事業承継について「そろそろ考えないといけない」とお感じでも、何から手をつければよいかがわからない——多くの経営者様が、この段階で足踏みをされます。順番としては、計画を立てる前に「いま自社がどこに立っているのか」を確かめることが先です。この現在地の確認を、一般に事業承継診断と呼びます。本稿では、診断で何を見るのか、経営者ご自身でどこまで確かめられるのか、そして診断結果をどう次の一歩につなげるのかを、順を追ってご説明します。

事業承継診断とは|「まだ先」を事実に置き換える作業

事業承継診断とは、後継者の有無、株式の所在、財務の状態、事業の強み、経営者ご自身の年齢や健康といった項目を一覧にし、承継に向けた準備がどこまで進んでいるかを点検する作業です。商工会議所や金融機関、専門家が用いる簡易なチェックシートの形をとることもあれば、決算書や株主名簿を実際に確認しながら行う本格的なものもあります。

診断の目的は、点数をつけて優劣を判定することではありません。「まだ先の話」という漠然とした感覚を、確かめられる事実に置き換えることにあります。たとえば「後継者は息子かもしれない」という感覚は、本人に承継の意思を確認して初めて事実になります。「株は自分がほぼ持っている」という記憶は、株主名簿を見て初めて事実になります。

帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%です。およそ半数の企業で後継者が決まっていない一方で、経営者の年齢は着実に上がっていきます。診断が意味を持つのは、残された時間が長いうちほど、選べる道が多いからです。

診断で確かめる5つの領域

診断の項目は多岐にわたりますが、大きくは次の5つの領域に整理できます。

領域確かめること
人(後継者)後継者候補の有無、本人の承継意思、経営者としての経験と適性、育成に使える期間
株式・資産株主名簿と実際の保有状況の一致、分散の有無、自社株のおおよその評価額、個人資産と会社資産の混在
財務・金融直近3期の損益と純資産、借入の残高と返済計画、経営者個人の連帯保証と担保の状況
知的資産許認可、取引先との関係、技術・ノウハウ、社長個人に属人化している業務の範囲
時間経営者の年齢と健康、引退を考える時期、承継完了までに現実的に使える年数

このうち、多くの会社でつまずきやすいのが「株式・資産」と「知的資産」です。創業から年数の経った会社ほど、過去の相続や名義株によって株式が分散していたり、会社の事業に個人名義の不動産が使われていたりします。また、営業も資金繰りも社長がひとりで担っている会社では、後継者に渡すべきものが文書として残っていないことも珍しくありません。

経営者ご自身でできる簡易チェック

専門家に依頼する前に、次の問いに答えてみてください。いずれも、手元の資料と記憶だけで確かめられるものです。

  • 後継者候補の名前を挙げられるか。その方に承継の意思を直接確認したことがあるか
  • 株主名簿を最後に見たのはいつか。名簿上の株主が全員、いま連絡の取れる方か
  • ご自身の持株比率は何%か。3分の2以上か、過半数か、それ未満か
  • 会社の借入に、ご自身が連帯保証をしているか。個人の不動産を担保に入れているか
  • ご自身が3か月間まったく出社できなくなったとき、会社は回るか
  • 会社が使っている土地・建物・車両のうち、個人名義のものがあるか
  • 会社から自分への貸付、または自分から会社への貸付(役員借入金)が残っていないか

答えに詰まる項目があっても、それ自体は問題ではありません。むしろ「答えられない項目こそが、これから確かめるべきこと」だと考えてください。とくに最後の3つは、承継の直前になって出てくると調整に時間がかかる論点です。会社と個人の資産が混ざっている場合は「会社と個人の不動産が混ざっているときの整理」を、役員借入金が残っている場合は「役員借入金の整理」もあわせてご覧ください。

診断結果の読み方|3つのパターン

診断の結果は、おおむね次の3つのいずれかに落ち着きます。

1. 後継者がいて、準備も進んでいる

もっとも恵まれた状態です。この場合の課題は、株式をどの手段でいつ移すか、税負担をどう平準化するか、個人保証をどう扱うかといった、具体的な設計に移ります。計画を文書にして関係者と共有する段階です。

2. 後継者はいるが、準備が追いついていない

実際にはこのパターンが多く見られます。後継者候補はいるものの、本人の意思が曖昧だったり、株式が分散していたり、決算の中身が承継に耐える状態になっていなかったりします。優先順位をつけて、時間のかかるもの(後継者の育成、株式の集約、保証の見直し)から着手します。

3. 後継者がいない

この場合も、選択肢は残っています。役員・従業員への承継、第三者へのM&A、そして廃業です。重要なのは、この3つを同じテーブルに並べて比べることです。廃業を選ぶ前に他の道を検討する余地があるかどうかは「廃業とM&Aはどちらを選ぶべきか」で整理しています。

診断のあとに何をするか|計画づくりへつなぐ

診断はゴールではなく、出発点です。現在地がわかったら、次は「いつ、誰に、何を渡すか」を年表の形に落とし込みます。これが事業承継計画です。作り方は「事業承継計画書の作り方」で詳しくご説明しています。

計画づくりに進む前に、もうひとつ確かめておきたいのが自社のおおよその価値です。株式を贈与するにしても、後継者に買い取ってもらうにしても、第三者に譲渡するにしても、金額の目安がなければ判断ができません。当社の企業価値算定シミュレーターで、まずは概算の水準を掴んでいただくこともできます。

また、診断の過程で出てきた論点は、ひとりで抱え込まないことをおすすめします。株式の評価と税務は税理士、遺留分や契約の問題は弁護士、借入と保証は金融機関というように、相談先はそれぞれ異なります。誰にどの順で相談するかの整理そのものが、診断の成果物のひとつです。

まとめ|現在地がわかれば、道は選べる

事業承継診断は、特別な手続きではありません。後継者、株式、財務、知的資産、時間という5つの領域について、思い込みではなく事実を確かめる。それだけの作業です。しかし、この作業を経ているかどうかで、その後の選択の質は大きく変わります。

診断をしないまま時間が過ぎると、選べたはずの道が順に閉じていきます。後継者の育成に必要な年数、株式を分けて贈与するのに必要な年数、決算を整えるのに必要な年数——いずれも、残された時間が短くなるほど選べなくなるものです。

当社プラチナパートナーズは、M&A仲介を本業としていますが、初回のご相談では「そもそも承継の現在地はどこか」を一緒に整理するところから始めます。M&Aありきでご提案することはありません。事業承継をお考えの方へのご案内もあわせてご覧ください。

よくあるご質問

A.商工会議所・商工会、金融機関、顧問税理士、事業承継・引継ぎ支援センターなど、複数の窓口で簡易な診断を受けられることが一般的です。無料のチェックシートで大枠を掴んだうえで、具体的な株式評価や税務の検討は税理士に、契約や遺留分の問題は弁護士にご相談いただくとよいでしょう。当社でも、承継の選択肢を並べて整理するご相談を無料で承っています。
A.後継者不在でも、選択肢は残っています。役員・従業員への承継(MBO・EBO)、M&Aによる第三者への承継、そして廃業です。この3つを同じ土俵に並べて、従業員の雇用、取引先への影響、オーナー様の手取り、必要な時間といった軸で比較することをおすすめします。廃業を先に決めてしまう前に、他の道の可能性を確かめておく価値は十分にあります。
A.年齢よりも、承継までに使える時間で考えるのが実務的です。後継者の育成には数年単位、株式の計画的な移転や決算の整備にも数年を要することが一般的です。60代に入られた段階では、遅くとも一度は現在地を確かめておきたいところです。もっとも、経営者の健康は年齢と無関係に変わり得るため、40代・50代でのご相談も決して早すぎることはありません。
本稿の税務・法務に関する記載は2026年9月時点の制度に基づく一般的な解説です。税務の具体的な適用は税理士に、法務の判断は弁護士にご確認ください。

Free Consultation

自社の現在地を、一度整理してみませんか。

後継者・株式・保証の状況をお伺いし、取り得る選択肢を並べてご説明します。
メール(info@platinumpartners.jp)でも承ります。

無料相談を申し込む

Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら