。
逆に、注意が必要なのは次のような場合です。自社株の評価額が大きく、贈与税・相続税の負担が後継者の重荷になりそうなとき。他にも相続人がいて、遺留分をめぐる調整が必要なとき。後継者候補が会社の外で別のキャリアを築いており、戻る意思が定まっていないとき。いずれも、早い段階で確かめておかないと、あとから軌道修正が効きません。進め方の詳細は「親族内承継の進め方」をご覧ください。
社内承継が向いている会社
長年会社を支えてきた役員や幹部がいて、その方に経営を託したいという場合の選択肢です。事業の中身を知り尽くしている方が後を継ぐため、引き継ぎそのものは円滑に進みやすいという特徴があります。
最大の課題は資金です。後継者個人が株式を買い取るには、自社株の評価額に見合う資金を用意しなければなりません。金融機関からの借入、持株会社を設立しての買収、段階的な買い取りなど、いくつかの組み立て方がありますが、いずれも後継者に相応の覚悟を求めるものです。あわせて、経営者保証を後継者が引き継げるかという問題も生じます。詳しくは「従業員承継(MBO・EBO)とは」で解説しています。
第三者承継(M&A)が向いている会社
親族にも社内にも後継者がいない場合、あるいは後継者はいるが資金や保証の面で現実的でない場合の選択肢です。レコフデータによれば2025年のM&A件数は5,000件を超え、2年連続で過去最多を更新しました。中小企業の事業承継を目的とした譲渡が広く行われるようになっています。
第三者承継の利点は、後継者候補を社外に広く求められること、後継者側に個人資金を求めないこと、そしてオーナー様が株式の譲渡対価を受け取れることです。譲受企業の資本力によって、単独では難しかった設備投資や人材採用が進むこともあります。
一方で、譲渡後は経営の主体が変わります。従業員の処遇や取引先との関係をどう守るかは、相手選びと契約条件の設計にかかっています。「会社を売る」ことへの心理的な抵抗も含めて、時間をかけて考えるべきテーマです。判断軸は「事業承継とM&Aの違い」でも整理しています。
まとめ|順番に消していくのではなく、並べて選ぶ
3つの道は、どれかが正解でどれかが失敗という関係にはありません。会社の規模、株式の評価額、後継者候補の有無と資金力、経営者ご自身が引退までに使える時間——これらの組み合わせによって、噛み合う道が変わるだけです。
大切なのは、比較の材料を揃えたうえで選ぶことです。親族内承継を選ぶにしても、第三者承継ならどうなるかを知っていれば、判断に納得感が生まれます。逆に、他の道を知らないまま消去法で決めた承継は、後になって「本当にあれでよかったのか」という迷いを残しがちです。
当社プラチナパートナーズはM&A仲介を本業としていますが、初回のご相談で必ずM&Aをおすすめするわけではありません。3つの道を並べて、貴社に噛み合うのはどれかを一緒に整理するところから始めます。事業承継をお考えの方へのご案内もご参照ください。
よくあるご質問
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親族内・社内・第三者。それぞれの現実性を、貴社の状況に即してご説明します。
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