会社を譲渡した年は、納税の流れが普段と変わります。譲渡の代金が入ってから納税までに時間があり、しかも翌年にもう一度納める場面が出てくることがあります。
この二段の仕組みを知らずに代金を使ってしまい、納税の時期に資金が足りなくなる例があります。本稿では流れを整理します。金額の計算は税理士にご確認ください。
譲渡した年の申告は、翌年に行う
株式を譲渡して利益が出た場合、その申告は翌年に行います。年の途中で代金が入っても、納税はすぐには来ません。
この間が長いことが、資金の管理を難しくします。代金が入ってから納税までに、設備を買う、借入を返す、家族に渡す——使う機会があります。
対策は単純で、納税の分を先に分けて置いておくことです。おおよその金額は譲渡の段階で試算できます。試算した額を別の口座に移しておけば、使ってしまうことがありません。
株式の譲渡益にかかる税の率は、所得税と復興特別所得税、住民税を合わせた水準が定められています。おおまかな目安は譲渡の前に出せますので、仲介者と税理士に確かめてください。
予定納税という仕組み
前の年の所得が一定の水準を超えていると、その年の途中で税金の一部を前払いする仕組みがあります。これが予定納税です。
前払いの額は、前の年の実績から計算されます。つまり、譲渡した年の翌年には、譲渡所得が含まれた前年の実績をもとに前払いを求められることがあります。
ここが分かりにくいところです。譲渡は一度しかないのに、翌年も同じくらいの所得があるものとして前払いを求められる形になります。
前払いした分は、翌年の申告で精算されます。払いすぎていれば戻ってきます。ただし戻るまでに時間がかかるため、その間は資金が出たままになります。
前払いの通知は書面で届きます。届いたときに驚かないよう、譲渡の段階で「翌年に通知が来る可能性がある」ことを知っておいてください。通知には納める期限が書かれています。
減額を申請できる場合がある
翌年の所得が前年より大きく減る見込みであれば、前払いの額を減らすよう申請する仕組みがあります。
譲渡は一度の出来事なので、翌年の所得は通常の水準に戻ります。この場合、申請が認められる余地があります。
申請には期限があり、見込みを示す資料が必要です。期限を過ぎると、その回の前払いは減らせません。譲渡した年の申告をするときに、翌年の前払いの話まで税理士と確かめておくとよいでしょう。
申請の要否と手続きは個別の状況によります。顧問税理士がいる場合は、譲渡の予定を早めに伝えておいてください。
なお、減額が認められても、全額がなくなるわけではありません。翌年の見込みの所得に応じた額になります。役員を退いて報酬がなくなる方であれば、見込みは小さくなります。引き続き別の会社で報酬を受け取る方であれば、その分は残ります。
住民税と社会保険料にも及ぶ
譲渡した年の所得は、所得税だけでなく住民税の計算にも使われます。住民税は翌年に納めるため、ここでも時期がずれます。
さらに、国民健康保険に加入している場合、保険料も前年の所得をもとに決まります。譲渡した年の所得が大きければ、翌年の保険料が上がることがあります。
役員を退いて国民健康保険に移る方の場合、この影響が出やすくなります。会社の社会保険から外れる時期と、保険料が上がる時期が重なることがあります。
金額は自治体や加入している制度によって変わるため、具体的な額は加入先に確かめる必要があります。
介護保険料や後期高齢者医療の保険料も、同じように前年の所得をもとに決まります。年齢によって加入する制度が変わるため、どの制度の保険料がいつ上がるのかは、加入先の窓口で確かめておくと安心です。
いつ、いくら分けておくか
実務的な目安として、譲渡の代金が入った時点で次の分を分けておくことをおすすめします。
第一に、譲渡益にかかる所得税と住民税の分。これがいちばん大きくなります。
第二に、翌年の予定納税の分。減額の申請が通れば戻しますが、通らなかったときに困らないように置いておきます。
第三に、翌年の国民健康保険料が上がる分。所得が大きい年の翌年は負担が増えます。
これらを合わせた額は、譲渡の段階で試算できます。試算を見て「思っていたより残らない」と感じる方は少なくありません。だからこそ、譲渡を決める前に試算しておく価値があります。
分けておく口座は、普段使っている口座とは別にすることをおすすめします。同じ口座に入れておくと、残高を見たときに使える金額だと感じてしまいます。定期預金にしておけば、引き出す手間が一段増えるので、うっかり使うことを防げます。
譲渡の前に確かめておくこと
納税の流れは、譲渡の形によって変わります。株式の対価だけで受け取る場合と、役員退職金を組み合わせる場合で、負担が変わります。
また、譲渡の日をいつにするかで、所得が入る年が変わります。年末に近い時期の譲渡では、数日の差で申告する年が変わることがあります。
顧問税理士に、譲渡の予定と希望する時期を早めに伝えておいてください。日程を少し動かすだけで負担が変わる場合、交渉の材料になります。
当社では、譲渡の検討の段階で手元に残る金額のおおよその見通しをお伝えしています。正確な金額は税理士の計算によりますが、決める前に全体像を知っておくことが判断の助けになります。
なお、税務の扱いは制度の改正や個別の事情によって変わります。実際の申告にあたっては、必ず税理士にご確認ください。
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