定款は、会社の根本規則を定めた書類です。設立のときに作り、その後は登記に必要な場面でしか開かない——多くの中小企業では、そんな存在ではないでしょうか。

ところが、M&Aの局面では、この定款の記載が手続の進み方を大きく左右します。誰の承認があれば株式を譲渡できるのか。どの機関で何を決議するのか。株券の扱いはどうなっているのか。これらはすべて定款に書かれており、記載どおりの手続を踏まなければ、譲渡の効力そのものに疑義が生じかねません。本稿では、譲渡を検討される経営者様が、事前に確認しておきたい定款のポイントを整理します。

まず、定款の現物を探すところから

実務でしばしば起きるのが、定款の現物が見つからないという事態です。設立から何十年も経ち、事務所を移転し、担当者も代替わりしている——そうした会社では珍しくありません。

この場合、まず確認すべきは設立時の定款(原始定款)の所在です。公証人の認証を受けているため、設立から一定期間内であれば、認証した公証役場に保存されている謄本を請求できる可能性があります。また、設立を依頼した司法書士や行政書士の事務所、顧問税理士の手元に控えが残っていることもあります。

ただし、原始定款が見つかっても、それだけでは足りません。その後に定款変更を行っていれば、現在有効な定款は原始定款とは異なります。商号の変更、目的の追加、機関設計の変更、株式数の変更——変更のたびに株主総会で決議しているはずですから、その議事録も併せて確認する必要があります。

どうしても現物が見つからない場合は、登記事項証明書の記載と、残っている議事録をもとに、現在有効な内容を再構成して定款を整備し直すことになります。手続の要否や方法は状況によって異なりますので、司法書士・弁護士等の専門家にご相談ください。定款が整っていないこと自体はよくある話であり、対応可能な範囲であることがほとんどです。

株式の譲渡制限|誰の承認が必要か

M&Aの手続に最も直結するのが、株式の譲渡制限に関する定めです。中小企業のほとんどは、株式の譲渡に会社の承認を要する旨を定款に定めています。いわゆる非公開会社(全株式譲渡制限会社)です。

ここで確認すべきは、承認を行う機関がどこに設定されているかです。

定款の記載承認を行う機関実務上の注意
「取締役会の承認を要する」取締役会取締役会設置会社であることが前提。取締役が1名しかいない状態では開催できない
「株主総会の承認を要する」株主総会株主全員への招集通知が必要。株主が分散していると手間がかかる
「代表取締役の承認を要する」代表取締役取締役会非設置会社で見られる。要件を満たすか要確認

実務でよくあるのが、定款には「取締役会の承認」と書かれているのに、実際には取締役会を設置していないというずれです。過去に取締役の人数が減り、取締役会設置会社でなくなったにもかかわらず、定款がそのままになっているケースです。この状態では、定款どおりの手続が物理的に踏めません。

また、承認決議の後には株主名簿の書換が必要です。承認の議事録と名簿の書換が揃って、初めて手続が完結します。株式譲渡の承認手続については「M&Aで必要な株主総会・取締役会の決議|株式譲渡承認の実務」で詳しく解説しています。

機関設計|登記と定款が合っているか

機関設計とは、その会社が取締役会・監査役・会計参与などをどう置いているかという設計です。定款と登記事項証明書を並べて、次の点を確認してください。

取締役会設置会社かどうか。登記簿に「取締役会設置会社」の記載があるか。取締役の員数は定款の定めを満たしているか(取締役会設置会社では3名以上が必要です)。

監査役の有無と任期。監査役を置く旨の定めがあるのに、実際には空席になっていないか。任期が満了したまま再任の登記をしていない役員はいないか。

取締役・監査役の任期。非公開会社では任期を最長10年まで伸長できますが、定款で伸長しているかどうかは会社によって異なります。任期満了後に選任決議と登記を怠っていると、役員変更登記の懈怠という状態になります。

M&Aの局面では、買い手側の弁護士や司法書士がこれらを確認します。不一致が見つかれば、クロージングまでに是正するよう求められるのが通例です。是正には株主総会の決議と登記が必要になり、日数を要します。気づくのが遅れるほど、決済日の日程に影響します。

※ 本稿は定款に関する一般的な実務の考え方をご紹介するものであり、個別の法務アドバイスではありません。必要な手続や登記の要否は会社の状況および適用される法令によって異なります。実際の対応にあたっては、必ず司法書士・弁護士等の専門家にご確認ください。

株券・相続人等への売渡請求・その他の定め

定款には、M&Aに影響し得る定めがほかにもいくつかあります。

株券を発行する旨の定め。会社法施行前から存在する会社には、経過措置により株券発行会社とみなされているものが多くあります。実際には株券を発行していないのに定款上は発行会社、という状態では、譲渡の効力に疑義が生じるため、株券不発行会社への定款変更を行うのが実務上の対応です。詳しくは「株券発行会社の株式譲渡|株券不発行への変更と紛失したときの対応」をご覧ください。

相続人等に対する売渡請求の定め。株主に相続が発生した場合、会社が相続人に対して株式の売渡しを請求できる旨の定めです。株式の分散を防ぐために有用な定めですが、代表者自身に相続が発生したときに、想定外の事態を招く可能性があることが知られています。事業承継の設計と併せて検討すべき論点ですので、専門家にご相談ください。

事業目的の記載。登記された事業目的が、実際に行っている事業を含んでいるか。許認可が必要な事業では、目的の記載が許認可の要件になっていることがあります。実際の事業と目的がずれていると、買い手から指摘を受けることがあります。

公告方法。官報か、日刊新聞紙か、電子公告か。定款変更や組織再編の手続で公告が必要になる場面があり、その方法によって期間や費用が変わります。

決算期。買い手のグループに入る場合、決算期を合わせるために変更を求められることがあります。決算期の変更は定款変更事項です。

いつ、何から着手するか

定款の確認は、M&Aを具体的に進める前に済ませておきたい作業です。着手の順序としては、次のように進めるとスムーズです。

① 登記事項証明書を取る。法務局で取得できます。ここには、商号、目的、機関設計、役員、株券発行の定め、公告方法など、主要な情報が載っています。まずこれを手元に置いてください。

② 定款の現物を探す。金庫、書庫、顧問税理士の事務所、設立を依頼した専門家の事務所。見つかったら、登記事項証明書と突き合わせます。

③ 変更の履歴を確認する。定款変更を決議した株主総会の議事録が残っているか。残っていなければ、登記の履歴から変更の時期を追えます。

④ ずれを一覧にする。定款と登記、定款と実態(役員の人数、取締役会の運用など)のずれを書き出します。

⑤ 専門家に相談する。ずれの是正に何が必要か、どれくらいの期間がかかるかを確認し、対応の計画を立てます。

これらの作業は、売却を決めていない段階でも進められます。むしろ、買い手との交渉が始まってから着手すると、他の作業と重なって負担が集中します。事業承継の準備として、時間のあるうちに整えておくことをおすすめします。議事録や社内規程の整備については「議事録・押印書類が残っていない会社|M&A前に整えておくこと」もあわせてご覧ください。

まとめ|会社の設計図を、一度読み返す

定款は、会社という器の設計図です。日々の経営ではほとんど意識されませんが、株式を動かす場面では、この設計図に書かれたとおりの手順を踏むことが求められます。

確認すべき点をもう一度整理すると、株式の譲渡制限と承認機関機関設計と登記の一致株券発行の定め事業目的と実態の整合——この四つです。いずれも、登記事項証明書と定款を並べれば確認できます。

ずれが見つかっても、慌てる必要はありません。中小企業では、長年のあいだに定款と実態が離れていくのはごく普通のことです。大切なのは、M&Aの最終局面ではなく、早い段階で気づいておくこと。是正には決議と登記が必要で、日数がかかるからです。

当社プラチナパートナーズでは、譲渡のご相談をいただいた早い段階で、定款・登記・株主名簿の状況を確認し、必要な整備を提携する司法書士・弁護士等の専門家とともにお手伝いしています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。「定款がどこにあるかわからない」という段階でも、どうぞお気軽にご相談ください。

よくあるご質問

A.まず設立時の定款(原始定款)を、認証した公証役場、設立を依頼した司法書士・行政書士の事務所、顧問税理士の手元などで探してみてください。見つかった場合も、その後の定款変更があれば現在有効な内容とは異なるため、変更を決議した株主総会議事録と登記の履歴を併せて確認します。どうしても見つからない場合は、登記事項証明書と残存する議事録をもとに整備し直すことになりますので、司法書士等の専門家にご相談ください。
A.定款どおりの手続が踏めない状態ですので、是正が必要です。過去に取締役の人数が減り、実態として取締役会設置会社でなくなったにもかかわらず定款がそのままになっている、というケースは中小企業でよく見られます。株主総会の決議と登記によって定款の定めを実態に合わせる必要があり、日数を要しますので、M&Aの日程から逆算して早めに着手してください。
A.間に合う場合もありますが、早めに着手されることを強くおすすめします。是正には株主総会の決議や登記が必要で、一定の日数がかかります。買い手との交渉やデューデリジェンスの対応と重なると負担が集中し、クロージングの日程に影響することもあります。売却を決めていない段階でも、登記事項証明書と定款を突き合わせておくだけで、後の進行がずいぶん楽になります。

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Author & Supervisor

執筆・監修:株式会社プラチナパートナーズ 取締役副社長 神垣 宏康

東京都千代田区(日比谷)のM&A仲介・事業承継アドバイザリーファーム、株式会社プラチナパートナーズ取締役。成功報酬型のもと、中小企業の事業承継・会社売却を初回相談から成約まで一気通貫で支援しています。役員紹介・会社概要はこちら