創業から数十年が経ち、相続が二度、三度と重なると、自社株はいとこや遠縁の親族にまで広がっていきます。日常の経営では表面化しませんが、M&Aを検討する段になると、全員から株式を集めなければならないという現実に直面します。集約の方法にはいくつかの選択肢があり、それぞれ課税される人も税目も異なります。本稿では、代表的な三つの方法の課税関係を比べながら、進め方を整理します。

分散した株式を放置するとどうなるか

株式が分散したまま時間が経つと、問題は大きくなる一方です。相続のたびに株主の数は増え、面識のない方が株主名簿に並びます。連絡先が分からない、そもそも本人がご自身が株主であることを知らない、というケースもあります。

M&Aの場面では、買い手は原則として全株式(少なくとも支配権を確実にできる割合)の取得を求めます。株主の一部から同意が得られない状態では、買い手は「後から権利を主張されるかもしれない」と考え、価格の減額や補償条件の強化を求めるか、取引自体を見送ります。分散のリスクは「株式が分散している会社のM&A」で整理しています。

したがって、集約は「できれば」ではなく「先に片づけておくべきこと」です。そして関係者が増える前ほど進めやすいため、着手は早いに越したことはありません。

方法(1)|オーナー個人・後継者が買い取る

最もシンプルなのは、オーナー様やご後継者が個人として、分散株主から株式を買い取る方法です。売った少数株主には株式の譲渡益に対する課税(20.315%の申告分離課税)が生じ、買い手であるオーナー様側には資金負担が生じます。

この方法の利点は、手続きが比較的わかりやすいことです。譲渡制限株式であれば会社の承認手続きを経る必要はありますが、会社の財務には影響しません。

難点は資金です。株主数が多い会社では、集約に必要な金額が大きくなり、個人で用意するのが難しいことがあります。また、価額の設定にも注意が必要で、時価から大きく離れた低い価額での取引は、差額について贈与などの課税上の評価を招く可能性があります。

方法(2)|会社が自己株式として買い取る

会社が自らの株式を買い取る方法です。会社の資金を使えるため、個人の資金負担を避けられる点が実務上の利点になります。

ただし、課税関係が大きく変わります。個人株主が会社に株式を売却した場合、受け取った金額のうち資本金等の額に対応する部分を超える部分は、みなし配当として扱われ、配当所得として総合課税の対象になります。株式の譲渡として20.315%で課税されるわけではないという点が最大の違いです。仕組みは「みなし配当とは」と「自己株式の取得と株式譲渡」で詳しく解説しています。

また、会社法上の財源規制(分配可能額の範囲内でしか取得できない)や、株主平等の観点からの手続き(特定の株主からの取得には、他の株主が自分も売りたいと申し出る機会を与える手続きなど)にも注意が必要です。手続きを誤ると、取得そのものの効力が問題になります。

なお、相続によって取得した非上場株式を、一定の期間内に発行会社に譲渡した場合には、みなし配当としない特例が設けられています。適用には期限と要件がありますので、相続が起きている場合は「相続直後に会社を売る場合の税務」もあわせてご確認ください。

本稿は一般的な税制の仕組みのご紹介であり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。実際の適用可否や税額は、会社の状況や取引の内容によって異なります。必ず税理士等の専門家にご確認ください。

方法(3)|後継者の資産管理会社が買い取る

後継者が設立した資産管理会社(持株会社)が、分散株主から株式を買い取る方法もあります。法人が金融機関から資金を借り入れ、事業会社からの配当を返済原資に充てるという設計がとられることがあります。

この場合、売却した個人株主には株式の譲渡益課税が生じます。買い手である法人側では、取得した株式は資産として計上され、借入金の利息は原則として損金となります。法人が受け取る配当には受取配当等の益金不算入の仕組みがあるため、返済原資を確保しやすいという整理です。

一方で、持株会社を作ること自体が将来の選択肢に影響します。将来M&Aを行う際、株主が法人であれば譲渡益は法人税等の対象となり、その後に個人が資金を受け取る段階でさらに課税されるため、個人が直接保有している場合とは手取りの構造が変わります。詳しくは「持株会社がある場合の売却と税務」をご覧ください。

三つの方法の比較と、進め方

ここまでを整理します。

方法資金の出どころ売る少数株主の課税
個人が買い取るオーナー・後継者個人株式譲渡益課税(20.315%)
会社が買い取る会社(分配可能額の範囲内)原則としてみなし配当(総合課税)が生じる
資産管理会社が買い取る法人(借入を含む)株式譲渡益課税(20.315%)

注目していただきたいのは、売る側の課税が方法によって変わる点です。少数株主にとっては、同じ金額を受け取っても手取りが変わりますので、交渉の際にはこの点を含めて説明する必要があります。「会社に売ると税金が重くなる」と後から分かると、話がこじれます。

進め方としては、まず株主名簿と法人税申告書別表二の突き合わせ、譲渡制限の確認、連絡先の把握から始めます。そのうえで、価額の考え方を専門家と固め、順に交渉していきます。名義株が疑われる場合は、先に事実関係の確認が必要です。

時間はかかりますが、集約が済んでいる会社は買い手から見て安心感が違います。結果として、交渉を有利に進める土台にもなります。

まとめ|方法によって「誰に、どの税金がかかるか」が変わる

要点を整理します。

  • 分散した株式は放置するほど関係者が増える。M&Aの前提として早めの集約が必要
  • 個人が買い取る場合、売る株主には20.315%の譲渡益課税。買う側に資金負担
  • 会社が自己株式として買い取る場合、売る株主にはみなし配当(総合課税)が生じるのが原則。財源規制と手続きにも注意
  • 資産管理会社が買い取る場合、将来のM&Aでの手取りの構造が変わる
  • 時価から離れた価額での取引は、差額について課税上の評価を招く可能性がある

当社プラチナパートナーズは、株式の集約を含む準備段階からご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。どの方法が適しているかは株主の構成と資金の状況によりますので、まずは現状を伺うところから始めさせてください。

よくあるご質問

A.売る株主の税負担が変わります。会社が買い取る場合は原則としてみなし配当となり総合課税の対象になるのに対し、個人や法人が買い取る場合は20.315%の譲渡益課税です。会社が買い取る方法は資金面で楽ですが、財源規制と手続きの制約もありますので、専門家と比較検討してください。
A.所在の調査から始める必要があり、相続が発生していれば相続人の確認も要します。会社法上の手続きを用いる方法もありますが、要件が厳格ですので弁護士にご相談ください。時間がかかるため、M&Aを検討し始めた時点で着手することが重要です。
A.当事者の関係性や株主の立場によって参照すべき考え方が変わり、時価から大きく離れた価額では差額について課税上の評価を招く可能性があります。価額の設定は必ず税理士等の専門家にご確認ください。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら