後継者が決まっている会社では、「自社株をいつ、どうやって渡すか」が承継の中心的な論点になります。方法は大きく分けて、生前に贈与する、有償で譲渡する、相続で移す、の三つです。どれを選ぶかによって、誰がいくら負担するのか、いつ株価が固定されるのか、将来の相続でどう扱われるのかが変わります。本稿では、生前贈与と譲渡を中心に、比較の軸を整理します。あわせて、後継者がいない場合の選択肢としてのM&Aにも触れます。

三つの渡し方と、それぞれの課税の入り口

自社株を後継者に渡す方法と、課税される人・税目の関係を、まず大づかみに整理します。

方法対価主に課税される人と税目
生前贈与なし受け取った後継者に贈与税
有償の譲渡あり渡した側に株式譲渡益課税(20.315%)
相続なし相続人に相続税

この表から分かるのは、贈与と相続では「受け取る側」に、有償の譲渡では「渡す側」に負担が生じるという違いです。誰が資金を用意しなければならないかが変わるため、後継者の資力は現実的な制約になります。

また、いずれの方法でも前提となるのが、非上場株式の評価額です。評価の考え方は「非上場株式の相続税評価」で解説していますが、業績が良く内部留保が厚い会社ほど評価が高くなり、承継の負担も重くなります。「会社は元気なのに、株が渡せない」という状況が生まれるのはこのためです。

生前贈与の特徴|株価を今の水準で固定する

生前贈与の最大の意味は、承継のタイミングを自分で選べることです。株価は業績や資産の状況で動きますので、評価が低い局面で渡せば、承継にかかる負担を抑えられる可能性があります。逆に、渡さないまま業績が伸びていくと、株価はさらに上がり、将来の相続税の負担が重くなります。

贈与税の課税方法には、毎年の贈与に対して課税する暦年課税と、一定額まで贈与時の課税を繰り延べて相続時に精算する相続時精算課税があります。どちらを選ぶかによって、その後の贈与や相続での取扱いが変わり、いったん選択すると変更できない部分もあります。制度の選択は、贈与を実行する前に税理士の先生と十分に検討してください。

さらに、一定の要件を満たせば、事業承継税制(特例措置)によって贈与税・相続税の納税が猶予される場合があります。特例措置には期限があり、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、適用期限は2027年12月31日とされています。制度の内容は「事業承継税制(特例措置)とは」をご覧ください。

ただし事業承継税制は、猶予であって免除ではありません。要件を満たせなくなると猶予が打ち切られ、利子税とともに納付が必要になります。将来M&Aを選ぶ可能性がある場合は特に慎重な検討が必要で、この点は「事業承継税制を使ったあとにM&Aしたら」で詳しく整理しています。

本稿は一般的な税制の仕組みのご紹介であり、特定の取引に関する税務アドバイスではありません。実際の適用可否や税額は、会社の状況や取引の内容によって異なります。必ず税理士等の専門家にご確認ください。

有償で譲渡する場合の特徴

後継者に有償で買い取ってもらう方法は、渡す側に譲渡代金が入り、後継者は「自分で買った株式」として取得できるという分かりやすさがあります。渡す側には株式譲渡益課税(20.315%の申告分離課税)が生じ、受け取った代金は将来の相続財産になります。

現実の壁は、後継者の資金です。非上場株式の評価が数千万円から億単位になることも珍しくなく、後継者個人がその資金を用意できないケースは多くあります。金融機関からの借入で対応する例もありますが、返済原資は役員報酬や配当となり、後継者の生活設計に長く影響します。金融機関との関係については「事業承継と金融機関」も参考になります。

また、価額の設定にも注意が必要です。親族間の取引だからといって、時価から大きく離れた低い価額で譲渡すると、その差額について贈与として評価される可能性があります。「有償にしたから贈与税は関係ない」とはならない点に注意してください。

比較の軸|資金・時期・将来の相続

どの方法を選ぶかは、税負担の多寡だけでは決まりません。実務では次の軸で比べていくことになります。

  • 資金負担:誰が、いつ、いくら用意する必要があるか。後継者に資力があるか
  • 時期の選択:株価が低い局面を選べるか。逆に、渡さずに待つと評価が上がる見込みか
  • 経営権の移転:議決権をいつ移すか。渡した後もオーナー様が関与を続けるのか
  • 他の相続人とのバランス:自社株を一人に集中させた場合、他のご家族の取り分をどう手当てするか
  • 将来の柔軟性:事業承継税制を使うと、その後の選択肢が制約される面がある

特に見落とされやすいのが、他の相続人とのバランスです。自社株が財産の大半を占める場合、後継者に集中させると他の相続人の取り分が乏しくなり、遺留分をめぐる争いにつながることがあります。この点は「遺留分と自社株」で整理していますので、あわせてご確認ください。

株価を下げる工夫についても触れておきます。役員退職金の支給や不動産の取得など、評価に影響する施策は知られていますが、事業の実態を伴わない対策は税務上も経営上も望ましくありません。考え方は「自社株の株価対策」をご参照ください。

後継者がいない場合|M&Aという第三の道

ここまでは後継者がいる前提でしたが、実際にはご子息・ご息女が別の道を選ばれ、社内にも適任者が見当たらないというご相談が増えています。帝国データバンクの2025年の調査では、後継者不在率は50.1%とされています。

後継者が不在のまま株価だけが上がっていくと、いずれ相続が起き、事業を継がない相続人が高い評価の株式と納税義務だけを引き継ぐことになります。換金性の乏しい非上場株式に対して現金で相続税を納める必要が生じるため、納税資金の確保が深刻な問題になります。この構図は「自社株の評価が高すぎる」で詳しく述べています。

M&Aによる第三者への承継は、この局面で現実的な選択肢になります。株式を現金化することで、相続財産は分けやすい形になり、納税資金の問題も解消します。従業員の雇用や取引先との関係を引き継いでもらえる点も、廃業とは大きく異なります。

なお、2025年のM&A件数は5,000件を超え、2年連続で過去最多となったとされています(レコフデータ)。第三者への承継は、もはや例外的な選択ではありません。

まとめ|「いくら払うか」より「どう渡すか」から考える

本稿の要点を整理します。

  • 贈与・相続は受け取る側に、有償の譲渡は渡す側に負担が生じる。誰が資金を用意できるかが現実的な制約になる
  • 生前贈与は承継の時期を選べる点が利点。課税方法の選択は後から変えられない部分があるため慎重に
  • 事業承継税制は猶予であって免除ではなく、その後の選択肢に制約が生じる。特例措置には2027年の期限がある
  • 有償の譲渡でも、時価から離れた低い価額では贈与として評価される可能性がある
  • 後継者が不在なら、M&Aによる第三者承継が現実的な選択肢になる

当社プラチナパートナーズは、親族内承継とM&Aを並べて検討する段階からのご相談を承っています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。「まだ決めていない」という状態こそ、選択肢を比べておく価値があります。お気軽にお声がけください。

よくあるご質問

A.一概には言えません。贈与は受け取る側に贈与税、有償の譲渡は渡す側に20.315%の譲渡益課税が生じ、負担する人が変わります。後継者の資力、現在の株価水準、将来の相続財産の構成によって結論が変わりますので、必ず試算のうえ税理士の先生にご確認ください。
A.時価から大きく離れた低い価額で譲渡すると、その差額について贈与として評価される可能性があります。有償にすれば贈与税の問題が生じないわけではありません。価額の設定は必ず専門家にご確認ください。
A.何もしなければ相続の対象となり、事業を継がない相続人が換金しにくい株式と納税義務を引き継ぐことになります。第三者へのM&Aで現金化しておけば、相続財産は分けやすくなり、納税資金の問題も解消します。判断には時間がかかりますので、早めに選択肢を並べておくことをおすすめします。

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相談料・着手金・月額報酬は0円。基本合意時の中間金と成功報酬については料金体系をご覧ください。売ると決めていない段階からのご相談も承っています。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら