自社株の評価を税理士に依頼したところ、「この会社は特定の評価会社に当たるので、原則として純資産価額方式になります」と言われた——こうしたご相談をいただくことがあります。評価方式の選択肢が狭まるため、含み益を抱えた会社ほど評価額が高く出やすくなるのがこの取り扱いの特徴です。
該当しやすいのは、特殊な会社ではありません。子会社を束ねる持株会社、賃貸不動産を多く持つ会社、本業を縮小して資産だけが残った会社——いずれも中小企業でよく見る形です。本稿では、どんな会社が該当しやすいのか、何を見れば気づけるのかを整理します。
「特定の評価会社」とは何か
非上場株式の相続税評価では、原則として会社規模に応じて類似業種比準方式と純資産価額方式を組み合わせます。この考え方は「自社株評価の「会社規模」|同じ会社でも評価方式が変わる理由」で整理しました。
ところが、会社の資産の中身が特定のものに偏っている場合には、この原則が使えなくなります。類似業種比準方式は「事業内容の似た上場会社と比べる」方式ですから、実質的に株式や土地を保有しているだけの会社に当てはめても、実態を表さないためです。そこで、一定の要件に当たる会社は「特定の評価会社」として、原則的に純資産価額方式で評価する取り扱いになっています。
代表的なのが、総資産に占める株式等の割合が高い株式保有特定会社と、土地等の割合が高い土地保有特定会社です。ほかにも、開業後の年数が短い会社や、休業中の会社など、いくつかの類型があります。どの割合でどう判定するかは制度で定められていますので、当てはめは顧問税理士にご確認ください。
該当しやすいのは、こういう会社
実務で「知らないうちに該当していた」となりやすいのは、次のような会社です。
- 持株会社化した会社:承継対策や組織再編で親会社をつくった結果、親会社の資産のほとんどが子会社株式になっているケース。持株会社がある場合の売却は「持株会社がある場合の売却と税務|法人株主と個人株主の違い」もご覧ください。
- 賃貸不動産を多く持つ会社:本業とは別に、社屋や倉庫、賃貸用の土地建物を抱えている会社。
- 本業を縮小して資産が残った会社:事業を整理・譲渡した結果、手元に現預金・有価証券・不動産だけが残っている会社。
- 余剰資金を有価証券で運用している会社:長年の内部留保を株式等で保有しているケース。
いずれも、経営判断としては自然な形です。問題は、その判断が自社株の評価方法まで変えてしまうことに、気づきにくいことにあります。組織再編を行った年度や、大きな資産の入れ替えをした年度は、特に確認が必要です。
純資産価額方式に寄ると、何が起きるか
純資産価額方式は、会社の資産と負債を相続税評価額に洗い替え、正味の財産価値から株式を評価する考え方です。そのため、含み益がそのまま評価額に反映されやすいという性質があります。
長く保有してきた土地、値上がりした有価証券、簿価の小さい古い建物——こうした資産を抱える会社では、帳簿上の純資産よりも評価額が大きくなることがあります。類似業種比準方式を併用できていた頃と比べ、評価額が跳ね上がって見えるのはこのためです。
経営者から見て厄介なのは、評価額は上がるのに、株式そのものは換金できないという点です。納税資金は現金で必要になりますが、非上場株式は市場で売れません。自社株が高く評価されるほど、相続時の資金繰りが重くなる構造については「自社株の評価が高すぎる|相続税の不安とM&Aという選択肢」で扱っています。
気づくために、決算書のどこを見るか
正確な判定は専門家の領域ですが、兆候に気づくことは経営者にもできます。手元の決算書で、次の点を確認してみてください。
| 見るところ | 確認する内容 |
|---|---|
| 貸借対照表の資産構成 | 総資産のうち、投資有価証券・関係会社株式が大きな割合を占めていないか |
| 土地・建物の残高 | 事業に使っていない不動産、賃貸用の不動産が積み上がっていないか |
| 直近の組織再編 | 持株会社の設立、会社分割、子会社の設立で資産構成が変わっていないか |
| 本業の売上規模 | 資産の大きさに比べて、本業の売上・利益が小さくなっていないか |
ひとつ注意したいのは、判定は帳簿価額ではなく相続税評価額をもとに行われるという点です。含み益の大きい土地を持つ会社では、簿価で見て「そこまでの割合ではない」と思っていても、評価替えすると割合が変わることがあります。決算書だけを見て自己判断せず、試算を依頼してください。
該当していたときに、何を考えるか
該当すると分かった場合、取り得る方向はおおむね三つです。いずれも一長一短があり、税務と経営の両面から検討する必要があります。
- 資産構成を見直す:事業に使っていない資産を整理する、本業の比重を戻す、といった方向です。ただし、形だけ一時的に割合を動かすような対応は税務上そのまま認められるとは限らず、事業上の説明がつくことが前提になります。
- 承継の方法を組み替える:生前贈与や種類株式の活用など、株式の移し方を設計し直す方向です。「自社株を生前贈与するか、譲渡するか|税負担と承継の視点で比べる」もご参照ください。
- 第三者への譲渡を選択肢に入れる:後継者がいない、納税資金の見通しが立たないという場合、M&Aによって株式を現金に換えるという出口があります。評価額の悩みが、そのまま資金の問題として解けることがあります。
どれが適切かは、後継者の有無、家族の状況、会社の収益力によって変わります。税務の適用関係は顧問税理士に、譲渡という選択肢の現実味については当社のような仲介にお尋ねいただくのが、両輪で検討する形になります。
まとめ|資産の中身が、評価の方法を決めている
株式保有特定会社・土地保有特定会社に当たると、相続税評価は原則として純資産価額方式になり、含み益が評価額に表れやすくなります。該当しやすいのは、持株会社、不動産の多い会社、本業を縮小して資産だけが残った会社など、中小企業でごく普通に見られる形です。
大切なのは、組織再編や資産の入れ替えを行った時点で、自社株の評価方法が変わっていないかを確認する習慣を持つことです。相続が起きてから気づくと、打てる手が限られます。
当社では、税理士等の専門家と連携しながら、承継の選択肢を整理するご相談をお受けしています。判定や試算そのものは顧問税理士の領域ですが、「評価が重いと分かったあと、どうするか」の部分はお手伝いできます。ご相談は無料、秘密は厳守いたします。