「うちと同じくらいの利益の会社なのに、自社株の評価額がまるで違う」——事業承継の相談では、こうした戸惑いをよく伺います。原因の多くは、業績の差ではなく会社の規模区分にあります。非上場株式の相続税評価は、いきなり金額を計算するのではなく、まず「その会社がどの規模に当たるか」を判定し、それによって使える評価方式の組み合わせが決まる構造になっているからです。
この仕組みを知らないまま評価額だけを見ると、対策の方向を誤ります。本稿では、規模区分がどう決まり、評価にどう効いてくるのかを、経営者の視点から整理します。
評価は「いくらの会社か」より先に「どの規模か」から始まる
非上場株式の相続税評価には、大きく二つの考え方があります。ひとつは、事業内容が似た上場会社の株価をもとに、配当・利益・純資産を比べて評価する類似業種比準方式。もうひとつは、会社の資産と負債をそれぞれ評価し直し、正味の財産価値から評価する純資産価額方式です。二つの基本的な違いは「非上場株式の相続税評価|類似業種比準方式と純資産価額方式の基本」で解説しています。
実務で重要なのは、この二つをどちらか好きに選べるわけではないという点です。会社の規模区分に応じて、類似業種比準方式をどこまで使えるかが決まり、残りは純資産価額方式で補う——という組み立てになっています。つまり、規模区分は「評価額の入口」ではなく「評価の設計図」に当たります。
同業・同規模に見える二社で評価額が大きく違うとき、原因が業績ではなく規模区分の違いにあることは珍しくありません。まず自社がどこに位置づけられているかを知ることが、対策を考える前提になります。
規模を決める三つのものさし
会社規模の判定には、次の三つの要素が使われます。
- 従業員数:役員を除く人数が基本で、パート・アルバイトの取り扱いにも決まりがあります。
- 総資産価額:貸借対照表の資産合計をもとにした金額です。
- 取引金額:おおむね年間の売上高に当たるものです。
そして、これらの基準となる数値は業種(卸売業・小売業およびサービス業・それ以外)ごとに別々に定められています。同じ従業員数・同じ売上でも、業種が違えば区分が変わり得るということです。具体的な基準値は制度で細かく決められており、また改正もあり得ますので、自社がどの区分に当たるかは顧問税理士にご確認ください。
経営者として押さえておきたいのは、三つのうちどれか一つが動くだけでも区分が変わり得るという感覚です。人員を増やした、設備投資で総資産が膨らんだ、大口案件で一時的に売上が跳ねた——こうした事情が、意図しないところで評価の前提を動かしていることがあります。
規模が変わると、評価はどう動くのか
一般的な傾向として、規模が大きいと判定される会社ほど、類似業種比準方式を使える割合が大きくなります。逆に小さい区分になるほど、純資産価額方式の比重が高まります。
これが効いてくるのは、含み益や内部留保が厚い会社です。長年黒字を重ね、不動産や有価証券に含み益を抱えている会社では、純資産価額方式で計算した金額のほうが高く出ることが多く、その場合は類似業種比準方式を使える割合が大きいほど評価額は下がります。土地の含み益については「不動産を含む会社を売るときの税務|土地の含み益の扱い」もあわせてご覧ください。
ただし、これは「規模が大きければ必ず評価が下がる」という話ではありません。配当・利益が乏しい会社では、類似業種比準方式で計算した金額のほうが低いとは限らず、どちらが高く出るかは会社ごとに異なります。方向を決めつけず、両方式でいくらになるのかを実際に計算してもらうことが出発点です。
「規模を動かして評価を下げる」という発想の危うさ
仕組みを知ると、「では区分が変わるように調整すればよいのでは」と考えたくなります。しかし、ここには二つの落とし穴があります。
ひとつは実態が伴わない操作は認められないことがあるという点です。評価の時期に合わせて形だけ人員や資産を動かすような対応は、税務上そのまま受け入れられるとは限りません。行うのであれば、事業上の必要性が説明できることが前提です。
もうひとつは、評価対策が本業を歪めるおそれです。総資産を圧縮するために必要な設備投資を止める、人員を抑えるといった判断は、短期的に評価額を下げても、会社の稼ぐ力を落とします。稼ぐ力が落ちれば、いざ第三者へ譲渡しようとしたときの譲渡価格にも響きます。相続税の評価だけを見て会社の形を変えるのは、順序が逆になりやすいのです。
当社は税務判断を行う立場ではありませんが、承継の出口をどう設計するかという相談は数多くいただきます。評価対策と事業の継続性を切り離さずに考えることをお勧めしています。
相続税評価額と、M&Aの譲渡価格は別のもの
最後に、混同しやすい点を整理します。相続税評価額は、課税のために定められた計算ルールに従って算出される金額です。一方、M&Aの譲渡価格は、買い手が「その会社を買っていくら回収できるか」を見て提示する、交渉で決まる金額です。両者は計算の目的も方法も違うため、一致しません。
| 相続税評価額 | M&Aの譲渡価格 | |
|---|---|---|
| 目的 | 課税価格の算定 | 当事者間の売買条件の決定 |
| 決め方 | 定められた算式に当てはめる | 収益力・将来性をもとに交渉する |
| 主に見るもの | 配当・利益・純資産、会社規模 | 営業利益の水準、取引先・人材、事業の継続性 |
「評価額が高くて相続税が払えない」という悩みに対し、第三者への譲渡が解になることがあるのは、株式という換金しにくい資産が現金に変わるからです。この論点は「自社株の評価が高すぎる|相続税の不安とM&Aという選択肢」で詳しく扱っています。
まとめ|まず自社の位置を知り、そのうえで出口を考える
非上場株式の相続税評価は、会社規模の判定から始まります。従業員数・総資産価額・取引金額という三つのものさしと業種によって区分が決まり、類似業種比準方式をどこまで使えるかが変わります。同じような会社でも評価額が違って見えるのは、多くの場合ここに理由があります。
経営者としてできることは、①自社がどの区分に当たるのかを顧問税理士に確認する、②両方式で評価額を試算してもらう、③そのうえで、承継を親族内で行うのか第三者へ譲るのかという出口の議論につなげる——この順序を守ることです。評価の数字だけを追って本業の形を変えると、かえって選択肢が狭まります。
当社では、税理士等の専門家と連携しながら、承継の選択肢を整理するところからお手伝いしています。「売ると決めたわけではないが、株の評価が気になる」という段階のご相談で構いません。具体的な税務の取り扱いは必ず顧問税理士にご確認ください。