自動車部品の製造は、日本の製造業のなかで最も大きな裾野を持つ分野です。同時に、電動化という構造変化のただ中にあり、「10年後もこの部品は必要か」という問いを避けられない業界でもあります。本稿では、公表資料をもとに現在地と論点を整理します。
自動車関連産業の現在地|製造業で最大の出荷額
総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」によると、輸送用機械器具製造業の製造品出荷額等は79兆8417億円(2023年)で、製造業全体の21.4%を占め、産業中分類のなかで最大です。前年比13.2%増と大きく伸び、構成比も1.9ポイント上昇しました。付加価値額は20兆3709億円(構成比18.4%)、こちらも最大です。
事業所数は1万1305事業所(製造業全体の5.1%)で前年比0.0%と横ばい、従業者数は106万7909人(2024年6月1日現在)で前年比1.0%増となりました。従業者数は食料品製造業に次いで2番目に多く、雇用の受け皿としての役割の大きさが分かります。
ただし、この統計は完成車メーカーを含む数字です。部品を供給する中小メーカーの実感とは、必ずしも一致しません。出荷額が伸びた背景には、完成車の生産回復と単価上昇の影響があり、その恩恵がサプライチェーンのどこまで及んだかは、会社によって差があります。
国内生産台数の動き
国内の生産台数については、一般社団法人日本自動車工業会が統計を公表しています。同工業会によれば、2025年の四輪車の国内生産台数は841万334台で前年比2.1%増となり、2年ぶりに増加しました。
前年の2024年は823万4645台で前年比8.5%減と、2年ぶりの減少でした。車種別では乗用車が713万9188台(前年比8.1%減)、トラックが99万4617台(同11.8%減)、バスが10万840台(同4.3%減)でした。
2024年の落ち込みには、一部メーカーの生産停止の影響も含まれます。部品メーカーにとっては、自社の努力とは関係のないところで稼働が変動するという、この業界特有のリスクが表れた年でもありました。
関連して、一般社団法人日本自動車タイヤ協会の「日本のタイヤ産業2025」によれば、2024年の自動車タイヤ生産実績は1億2236万本で前年比5.8%減、3年連続で前年を下回りました。完成車の生産動向が、部品・資材の各分野にそのまま波及することが分かります。
電動化の政策目標と、部品への影響
政策面では、電動化の目標が明確に示されています。
経済産業省のグリーン成長戦略では、乗用車について2035年までに新車販売で電動車100%を実現するという目標が設定されています。商用車についても、小型車(8トン以下)は2030年までに電動車20〜30%、2040年までに電動車・脱炭素燃料車100%を目指すとされ、大型車は2020年代に5000台の先行導入を目指すとともに、2030年までに2040年の電動車普及目標を設定することとされています。
ここでいう「電動車」にはハイブリッド車も含まれるため、内燃機関がただちに不要になるわけではありません。しかし、方向として、エンジン・変速機・排気系に関わる部品の需要が長期的に縮小していくことは、多くの部品メーカーが前提として置いています。
一方で、電動化によって新たに増える部品もあります。電池関連、駆動系、熱マネジメント、軽量化部材、電子制御関連——これらは需要が伸びる領域です。自社の製品がどちらに属するのかを冷静に見極めることが、事業の将来を考える出発点になります。
経営環境|価格転嫁は進んだが、投資判断は難しい
コストの転嫁については、中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%、原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%でした。同調査の業種別集計では、自動車・自動車部品は上位に位置しています。取引適正化の取り組みが一定の成果を上げていることがうかがえます。
2026年1月1日からは、下請法が「中小受託取引適正化法」として施行され、協議に応じない一方的な代金決定の禁止、手形払等による支払いの制限などが盛り込まれました(公正取引委員会・中小企業庁)。長年の慣行として残ってきた支払条件が見直される契機となり得ます。
投資判断の難しさ
転嫁が進んでも、投資判断が容易になるわけではありません。既存部品の設備を更新すべきか、新分野の設備に投資すべきか、そもそも投資せずに事業を縮小すべきか——この判断は、経営者様ご自身の残り任期と切り離せません。後継者が決まっていない会社ほど、判断が先送りされる傾向があります。
事業承継の観点|10年後も必要とされる部品か
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。自動車部品メーカーの承継では、「10年後もこの部品は必要とされているか」という問いに、経営者様自身が答えを出す必要があります。
この問いに向き合った結果として、M&Aを選ばれる会社には共通する動機があります。
- 既存部品の需要が長期的に縮む見通しのなかで、単独では新分野に転換できない
- 取引先から品質・BCP・脱炭素の対応を求められ、体制の維持が難しい
- 設備投資の回収期間が、自身の経営期間を超えてしまう
- 技能を持つ従業員の雇用を、確かな形で守りたい
逆に、他社が持たない加工技術、量産に耐える工程管理、電動化で需要が伸びる分野への実績がある会社は、引き継ぎ先の関心を集めやすい傾向があります。ただし、業種別の平均的な譲渡価格や倍率は信頼できる公表統計がないため、当社では個別の事業内容と収益構造に即して検討しています。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 製品 | 部品別の売上構成、搭載車種と生産終了予定、電動化での位置づけ。 |
| 取引先 | 取引先別の売上構成と依存度、直近の受注獲得・失注の状況、価格改定の実績。 |
| 設備・金型 | 設備の設置年と更新見込み、金型の所有関係と保管責任、休眠金型の数量。 |
| 品質 | 品質マネジメントの認証、不具合・リコール関連の履歴、工程能力のデータ。 |
| 補給品 | 生産終了後の補給部品(サービスパーツ)の供給義務と、その期間・数量。 |
| 労務 | 交代勤務の割増賃金、外国人材の就労資格、技能者の年齢構成。 |
とくに補給部品の供給義務は、この業界に固有の論点です。量産が終わった後も長期にわたって供給を求められる場合があり、その負担と収益性を整理しておく必要があります。
自動車関連の他分野については「自動車販売業のM&A」でも取り上げています。当社プラチナパートナーズは、自動車関連企業の事業承継をご支援しています。相談料・着手金・月額報酬は0円です。
本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。