譲渡代金を受け取った翌年、想定していなかった請求が届くことがあります。住民税と、国民健康保険に加入している場合の保険料です。あらかじめ計算しておくべき項目です。

住民税は翌年に来る

仕組みを整理します。所得税は譲渡した年に確定申告して納付しますが、住民税は翌年度に課税されます。

株式譲渡益に対する住民税は、申告分離課税で5%です(株式譲渡益課税20.315% = 所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 住民税5%)。

譲渡益が3億円なら、住民税は1,500万円。これが翌年度に請求されます。

使ってしまってから通知が来る——これが最も避けるべき事態です。受け取った時点で、納税分を分けておいてください。

特定口座の源泉徴収ありとの違い

整理しておくべき点です。上場株式を特定口座(源泉徴収あり)で売却した場合は、所得税と住民税が源泉徴収されます。

一方、非上場株式の譲渡は、原則として確定申告が必要です。源泉徴収されないため、所得税は申告時に、住民税は翌年度に納めることになります。

M&Aで自社株を譲渡する場合は、こちらに該当します。

「源泉で引かれているはず」という前提で考えないでください。納税資金は、自分で確保する必要があります。

国民健康保険料への影響

会社を離れて国民健康保険に加入する場合、注意が必要です。

国民健康保険料(税)は、前年の所得をもとに算定されます。そして、算定の基礎に、申告分離課税の譲渡所得が含まれるのが一般的な取り扱いです。

そのため、譲渡の翌年度の保険料が、上限額まで跳ね上がることがあります。

保険料には世帯ごとの上限が定められていますが、それでも年間で相応の金額になります。市区町村によって料率と上限が異なるため、お住まいの自治体にご確認ください。

介護保険料も上がる

65歳以上の方は、介護保険の第1号被保険者として保険料を負担します。

この保険料も、所得段階に応じて決まります。譲渡益によって所得段階が上がれば、保険料も上がります。

金額としては住民税や国保より小さいのですが、翌年度だけ跳ね上がる点は同じです。

また、医療費の自己負担割合にも影響し得ます。所得が一定以上になると、窓口負担の割合が変わります。これは高齢の方ほど生活に効きます。

退職のタイミングとの関係

実務的な論点です。会社を離れるタイミングで、健康保険の扱いが変わります。

選択肢は3つです。

① 任意継続被保険者になる。退職後一定期間内に申請することで、健康保険を継続できる制度があります。保険料は前年の所得ではなく、標準報酬月額に基づいて算定されます(上限があります)。

② 国民健康保険に加入する。前年の所得で算定されるため、譲渡益の影響を受けます。

③ 家族の被扶養者になる。収入の要件があります。

譲渡益が大きい年の翌年は、①のほうが有利になる場合があります。制度の詳細と期限は、加入していた健康保険組合等にご確認ください。

納税資金を先に分ける

実務として最も大事なことです。受け取った代金から、先に納税分を除けてください。

除ける金額の目安は、譲渡益の20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)。これに、国民健康保険料や介護保険料の増加分を加えます。

そして、この資金は別の口座に移して、動かさない。

譲渡の後は、住宅の購入、子への贈与、投資の話が来ます。手元にあると、使ってしまいます。

「あとで払えばよい」と考えていると、翌年に困ります。納付が遅れれば延滞税もかかります。

ミニマムタックスも確認する

金額が大きい場合、いわゆるミニマムタックス(その年分の所得税額の特例)の適用も確認してください。

2025年分から、特別控除3.3億円・税率22.5%で計算した金額が通常の所得税額を上回る場合、その差額を申告することとされています。

2027年分からは1.65億円・30%へ強化されます(2026年9月時点)。

つまり、譲渡の時期によって税負担が変わり得ます。2026年12月31日までの譲渡契約なら現行制度です。

金額が大きい案件では、必ず税理士に試算してもらってください。ミニマムタックスもご覧ください。

ふるさと納税と組み合わせる

負担を和らげる手段の一つです。譲渡益が出た年は、ふるさと納税の上限が大きくなります。

上限は住民税所得割額を基礎に計算されるため、譲渡益による住民税の増加が、そのまま上限の増加につながります。

ただし、確定申告が必要なため、ワンストップ特例は使えません。寄附金受領証明書を保管し、確定申告で寄附金控除として申告してください。

上限額の計算は、必ず税理士に依頼してください。上限を超えた分は純粋な持ち出しになります。譲渡益が出た年のふるさと納税で詳しく書いています。

翌年の資金計画を立てる

最後に、全体の整理です。譲渡の翌年に出ていくお金を、一枚の表にしてください。

所得税・復興特別所得税。確定申告時に納付。

住民税。翌年度に、通常は6月以降に納付書が届きます。

国民健康保険料。加入している場合。

介護保険料。該当する場合。

ふるさと納税の寄附額。年内に支出。

これを合計して、手元に残る金額を計算する。この数字が、引退後の生活設計の出発点です。

税理士と一緒に作ってください。当社は税務顧問業務を行いませんので、先生と並走する形でお手伝いします。

※ 本稿は一般的な考え方をご紹介するものであり、個別の法務・税務アドバイスではありません。実際の取り扱いは会社の状況や契約の定めによって異なります。専門家にご確認ください。

よくあるご質問

A.来ます。所得税は譲渡した年に確定申告して納付しますが、住民税は翌年度に課税されます。株式譲渡益に対する住民税は申告分離課税で5%です。受け取った時点で納税分を分けておいてください。
A.国民健康保険料(税)は前年の所得をもとに算定され、申告分離課税の譲渡所得も算定の基礎に含まれるのが一般的な取り扱いです。譲渡の翌年度の保険料が上限額まで跳ね上がることがあります。料率と上限は市区町村によって異なるためご確認ください。
A.任意継続被保険者(保険料は前年の所得ではなく標準報酬月額に基づいて算定、上限あり)、国民健康保険(前年の所得で算定)、家族の被扶養者(収入要件あり)の3つです。譲渡益が大きい年の翌年は任意継続のほうが有利になる場合があります。制度の詳細と期限は加入先にご確認ください。
A.譲渡益の20.315%(所得税・復興特別所得税・住民税)に、国民健康保険料や介護保険料の増加分を加えた額です。この資金は別の口座に移して動かさないでください。譲渡の後は住宅購入や贈与、投資の話が来ます。
A.譲渡益が出た年はふるさと納税の上限が大きくなります(上限は住民税所得割額を基礎に計算されるため)。ただし確定申告が必要なのでワンストップ特例は使えません。上限額の計算は必ず税理士に依頼してください。超えた分は純粋な持ち出しになります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら