ゴム製品は、タイヤから工業用ゴム部品、ホース、パッキン、ベルト、防振ゴムまで幅広い分野を含みます。多くは自動車をはじめとする他産業の需要に支えられており、そのぶん外部環境の影響を受けやすい業界です。本稿では、公表資料をもとにその構造を整理します。
ゴム製品製造業の現在地
総務省・経済産業省「2024年経済構造実態調査(製造業事業所調査)」によると、ゴム製品製造業の事業所数は2380事業所で製造業全体の1.1%、従業者数は11万5169人(2024年6月1日現在)、製造品出荷額等は3兆9530億円(2023年)、付加価値額は1兆4642億円でした。
変化をみると、事業所数は前年比0.5%減となった一方、従業者数は前年比0.4%増、製造品出荷額等は前年比6.3%増、付加価値額は前年比1.3%増と、金額ベースでは伸びています。出荷額の伸びに比べて付加価値額の伸びが小さい点は、原材料価格の上昇分がそのまま売上に乗った可能性を示唆します。
事業所数が2380と、製造業のなかでは小さな分野です。しかし、自動車、建設機械、産業機械、住宅設備といったあらゆる製品にゴム部品は使われており、供給が止まれば影響は広範囲に及びます。産業の規模と重要性が一致しない分野の典型といえます。
タイヤが業界の大半を占めるという構造
ゴム製品製造業のなかで、タイヤが占める比重は圧倒的です。
一般社団法人日本自動車タイヤ協会(JATMA)の「日本のタイヤ産業2025」によれば、2024年のゴム製品製造業に占めるタイヤ産業の割合は、原材料消費量(新ゴム量)で80.0%(前年から0.2ポイント減)、製品出荷金額で56.1%(同0.5ポイント増)でした(いずれも経済産業省生産動態統計に基づく数値、運搬車用タイヤ・チューブ・フラップ等を除く)。
裏を返せば、中小のゴム製品メーカーが属しているのは、金額ベースで4割強の「非タイヤ」の領域だということです。この領域は、工業用ゴム部品、シール材、ホース、ベルト、ゴムライニング、雑貨など多様で、それぞれ顧客も競争環境も異なります。
統計上は同じ「ゴム製品製造業」でも、タイヤの動向と工業用ゴム部品の動向は別物です。業界の平均値を自社に当てはめる際には注意が必要です。
自動車産業との連動と、その先にある変化
ゴム製品の需要は、自動車産業の動きに強く連動します。
一般社団法人日本自動車工業会によれば、2025年の四輪車の国内生産台数は841万334台で前年比2.1%増となり、2年ぶりに増加しました。前年の2024年は823万4645台で前年比8.5%減でした。
この変動は、タイヤの生産にも表れています。JATMAの前掲資料によれば、2024年の自動車タイヤ生産実績は1億2236万本で前年比5.8%減となり、3年連続で前年を下回りました。新車用タイヤの販売実績は3805万本で前年比8.5%減、市販用タイヤは6628万本で同1.2%減でした。
電動化が意味すること
経済産業省のグリーン成長戦略では、乗用車について2035年までに新車販売で電動車100%を実現するという目標が示されています。電動化によって、エンジン周りのゴム部品(オイルシール、ホース、防振ゴムの一部)は需要が変化する可能性がある一方、静粛性や重量増に対応する部材、電池周辺のシール材など、新たに求められる領域もあります。
自社の製品がどちらに属するのかを見極めておくことは、事業の将来を考えるうえで欠かせません。
経営環境|原材料価格とエネルギー、そして転嫁
ゴム製品の原材料は、天然ゴム、合成ゴム、カーボンブラック、各種配合剤です。天然ゴムは国際商品市況の影響を受け、合成ゴムは原油価格と連動します。いずれも自社では制御できない要因で変動します。
加えて、加硫工程では熱と電力を使うため、エネルギーコストの比重も小さくありません。
中小企業庁「価格交渉促進月間(2025年9月)フォローアップ調査結果」(2025年11月28日公表)によれば、コスト全般の価格転嫁率は53.5%、要素別では原材料費55.0%、労務費50.0%、エネルギーコスト48.9%でした。
2026年1月1日から施行された「中小受託取引適正化法」(旧下請法)では、協議に応じない一方的な代金決定が禁止されました(公正取引委員会・中小企業庁)。原材料市況の変動を価格に反映させる仕組みを取引に組み込む交渉は、以前より進めやすくなっています。
事業承継の観点|配合という見えにくい資産
帝国データバンクの2025年調査によれば、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。ゴム製品メーカーの承継で最も難しいのは、「配合」という資産の引き継ぎです。
ゴムの性能は、ポリマーの選択、充填剤や加硫剤の配合比率、混練の条件、加硫の温度と時間によって決まります。この組み合わせは、多くの会社で長年の試行錯誤の蓄積であり、文書に残っていても、なぜその配合なのかという背景まで記録されていることは稀です。
買い手が懸念するのは、まさにここです。「配合を決めてきた方が退いたあと、同じ製品をつくり続けられるのか」。この不安を和らげるために、承継の準備段階でできることがあります。
- 製品ごとの配合表と、その配合に至った経緯を記録する
- 混練・加硫の条件と、条件を外れたときの製品への影響を整理する
- 顧客の承認を得た仕様(材料規格、試験項目、合格基準)を一覧にする
- 原材料の代替候補と、過去に切替を行った際の記録を残す
すべてを文書化することは難しくても、「何が文書になっていて、何が人に依存しているか」が整理されているだけで、買い手の見通しは立ちます。
M&Aで引き継ぐときに整理しておきたいこと
買い手が確認する主な項目です。
| 領域 | 整理しておきたいこと |
|---|---|
| 製品・配合 | 製品別の売上と粗利、配合表と製造条件の文書化、顧客承認仕様の管理。 |
| 金型 | 金型の所有関係(顧客/自社)、保管責任、休眠金型の数量と処分方針。 |
| 設備 | 混練機・成形機・加硫設備の設置年と稼働率、排気・防音設備の状況。 |
| 取引先 | 取引先別の売上構成と依存度、業種の分散状況、価格改定の実績。 |
| 原材料 | 主要原材料の調達先と代替可能性、価格変動の反映方法。 |
| 労働安全 | 化学物質のリスクアセスメント実施状況、有機溶剤・粉じんに関する健康診断と作業環境測定。 |
労働安全衛生法に基づく新たな化学物質規制は2024年4月1日から全面施行されており、配合剤や溶剤を扱う現場では、リスクアセスメントの実施と記録が求められます。この対応状況も確認事項のひとつです。
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本稿の記述は執筆時点(2026年9月)の公表資料に基づきます。最新の情報は各所管官庁の公表をご確認ください。統計は調査時点・集計範囲により数値の定義が異なるため、個別の判断にあたっては原典および専門家へのご確認をお願いいたします。