会社売却の話題は「いくらで売れて、いくら税金がかかるか」に集まりがちですが、実際には譲渡損が生じる取引もあります。取得費より低い価格で売る場合、赤字が続いて純資産が目減りしている場合、株式を高値で買い集めた経緯がある場合などです。
このとき気になるのが、「その損は他の所得と相殺できるのか」という点です。結論から言えば、個人株主か法人株主かで扱いが大きく異なります。本稿では、その違いと、損失が見込まれる場合に事前に整理しておきたいことを解説します。
会社を売って「損が出る」とはどういう状況か
株式の譲渡損益は、「譲渡価格 −(取得費 + 譲渡費用)」で計算します。したがって、取得費が譲渡価格を上回れば損失になります。実務で見られるのは、たとえば次のような場面です。
- 過去に他の株主から高値で買い集めた:相続や争いの解決のために、当時の評価額で買い取った株式を、後に低い価格で譲渡するケース。
- 増資で多額を払い込んだ:事業拡大のために払い込んだ資本が、その後の業績で回収できていないケース。
- 持株会社が子会社株式を売却する:グループ再編の一環として、簿価を下回る価格で譲渡するケース。
- 債務超過に近い会社を譲渡する:譲渡価格が名目的な金額にとどまるケース(「債務超過の会社は売れるのか」)。
いずれの場合も、「損が出たのだから税金は関係ない」と考えるのは早計です。損失をどう扱えるかは立場によって違い、扱えるかどうかで実質的な負担が変わります。
個人株主の場合|通算できる相手は限られる
個人が保有する株式は、税制上「上場株式等」と「一般株式等」の二つのグループに分けて計算されます。非上場会社の株式は、原則として一般株式等のグループに入ります。
そして、一般株式等の譲渡損は、同じ一般株式等のグループの中で生じた譲渡益と相殺するのが原則です。つまり、同じ年に別の非上場株式を譲渡して利益が出ていれば、その利益と相殺して課税対象を圧縮できる可能性があります。
一方で、上場株式等のグループとはグループが違うため、たとえば上場株式の売却益や上場株式の配当と相殺することは、原則としてできません。ここは誤解が生じやすいところです。「証券口座で利益が出ているから、非上場株式の損とぶつけられるはず」と考えてしまうと、想定が狂います。
また、上場株式等については損失を翌年以降に繰り越す仕組みが設けられていますが、一般株式等には同様の繰越の仕組みがありません。相殺できるのは、原則としてその年のうちに生じた一般株式等の譲渡益までということになります。
給与・不動産所得とは損益通算できない
もうひとつよくあるご質問が、「会社を売って出た損を、役員報酬(給与所得)や賃貸物件の所得と相殺できないか」というものです。株式等の譲渡所得は申告分離課税の対象で、原則として給与所得・不動産所得・事業所得などとの損益通算はできません。
つまり、譲渡損が出ても、その年の給与にかかる税金が減るわけではありません。「損が出たから確定申告すれば還付がある」といった期待は、非上場株式では成り立たないのが通常です。
なお、株式を譲渡した年には申告が必要になる場合があります。損失が出た場合の申告の要否も含め、手続きの基本は「株式売却後の確定申告」をご参照ください。実際の申告の要否・方法は必ず税理士にご確認ください。
法人株主の場合|他の所得と通算でき、繰越の仕組みもある
株主が法人である場合は、構造がまったく違います。法人税の計算では、株式の譲渡損益も他の損益と合わせてその事業年度の所得を計算します。したがって、譲渡損は本業の利益と相殺され、その分だけ課税所得が減るのが原則です。
さらに、その事業年度で相殺しきれなかった赤字は、繰越欠損金として一定期間にわたり翌期以降の所得と相殺できる仕組みがあります(控除できる金額には会社の規模等に応じた制限が設けられています)。個人株主のように「その年のうちの同じグループの利益まで」という制約はありません。
この違いは、持株会社を挟んでいる会社グループの再編で意味を持ちます。どの法人が株式を保有しているかによって、譲渡損の使い道が変わるためです。グループ内での株式の移動には別の税務上の論点も伴いますので、具体的な設計は必ず税理士にご確認ください(「法人が株主の会社を売るとき」)。
損失が見込まれるときに整理しておきたいこと
譲渡損が見込まれる場合、事前に確認しておくと判断が早くなる点を挙げます。
- 取得費を裏付ける資料:損失を主張するには、いくらで取得したかを示す資料が必要です。買い集めや増資の記録、払込を示す資料が残っているかを確認します。資料がなければ概算取得費(譲渡価格の5%)が用いられ、かえって利益が出る計算になることもあります。
- 同じ年に他の譲渡があるか:個人株主の場合、相殺できる相手は同じ年の一般株式等の譲渡益に限られるのが原則です。複数の会社や株式を整理する予定があるなら、実行時期の並べ方が結果に影響し得ます。
- 株主が個人か法人か:同じ会社を売るのでも、保有主体によって損失の使い道が変わります。すでに持株会社がある場合は、その構造を踏まえた確認が必要です。
- 価格の妥当性を説明できるか:著しく低い価格での譲渡は、当事者の関係によっては別の課税関係(贈与・寄附金など)が問題になる余地があります。第三者との交渉で決まった価格であることを示せる状態にしておくことが大切です。
- スキームの選択:株式譲渡か事業譲渡かで、損益が生じる主体が変わります(「株式譲渡と事業譲渡の税金の違い」)。
まとめ|「損だから税金の話は関係ない」ではない
譲渡損が出る取引でも、税務の確認は必要です。個人株主の場合、非上場株式の譲渡損は同じ一般株式等の譲渡益との相殺が原則で、給与などとの損益通算や翌年以降への繰越は想定されていません。法人株主であれば、他の損益と通算され、繰越の仕組みも使えます。
損失の扱いは、株主の属性・その年の他の取引・取得費の資料といった具体的な事情に左右されます。具体的な適用は必ず税理士にご確認ください。当社では、価格の見通しの整理から、想定される税務論点の洗い出し、専門家との連携までお手伝いしています。業績が厳しい状況でのご相談も承っていますので、お気軽にお声がけください。